国リハニュース

第374号(令和6年春号)特集

特集『高次脳機能障害 リハビリテーション医療と障害福祉サービス』

職場において周囲の人が『わかりにくい』障害

自立支援局 理療教育・就労支援部 就労移行支援課 主任職業指導専門職 近藤 和弘

 当センターでは、障害者に対して就労移行支援(当センターホームページ参照)を行っており、今回は、高次脳機能障害者に対する支援、特に、就職先の担当者が、採用時や雇用継続のために留意すべき点について報告します。

 高次脳機能障害者が働く場面での一番の課題は、周囲の人に障害があることが『わかりにくい』認知面の障害であることです。特に、身体上の障害がない、もしくは軽度である場合には、周囲の人が、障害があることに気づかず、必要な配慮や対応が理解されにくいことに繋がっています。

 働く場面で生じる具体的な『わかりにくい』状況と、その理由や対応策について説明します。

1「少し手足が不自由かなと思うけど本人は大丈夫という。が、思ったほど作業ができない」
・見た目以上に、手指の微妙な力加減が難しく苦労している場合や、利き手に麻痺があり、利き手でない手を主体に作業をしている場合があります。
→作業の細かさや作業速度等を勘案して、本人の可能な範囲で作業内容や工程数の検討、自助具の使用により作業に取組みやすくなります。

2「物を落としても気づかない。視力は問題ないと聞いているが、人や机にぶつかることがある」
・本人から見て、左右のどちらか側が見えていない場合(半側空間無視)や、視力はあっても、視野に障害がある場合があり、例えば、自分の手元が見えていないこともあります。
→半側空間無視がある場合は、見える側から声をかけることや、見える範囲で作業環境を整えることで作業がしやすくなります。

例3「指示をすると、返事はするができていない」
・複数の指示に対して、そのすべての指示内容を一度に理解することが苦手な場合があります。
→指示は、一つ一つを順番に出すと、理解が進み作業に集中して取り組めます。

例4「わからないのであれば、メモを取ればいいのに」
・口頭で指示されたことを、頭の中で要点をまとめて、メモにすることが苦手な場合があります。メモを取りたいと言えない場合もあります。
→メモを取るように促し、メモの時間を確保すると落ち着いてメモができます。メモの内容から本人の理解度が相互に確認できます。

例5「普段の仕事はできているのに、明日予定していた仕事を急ぎ頼んだところできなかった」
・臨機応変な対応が苦手な場合があり、急な予定の変更やせかされた状況になると、パフォーマンスの低下・作業不能につながります。
→1日の作業スケジュールを図や表にし、終了した作業にチェック印をつけると指示者と本人とで進捗状況が確認できます。変更がある場合は、あらかじめ説明しておくと対応しやすくなります。

例6「仕事の質にむらがある。集中して仕事ができていない」
・集中しにくい、逆に集中しすぎる場合があります。
・身体的な疲労のしやすさや確認作業を頻繁に行う場合は、頭が疲労しやすくなります。
→本人自身もどれだけ疲れているのかわからず、気づいた時には体力を使い果たしてしまう場合があります。適切に休憩するために1日の作業スケジュール表に「休憩」を組み込む方法もあります。

 上記の『わかりにくい』状況は、1つだけでなく多くの方が複数有しています。高次脳機能障害の方について新規雇用を考えている又は、継続雇用している会社の方の参考としていただき、本人、支援機関、会社の3者で相談の上、必要な対応や配慮について検討いただくことで、就労促進や継続就労につながることを期待します。

(参考)
〇支援機関
・障害者就業・生活支援センター(http://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18012.html
・障害者就労支援センター(市町村によっては設置しているところがあります)
・地域障害者職業センター(http://www.jeed.go.jp/jeed/location/loc01.html#03

〇情報
高齢・障害・求職者雇用支援機構(http://www.jeed.go.jp)は、多くの高次脳機能障害者の雇用例を報告しています。