〔研究所情報〕
研究所感覚機能系障害研究部紹介
研究所感覚機能系障害研究部



 研究所の感覚機能系障害研究部(感覚障害部)は、現在部長1名と視覚機能障害 研究室、聴覚言語機能障害研究室、感覚認知機能障害研究室の各室長3名の常勤 職員に加えて、流動研究員6名、リサーチレジデント1名の合計11名から成っています。
 どの部門でもそうですが、社会のニーズは常に変化していてそれに対応するには 体制の一新が必要となります。この数年来当研究部で続いて起こったことは、当センター で起こったことの縮図のようなものでした。視覚障害、聴覚障害に特化した業務を所掌 としていた部門が、ニーズに従って大きく脳研究へと活動領域を拡げました。感覚障害 を脳機能を通じて理解するための人材が揃い、それに伴ってMEG、fMRIや近赤外線 分光法などのハイテク機器が導入されました。そこにあたかも歩調を合わせるように、 「高次脳機能障害支援モデル事業」が国リハ全体の事業として始まりました。
 このモデル事業は、まさにセンター全体の部門横断的な事業として、各セクションが 主体的に取り組む大きなプロジェクトとなっているばかりでなく、身体障害者施設として 大きく活動領域をを拡げました。細かく検討を加えれば、関係しない部門を捜すことが 難しいぐらいです。研究所でも感覚障害部のみならず、障害福祉研究部や障害工学 研究部も熱心にこの事業に取り組んでいて、これをどうする、あれをどうするといった 会話が廊下ですれ違う度ごとに交わされるような状態です。
 具体的な業務として、部長の中島はモデル事業のとりまとめ担当者の一員として この事業に立ち上げの時点から加わっています。また高次脳機能障害者は必ずしも 脳の損傷部位が形態学的画像診断では分かりにくいこともあり、高次脳機能障害者 の個別診断が可能になる新たな検査法が求められています。そこでfMRI(機能的MRI) と経皮的磁気刺激法による誘発脳波を利用した診断法の開発に携わっています。 また、聴覚障害者の自己発生音をフィードバックする機器の開発は更生訓練所と 共同で研究しています。人工内耳装用児の全国調査は、本邦初のデータとして 国リハのホームページからアクセスして閲覧することができます。
写真1 近赤外分光無侵襲脳局所オキシメータ使用の様子  森室長は多くの研究分野で活躍する多才ぶりを発揮していますが、近年は近赤外 分光無侵襲脳局所オキシメータ(写真1)を応用した聴覚ならびに音声言語関連の 脳機能研究で注目を集めています。とりわけ吃音に関する脳研究はこれまで研究者 に忘れられかけていた領域に、新たな光を投じたことで、当事者の方々からも大きな 期待をもたれています。脳研究が音声言語障害の理解に役立つ好個の例として 挙げることができます。またこの機器は人工内耳装用者のように、磁性体機器を装着 しているためにMEGやfMRIと言った機器が利用できない患者・障害者で聴力を測定 する道を開きました。これは乳幼児のように言語で回答できない人工内耳装用者の 効果判定にもっとも有力な方法となりつつあります。また動物実験を通じて、耳鳴の レーザー治療についての可能性について基礎的研究を行っています。
 福田室長は長年の研究課題である日本手話の言語学的研究と、手話使用支援に 役立つ「手話言語―日本語電子辞書」の完成を目指しています。日本手話は手話 と呼ばれるのが不適切なほどに、顔の表情、頭部の動き、その他の身体部位の動き がすべて同時並行的に言語的意味をもつという誠に複雑なコミュニケーション手段です。 日本手話はろう者にとっての重要な生活基盤を担っているにもかかわらず、その複雑さ のゆえに健聴者には習得が困難です。このバリアーを除く手段のひとつとしてこの 辞書は重要視されているところです。150語程度の語彙の辞書はすでに完成を みていますが、現在それが300語程度に拡充され、さらに語義分類や例文の追加が なされつつあります。ろう者にとっても自分たちの文化とも呼べる日本手話の辞書が できることを歓迎する声が高いと聞きます。
306チャンネル全頭型脳磁場計測装置の写真  西谷室長は特異のMEG(写真2)を使用した脳研究ですでに国際的にも良く知られ ています。そのうちで最も重要な人間の動作や表情などの観察や模倣に伴う脳活動 研究は、手話の研究にも通じる部分があり、また人と人の間での表情に伴う感情的 メッセージ伝達の研究のようなものと言えば理解し易いでしょうか。そのような複雑な 認知機能はとりもなおさず高次脳機能障害と呼ばれる機能であり、冒頭のモデル事業 で対象とする障害者とはこの領域に属する障害をもっている人たちのことです。 この研究を通じて脳のどこで、どのような時間経過で理解したり、考えたりしているのか を明らかにしつつあるところです。またMRIを用いたダイナミック磁気分光法は、 記憶や情動に関連する機能を神経科学的に解明する全く新しい方法として注目を 集めているところです。