〔学院情報〕
平成14年度 身体障害者福祉関係職員
実務研修会実施報告
学院事務室



 当センター学院が、昨年10月下旬から11月に開催しました、盲ろう者通訳 ガイドヘルパー指導者研修会(後期)、理学療法士研修会及び、言語聴 覚士研修会の実務研修会について、その概要をとりまとめましたので、ご紹 介いたします。なお、これらの研修会の日程表は、 別表1別表2及び 別表3別表4のとおりです。



 
平成14年度 盲ろう者通訳ガイドヘルパー指導者研修会について
学院 視覚障害学科
教官 松崎 純子

 盲ろう者通訳ガイドヘルパー指導者研修会が平成14年6月3日(月)から 7日(金)と10月28日(月)から11月1日(金)の前期・後期の二期にわたっ て開催されました。
 この研修会は地域においてガイドヘルパーとして従事している方や施設 等において盲ろう者の通訳介助業務に従事している方などを対象として実 施しています。今年度は全国各地から前期19人、後期18人の参加を得ま した。
 盲ろう者と一口に言っても様々な障害の程度があります。また、その障害 の程度や受傷した時期により様々なコミュニケーション手段があります。 通訳者は盲ろう者に合わせて、手書き文字(手の平などに指先で文字を書く)、 点字や指点字(盲ろう者の指を点字タイプライターのキーにみたてて指先を たたく)、手話や触手話、音声通訳、筆記やパソコン通訳といった手段に精通 している必要があります。また、ガイドヘルパーとして盲ろう者を安全に目的地 に案内できる技術も求められます。
 初年度の平成9年は5日間のみの研修で、この短い期間でこれらの手段 や技術を習得するのは困難でした。そのため、翌年から前後期の二週間で 一つのプログラムとなりました。
 前期は主に盲ろう者について理解を深める講義や、通訳に必要なコミュニ ケーション手段に関するガイダンスが中心です。これらのコミュニケーションを 自習する期間をはさんで、後期は実習・実技が中心となります。研修室を 舞台にして盲ろう者とのコミュニケーション実習、次に実際に盲ろう者を目的 地まで案内しながらのコミュニケーション実技を行います。
 今年度の実技は盲ろう者の講師一人含めた5グループに分かれて、ファミ リーレストランでのモーニングからスタートしたグループやセンター見学、 日本点字図書館や埼玉副都心、都内の電気店などを訪ねたグループなど があり、ゴールは東京大学というコースでした。
盲ろう者通訳ガイドヘルパー指導者研修会の様子  受講生の多くは各地で盲ろう者と係わって、実践活動をなさっているので、 熱心に取り組んでおられました。また、前・後期とも実際場面での盲ろう者 とのやりとりや、各地で抱えている問題など具体的で切実な質問や議論が 多くかわされました。
 後期は殊に受講生から満足したという感想が得られましたが、それは 講師の多くが盲ろう当事者であり実習や実技を通じて、コミュニケーションし、 触れ合うことができたこと、また講義や質疑で生の声が得られたことによると 思われます。
 この研修会は6回を数え、プログラムはほぼ充実してきたように思われます。 しかし、今回は初めて視覚障害や聴覚障害の受講生の参加があり、今後は 情報の保障について検討して行く必要があります。
 各地域で少しずつ活発になってきている盲ろう者への個別の活動が、この 研修会を通じて情報交換され、地域間の交流へ進んだように思われます。 習得された技術や知識が盲ろう者とのよりよい信頼関係作りに結びつくことを、 また、地域を越えてできた輪が大いに活用され連携を生み、ますますご活躍 くださるよう願っています。



 
平成14年度 理学療法士研修会について
病院 第一機能回復訓練部
理学療法士 清水 健

理学療法士研修会の様子  平成14年11月14日・15日の2日間にわたり、理学療法士研修会が“高次脳 機能障害と理学療法士の関わり”のテーマで開催されました。高次脳機能障 害は理学療法士にとっては比較的なじみの浅い領域であり、学校教育や卒後 教育でもテーマとして取り上げられることはほとんどありませんでした。さらに、 “高次脳機能障害支援モデル事業”が主に対象としている記憶や注意などの 障害は、理学療法士にとっては特に認識の低い領域といえると思います。この ような状況を踏まえ、今回の研修会は基礎的な知識の理解と整理を主目的とし、 講師の先生方にもこの点を考慮した内容としていただきました。
 研修中の受講者は、みな熱心に講師の話に耳を傾けていました。日ごろから 同障害を有する患者に接している理学療法士にとって、今回の研修会は適切 な対処方法を得るための情報収集の場にはなったと考えられます。各受講者 においては、徐々にではあっても、業務への還元がみられていくことと思います。
 高次脳機能障害に関する啓蒙のための取り組みは、さまざまな組織によって 進められるようになってきました。理学療法士の団体においても、日本理学療法 士協会や各県単位の組織により各地で研修会などが開催されています。 今後は理学療法の分野でも、高次脳機能障害への対応といった新たな領域が 確立されていくであろうと思います。



 
平成14年度 言語聴覚士研修会について
学院 言語聴覚学科
主任教官 中村 公枝

言語聴覚士研修会の様子  平成14年度言語聴覚士研修会を11月20日(水)から22日(金)までの3日間、 開催しました。本研修会はこれまで、「聴能言語専門職員研修会」として開催 していましたが、言語聴覚士の国家資格制定を機に、研修の目的や意義を再 考するため、平成9年からしばらく休止していました。今回新たに「言語聴覚士 研修会」と改め、テーマを絞り、より専門的な内容の研修会となるよう企画しなお しました。再開後の第1回目のテーマとして取り上げたのは「新生児聴覚スクリ ーニングと療育」です。
 難聴児の早期発見・早期療育は難聴児のハビリテーションにとって極めて 重要な課題です。平成12年、厚生労働省より新生児に対する聴覚スクリー ニングの試行的実施の通達が出されたことにより、新生児〜乳児期前期での 難聴発見が増加してきています。しかしながら早期発見は早期療育体制が 整備されていなければ実質的な意味をもちません。したがって療育を担当 する言語聴覚士にとってこの問題は緊急課題ともいえます。
 実際に参加者は定員30名のところ74名になりました。そのうち20年以上の 経験者は42%にも上りましたが、6ヶ月未満の難聴乳児の指導経験者はわ ずか35%にすぎず、そのことからも今回の研修へのニーズの高さが窺われ ました。
 内容は新生児聴覚スクリーニングの概要に始まり、乳児期の発達と学習、 母子支援や母子コミュニケーションのあり方、各機関での療育の実際と 0〜1歳児の療育をテーマに構成しました。またシンポジウムでは参加者も 含め、各地域での取り組みの実態について情報を共有しあい、その課題に ついて検討をする時間も設けました。
 講師の先生方のお話も、豊富な資料をもとにした具体的な内容で、会場 は受講生の熱気に包まれ、充実した3日間でした。終了時のアンケートでも テーマを明確にした研修会への満足度は高く、多数の方から今後への期待 と感謝が述べられておりました。
 ここにご協力いただきましたすべての方々に心よりの御礼を申し上げますと ともに、参加者がこの研修会での成果を大いに活用されますよう祈念してお ります。主催側としましては、現場のニーズに合致したテーマでの開催の 意義を再確認した研修会でした。




(別表1)
平成14年度 盲ろう者通訳ガイドヘルパー指導者研修会日程表(前期)

月日 午前 午後
6月
3日
(月)
開講式・オリエンテーション
(9:00-9:30)
@「日本における盲ろう者施策の動向」
学院教官 市田 泰弘
(9:30-10:50)
 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部
企画課障害福祉専門官 坂本 洋一
A「盲ろう概論」
(11:00-12:30)
 視聴覚二重障害者福祉センター すまいる
門川紳一郎
B「盲ろう疑似体験」
(13:30-17:00)
 東京大学先端科学技術研究センター
佐々木(矢田) 礼人
 視聴覚二重障害者福祉センター すまいる
門川紳一郎
 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院
視覚障害学科主任教官  小林   章
視覚障害学科教官     松崎 純子
視覚障害学科教官     佐藤 哲司
6月
4日
(火)
C「視覚障害概論」
(9:00-12:00)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院
視覚障害学科 主任教官  小林   章
D「コミュニケーションガイダンス1(手書き文字)」
(13:30-14:20)
藤鹿 一之
E「コミュニケーションガイダンス2(点字)」
(14:30-15:20)
藤鹿 一之
F「ロービジョンの見え方」
(15:30-17:00)
 弱視者問題研究会   増山 由紀子
6月
5日
(水)
G「盲ろう児のコミュニケーション」
(9:00-12:00)
 国立特殊教育総合研究所
 重複障害教育研究部
 重複障害教育第二研究室
室長      中澤 惠江
H「コミュニケーションガイダンス3(指文字・ブリスタ)」
(13:00-13:50)
渡井 秀匡
I「コミュニケーションガイダンス4(音声通訳)」
(14:00-14:50)
渡井 秀匡
J「コミュニケーションガイダンス5(ローマ字式指文字)」
(15:00-15:50)
 東京大学先端科学技術研究センター
佐々木(矢田) 礼人
K「視覚障害(ロービジョン)と手話」
(16:00-17:00)
 東京大学先端科学技術研究センター
佐々木(矢田) 礼人
6月
6日
(木)
L「聴覚障害概論」
(9:00-12:00)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院
手話通訳学科 教官 市田 泰弘
M「コミュニケーションガイダンス6(筆記)」
(13:30-14:20)
勢理客友子
N「コミュニケーションガイダンス7(手話)」
(14:30-15:20)
田幸 勇二
O「ろう文化」
(15:30-17:00)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院
手話通訳学科 教官 木村 晴美
6月
7日
(金)
P「盲ろう通訳介助の理論」
(9:00-10:30)
 東京大学先端科学技術研究センター
佐々木(矢田) 礼人
Q「盲ろう者福祉の現状」
(10:40-12:10)
 全国盲ろう者協会
松谷 直美
 



(別表2)
平成14年度 盲ろう者通訳ガイドヘルパー指導者研修会日程表(後期)

月日 午前 午後
10月
28日
(月)
受付
(9:30-)
オリエンテーション
(10:00-10:30)
@「疑似体験による盲ろうの手引き歩行」
(10:30-17:00)
 東京大学先端科学技術研究センター
佐々木 礼人
 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院
視覚障害学科 主任教官  小林   章
視覚障害学科 教官     松崎 純子
視覚障害学科 教官     佐藤 哲司
10月
29日
(火)
A「通訳ガイドの技法」
(9:00-12:00)
 東京大学先端科学技術研究センター
矢田 礼人
B「実技講習1」
(13:00-17:00)
 東京大学先端科学技術研究センター
矢田 礼人
 視聴覚二重障害者福祉センター
 すまいる
門川紳一郎
勢理客友子
田幸 勇二
藤鹿 一之
 ベーチェット協会 江南施設
村岡 寿幸
渡井 秀匡
10月
30日
(水)
C「盲ろう者と日常生活、盲ろう者と情報補償」
(9:00-12:00)
 視聴覚二重障害者福祉センター
 すまいる
門川紳一郎
 ベーチェット協会 江南施設
村岡 寿幸
D「実技講習2」
(13:00-17:00)
 東京大学先端科学技術研究センター
矢田 礼人
 視聴覚二重障害者福祉センター
 すまいる
門川紳一郎
田幸 勇二
 ベーチェット協会 江南施設
村岡 寿幸
渡井 秀匡
10月
31日
(木)
E「実習」
(9:00-17:00)
 コミュニケーション・通訳ガイド実習
 (二人一組程度で盲ろう者の通訳ガイド実習を行う)
 東京大学先端科学技術研究センター
矢田 礼人
 視聴覚二重障害者福祉センター すまいる
門川紳一郎
田幸 勇二
藤鹿 一之
 ベーチェット協会 江南施設
村岡 寿幸
渡井 秀匡
11月
1日
(金)
F「実習の反省」
(9:00-11:00)
G「まとめ」
(11:00-12:00)
 東京大学先端科学技術研究センター
矢田 礼人
 すまいる
門川紳一郎
閉講式
(12:00-12:15)
 



(別表3)
平成14年度 理学療法士研修会日程表
テーマ−高次脳機能障害のリハビリテーションと理学療法士の関わり

月日 午前 午後
11月
14日
(木)
開講式・オリエンテーション
(9:30-10:00)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
理学療法士長  関口   進
 
今後の展望
-高次脳機能障害支援モデル事業の現場から-
(10:00-10:30)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
感覚機能系障害研究部長  中島八十一
 
高次脳機能障害とリハビリテーション
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
医長     三輪 隆子
高次脳機能障害者に対する心理アプローチ
−記憶障害を中心に−
(13:30-14:30)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
主任心理判定専門職 四ノ宮美恵子
 
高次脳機能障害者に対する言語療法
−コミュニケーションの問題を中心に−
(14:45-15:45)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
言語聴覚士  餅田亜希子
 
高次脳機能障害者に対する作業療法
−課題遂行機能の問題を中心に−
(16:00-17:00)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
作業療法士長 森田 稲子
11月
15日
(金)
当院における高次脳機能障害者への
 理学療法アプローチ
(9:00-10:15)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
理学療法士  清水 健
 
当院における高次脳機能障害者への
 リハビリテーション体育アプローチ
(10:30-11:45)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
運動療法士長  北村 昭子
高次脳機能障害と社会資源
(13:00-14:15)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
医療福祉相談専門職  久保 明夫
 
閉講式
(14:30-15:00)
 
希望者のみ施設見学
(15:00-16:00)



(別表4)
平成14年度 言語聴覚士研修会日程表
テーマ:新生児聴覚スクリーニングと療育

月日 午前 午後
11月
20日
(水)
開講式・オリエンテーション
(9:00-9:30)
 
新生児聴覚スクリーニング
(9:30-11:00)
 東邦大学医学部
新生児学教室   多田  裕
 
機器紹介:AABR,OAE
(11:15-12:30)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
病院        田内   光
乳幼児の聴覚機能の発達
(13:30-15:00)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院        中村  公枝
 
新生児聴覚スクリーニングと療育
 (総論)
(15:15-16:45)
 国際医療福祉大学保健学部
言語聴覚障害学科 廣田 栄子
11月
21日
(木)
0,1歳児の療育
(9:00-10:30)
(コミュニケーション指導)
 国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院        中村  公枝
 
母子臨床
(10:45-12:15)
 慶應義塾大学病院
小児科       渡辺 久子
乳児期の発達と学習
(13:30-15:00)
 白百合女子大学
発達心理学科    秦野  悦子
 
0,1歳児の療育
(15:15-16:30)
(診断から医療へ)
 埼玉県立小児療育センター
保健発達部     北   義子
11月
22日
(金)
通園施設における0,1歳児の療育
(9:00-10:30)
 難聴幼児通園施設
 岡山かなりや学園 福田章一郎
 
聾学校における教育相談・幼稚部教育の実際
(10:45-12:15)
 筑波大学付属聾学校幼稚部
富田 香織
シンポジウム
(13:15-16:15)
新生児聴覚スクリーニングをめぐる問題
 岡山県:福田 章一郎(岡山かなりや学園)
 栃木県:廣田 栄子 (国際医療福祉大学)
 東京都:内山 勉
(富士見台聴こえとことばの教室)
 埼玉県:立石 恒雄
(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院)
司会:中村 公枝
 
閉講式
(16:20-16:30)