国リハニュース

第374号(令和6年春号)特集

特集『高次脳機能障害 リハビリテーション医療と障害福祉サービス』

失語症のリハビリテーションとICT利活用

病院 リハビリテーション部 言語聴覚士長 大畑 秀央

 失語症は高次脳機能障害の一つで、大脳の言語野の損傷による言語機能の障害であり、周囲とのコミュニケーション障害、情報障害を生じ、社会生活での活動や参加に多大な影響を及ぼします。失語症のリハビリテーションチームでは、言語聴覚士(ST)が失語症のある人に個別のリハビリテーションプログラムを提供してきましたが、近年ではパソコンやインターネットによる情報通信技術(Information and Communication Technology: ICT)が活用されています。失語症のある人を対象に開発されたアプリケーション(アプリ)やデバイス、Webサイトなどには、ActVoice Smart、(https://escor.co.jp/products/products_item_ActVoiceSmart.html)、言語くん(https://gengokun.com)、コミュリハ(https://eastpons.com/app/commrehab/index.php?lang=ja)などがあります。

 専門的な機器がなくても、ICTは失語症のある人にとっても、会話を支援する人にとっても有用です。一般の人にもスマートフォンやタブレットで活用できる方法に、以下のようなものがあります。

  • 写真

 失語症のある人は、言葉をうまく想起できないことがありますが、伝えたい物事を写真に撮っておけば、それを見せて伝達できます。またLINEなどのメッセージアプリでは写真で送ることで、文字では伝えにくい内容も伝えることができます。会話を支援する側の場合は、インターネット画像検索で写真を検索して見せると、失語症のある人は話題を理解しやすくなります。建物や場所の話をする時は、写真だけでなく、地図アプリで地図を見せることもできます。

  • 音声入力

 音声認識・文字変換機能では、音声で文字を入力できます。失語症のある人は、言えるけれども文字(特に漢字)が思い浮かべられないことがありますが、この機能によって音声を文字に変換できます。会話を支援する側の場合、失語症のある人に文字を書いて見せて理解を手助けしますが、この時に音声入力を使用して文字を示すこともできます。この音声入力(音声認識・文字変換)に特化したアプリに、UDトーク(https://udtalk.jp)などがあります。ただし誤認識や、不要な情報まで音声入力されることで混乱を招くことがあるので、注意が必要です。要点を絞って伝えることや、紙に書いて伝えるアナログな方法が有効な場合があります。

  • 光学式文字読み取り(OCR: optical character reader)・音声読み上げ

 失語症のある人は、漢字の音読が難しいことがあります。カメラのOCR機能を利用したアプリに、漢字検索(https://www.telethon.jp)というアプリがあります。カメラでスキャンすることで文字を認識し、漢字に振り仮名を振ってくれるので、仮名を見て音読したり、それを音声で読み上げて聞くことで、復唱によって音声での表出に繋げることができます。また漢字の理解が難しい人の場合は、音声を聞くことで理解できることがあります。

 失語症のリハビリテーションでは、失語症のある人の生活機能、環境因子、個人因子を考慮してプログラムを立てます。失語症のある人には、病前からパソコンなどICTを活用している方がいらっしゃいますし、使うことが難しい場合でも、会話相手がICTを使えれば、環境因子を改善することで失語症のある人がコミュニケーションしやすい社会になります。失語症のある人と会話する上では、その人の思いを知りたいという気持ち、失語症の正しい知識、適切な会話技術が大切です。ご紹介した内容はあくまで一例ですが、このようなICTが会話技術の一助になればと思います。