[随想]
「里山ボランティア」
相談判定課長  松岡 利男



 前の勤務地福岡にいるとき市の主催で「緑と花の応援団」ボランティア養成講座なるものが開催され、 花や植木の手入れの参考にでもなればと気楽に応募したところなんと応募者多数の中から当選したのです。
 以前から単身赴任で気ままに九州各地の山を登り、大自然からいただく大いなる恵みに感謝しつつ、 何か地球に恩返しができないものか(ちょっと大袈裟)と思っていたので応募したわけです。 それとこの講座で花や庭木の手入れについても勉強できればと喜んで出かけとところ、 一向に花と庭木には行き着かないのです。講座の主な内容は、自然とは何か、里山の現状、 NPOやナショナルトラストとは、生物の多様性についてなどかなり専門的な話で面食らいました。 それでは花と庭木はどうなるのかと聞いたところ、それは別の場所でどうぞとのことでした。
 ところが里山だとか生物の多様性等の話も結構面白いのです。 後から聞いた話ですが主催者側は環境ボランティアとして幅広く興味を持ってもらうために講義の中心に基本的課題を据えたのです。 あとは実践的な活動を通して技術的側面は覚えればよいとの考えでした。 ですから今でも覚えているのは生物の多様性ということで、生物は個々に存在するものでなく、 多くの生物が共存することで存在している。 同じような種でも環境に適応して生きてきたので例えメダカでも安易によそから持ってきて放流するとそこにいる固有種に影響がでてしまう。 またなにが自然なのかという疑問に対して、屋久島の原生林だけが自然ではなくレベルがあり、 里山のように江戸中期から人が経済活動の場として手入れをしてきた場所にはそれなりの生態系ができているとのことでした。 そこで、講座終了後早速里山ボラに参加したわけです。
 一つは福岡市の中央部に位置して市の自然保護指定地区である鴻巣山というのがありまして、 山が荒れているので何とかしようと結成されたのが「こうのす里山クラブ」で、 九州芸工大の指導の下に隔月に山には入って雑木林の整備作業をしました。
 もう一つは福岡市の西区に九州大学移転地があり、ここは里山を造成して大学を作ろうとのことですが、 キャンパス内に元の自然を残そう、そこにいる生物を守ろうとの目的で「福岡グリンヘルパーの会」があり、 これに参加しました。これも隔月活動で、生活に支障のない範囲で山に入ったわけです。
 もともと自然の中が好きなものですから活動自体は結構体力がいりましたが、山の現状から教えられるもの、 参加者から聞く自然の話など想像以上に楽しい活動でした。 参加者はどちらかというと年輩の方が多いのですが普段の仕事場とは全く関係のない方たちとの話は別の世界を見ることができたり、 「お役人はね」等と自分の世界を別角度から見た話を聞いたりと大変参考になりました。 考えてみると自然の中でいろいろな生物が互いに作用して共存する生物の多様性が人間社会の中でも同様に、 あんな考え、こんな考えといろいろな人がいて私たちの社会ができてるなと実感できました。
 話変わって、里山ボランティアは地方よりも東京近郊が先進地とのこと。 昭和30年代まではまだ炭焼きをしていたり、堆肥にする落ち葉を取ったり、竹林でも筍生産と、 里山は経済活動の一部だったそうです。それがここ2〜30年の間に石油燃料や化学肥料、 農業の衰退など急激な変化で見放された山が増え、いつの間にか暗い森になってしまいました。 そんな中で、あまり自然が豊かでない東京人が自然に対して割と執着心が強いというのも分かるような気がします。 無くなって初めて気がつくパターンです。私もまた機会が有ればもう一度里山ボランティアをやってみようと思っています。