[海外レポート] |
第23回国際重力生理学会参加報告 |
研究所 中澤 公孝 |
第23回国際重力生理学会(International Symposium on Gravitational Physiology)が去る6月27日、スウェーデンのストックホルム、カロリンスカ研究所にて行われました。
重力生理学とは耳慣れない単語ですが、主に重力とそれに関連する環境因子が人間を含めた生物の生理機能に与える影響に関する研究領域を指します。
これがリハビリテーションとどう関係するのかはさらに遠い感じがします。
しかし実際にはかなり近い関係にあるといえます。
例えば、重力生理学の研究者は宇宙の無重力空間に人間が長期滞在したときに、筋肉や骨などの運動器がどのような影響を受けるのかを研究します。
そのような状態は、例えば病気で長期間寝たきりになった状態や、麻痺のため身体の一部を長期にわたってまったく使わなくなる状態と似ています。
無重力空間で何ら特別なトレーニングをしないでいると、筋は萎縮し、骨は密度が減ってもろくなります。
そこでどのようにトレーニングを行えばそれらの変化を食い止めることができるのか、という臨床的な研究テーマがでてきます。
これはちょうど、どのようにして麻痺部位を訓練したらいいのか、寝たきりにならないようにするにはどの位の運動をどのように行えばいいのか、といったリハビリテーション分野での課題とオーバーラップします。
今回の学会では、アメリカ、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)のEdgerton教授が、脊髄損傷者の歩行リハビリテーションと重力生理学研究の関連について講演しました。
彼はこの学会の役員で、来年のシンポジウムの会長でもあります。
トレッドミルを用いた脊髄損傷者の免荷式歩行トレーニングに関する研究や、動物を用いた脊髄の学習能力、神経筋生理に関する基礎的研究は国際的に高く評価されており、まさに脊髄損傷のリハビリテーション研究において世界をリードする研究者の一人といえます。
彼が重力生理学会の枢要なポジションを長らく務めていること自体、重力生理学とリハビリテーションが緊密な関係にあることを象徴的に表しているといってもいいでしょう。
筆者と研究所の三好 扶は身体の各種センサーによって検知される重力に関連する情報が、立位姿勢保持や歩行を行うときに主要に用いられる筋の活動にどのような影響をもつのかについて、最新の研究成果を報告しました。
これらは言うまでも無く、立位姿勢保持や歩行のリハビリテーションへの応用をめざした研究です。
来年は前記したようにEdgerton教授が会長となってこの学会を開催しますので、脊髄損傷のリハビリテーションに関連する話題も多く提供されることが予想されます。
機会が得られれば、次回も研究発表するとともに、この分野の最新の情報を収集して来たいと思います。