〔研究所情報〕 |
研究所運動機能系障害研究部 紹介 |
ここ最近に導入された装置をご案内すると共に、その目指す方向を
お示しして、共同で研究に参加してくださる方々を募るべく、当研究部
の活動をご紹介したいと思います。
<懸垂免荷装置と免荷式歩行トレーニング>
一般に,歩行訓練の初期では転倒防止のため様々な工夫や介助者
によるサポートが必要です。また、疼痛がとれ、筋力やバランスが改善
するまで自立歩行が困難となり、必然的に車椅子に依存する傾向が
見受けられます。しかし、車椅子での生活が続くと、2次障害(起立性
貧血、廃用性筋萎縮など)を引き起こす要因ともなります。そこで、荷重
を減らすことによって、関節への負荷あるいは歩行に必要な力を軽減し、
患者に自立歩行を促す効果を追求します。
免荷式歩行トレーニングは、体育館2階に設置された天井部からの
装置によって身体を上方に引き上げ,下肢に掛かる荷重を軽減し、
運動に必要な筋力を軽減できる歩行訓練です(写真1)。この装置では
免荷のみならず、転倒防止も可能であり、また移乗介助装置としても
利用出来ます。天井部を走行する部分には磁石が装備されており、
鉄板天井さえあれば走行可能なため、方向転換も自由で “楽しみながら”
訓練できると考えられます。移動機構部はジョイスティックによって操作
できるように設計されているため、電動車椅子を自在に操作できる患者
であれば誰にでも簡単に操作を覚えることができます。
この方法では、その対象者が“自力で歩こうとする意志”のあることが
前提条件となります。従来、車椅子の方がはるかに有用であるように
考えられてきました。近年確かにバリアフリー環境が積極的に推進される
ようになってきていますが、不便な点も多々あるのも事実です。このため、
歩行の獲得・再獲得は患者や被介護者のQOL向上を期待出来る訓練と
言えるのではないでしょうか?
<水中運動解析装置とアクアビック・エクササイズ>
近年、アクアビック・エクササイズがTVでも紹介されてきているように、
多くのスポーツクラブなどにおいて実施されつつあります。一般に、アクア
ビック・エクササイズは、水の抵抗を用いる運動ですが、浮力によって下肢
への負担が軽減できることは、下肢関節に障害を持つ患者へのリハビリ
テーションとしての効果を期待出来、広範に用いられるようになった要因
と考えられます。しかしながら、このアクアビック・エクササイズは安易に
用いられている感が否めず、科学的根拠に乏しいことも事実です。
水中歩行は浮力による荷重軽減はあるものの、水抵抗に打ち勝って
歩行するので、陸上歩行とは異なる要素があるはずです。例えば、
床反力の垂直成分は浮力によって荷重が軽減しているため、確かに減少
しますが、水抵抗に反発するため、前後成分も陸上歩行とは大きく違います。
床反力に限らず、実際の歩容なども陸上歩行とは異なる点が多く、その
違いを明確にするには実際の動作を計測できる装置が必要となります。
そこで、当部では、アクアビック・エクササイズの中でも代表的な“水中歩行”
を取り上げ、その力学的特性を解析中です。補装具製作部に併設された
水中実験棟において実際の歩行動作を測定しています(写真2)。水槽内
を歩く際,床反力は水中型床反力計を用いて計測し、同時に2つのビデオ
カメラによって歩行動作を計測しています。同様な計測を陸上歩行について
も行うことにより、水中歩行と陸上歩行との差を明確にすることができます。
現在、日本では水中運動療法が積極的に行われてはおりません。未曾有
の高齢化社会を迎える日本社会においても、アクアビック・エクササイズは
健康の保持・増進の観点からも有用な手段なのです。よって、アクアビック・
エクササイズとしての“水中歩行”の科学的根拠が示されたならば、日本に
おいてもより積極的に、広範に水中運動療法が展開され確立されていくの
ではないかと考えています。