国リハニュース

第374号(令和6年春号)特集

特集『高次脳機能障害 リハビリテーション医療と障害福祉サービス』

高次脳機能障害者の自動車運転

自立支援局 第二自立訓練部 肢体機能訓練課 自動車訓練室 作業療法士 水谷 宣昭

 安全な自動車の運転には「認知・予測・判断・操作」が求められ、高次脳機能が大きく関わります。脳卒中や頭部外傷が原因で、高次脳機能が上手く働かないと自動車運転に影響を与えることが考えられます。そのため、高次脳機能障害のある方の自動車運転は慎重な判断のもと、適切な手続きが求められます。

 道路交通法施行令では、「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」として「自動車等の安全に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある病状を呈する病気」が定められています。高次脳機能障害の原因疾患に多い脳出血や脳梗塞は、「一定の病気」に該当し、自動車運転をする場合には、住所地の安全運転相談窓口での相談が必要となります。

 当センターの自動車訓練室では、通所できる高次脳機能障害がある方に対して自動車運転に関する支援を実施しています。近年、多くの高次脳機能障害がある方に自動車運転評価・訓練を利用していただいています。自動車訓練室での自動車運転支援について紹介します。

1.自動車運転評価の内容

(1)運転適性評価
①警視庁方式運転適性検査K-2のペーパー検査
②警視庁方式CRT運転適性検査
③視力検査、夜間視力、視野検査などの視覚検査
④運転操作測定器による運転操作力の評価
⑤記憶に関する評価

(2)実車評価
 実車評価は、所内コースで自動車を運転したときの運転内容について、運転基礎感覚評価表に基づいて評価を実施しています。評価項目は、①発進と駐車、②合図、③安全確認と範囲、④走行位置感覚、⑤走行速度の基礎的な課題で構成されています。各項目の課題の遂行が可能か否かを客観的に評価しています。

2.自動車運転評価結果の内容

 自動車運転評価を基に現在の自動車運転について判定を行います。  
①現状では、安全運転をするのは難しいと思われる。
②おおむね〇ヵ月後再評価を受けたほうが良いと思われる。
③実車での運転訓練等が必要と思われる。
④条件付で運転が可能と思われる。
⑤問題ないと思われる。

 ※当センターで実施した自動車運転評価・訓練は、自動車運転の可否を決定するものではありません。自動車運転評価結果については、担当の医師等が自動車運転の可否を判断する際に利用されています。

3.自動車運転訓練の内容

 自動車運転評価の結果、実車での運転訓練が必要な場合は、当センターにある所内コースや一般道路で運転訓練を行います。

(1)所内コースでの運転訓練
 所内コースでの運転訓練の目的は、直線路、曲線路、交差点、狭路、障害物通過、後退の課題で訓練を反復して行い、運転操作、車両感覚、後退誘導、道路交通法に従った運転技能を獲得することです。

(2)一般道路での運転訓練
 一般道路での運転訓練の目的は、市街地、住宅地、郊外、山坂道、高速道路を走り、交通場面に応じた危険を予測できる運転技能を獲得することです。最終的に、障害特有の運転課題を確認し改善することで、道路交通法に従った運転方法の獲得ができたら訓練を終了します。
  
 当センター利用までの流れは(図1)のように、まず主治医やご家族等と自動車運転について相談をしてからご連絡ください。自動車運転評価時間は、平日午後13時~16時(3時間程度)、費用は1回1,500円、運転訓練1時限(50分)2,200円です(2024年3月現在)。病気や事故などで高次脳機能障害になられた方で自動車運転についてお困りのことがあれば電話相談も行っていますのでご連絡下さい。

自動車運転までの流れの図

図1 自動車運転までの流れ