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研究所障害工学研究部紹介
 



 私達の研究部は、工学の様々な分野に目を配り、リハビリ テーションへ応用できるものなら何でもどしどし取り入れて いこうという立場で研究開発を行なっています。今すぐには 実用化できなくとも、5年先あるいは10年先に実現できる ようなリハビリテーション技術の開発にも取り組んでいます。
 二年前に開始したのが「遺伝子工学」の導入による視覚 障害克服への挑戦です。つい最近ヒトの身体の設計図である ヒトゲノムの解読が完了したというニュースをお聞きに なった方も多いと思います。ヒトゲノムは4種の文字で書か れた30億文字からなる書物になぞらえることができます。 このゲノムという書物の中で、網膜の設計図が書いてある ページのなかの文章の一文字が違っていると網膜色素 変性症という病気になることがあります。一文字違っても文章 の意味が通じればそれほど大きな障害にはなりませんが、 もし重要な単語(遺伝子のこと)の一部であったりすると、 網膜がうまく働かず、視覚障害を引き起こすことになります。
 私達が今取り組んでいるのは、どの遺伝子のどの文字が 違っていると網膜色素変性症になるかを突き止めようという 研究です。当センターを訪れる多くの視覚障害者の方々の ご協力を得て研究は進められています。原因となる遺伝子が わかると、文字の違いによって起こる網膜機能の低下を抑える 薬を開発する足掛かりが得られます。さらには、違っている 文字を正しい文字に置き換えること(遺伝子治療)によって、 網膜の機能を回復させることも夢ではありません。視覚障害は 近い将来かならず治せるという信念のもとに研究を進めています。

遺伝子解析装置を使った作業



 重度身体障害者の日常動作を支援するための機器開発も 私達の研究部の大きな課題の一つです。特にこれまで要求度の 高かった高位頸髄損傷者の排便動作の支援に取り組んできました。 その結果、排便払拭動作を支援する装置を開発し、重度障害者 センターで利用されています。また、このような日常支援機器に 「ロボット工学」を導入する研究も始めました。これまでの 産業用ロボットは、自動車や機械といった決まった動きしかしない 硬い物体が対象でしたが、人間を相手にするロボットを作ろうと なると、その安全性が第一の課題となります。そこで、不規則な 動きをし、かつ柔らかい人体と接触して安全な動作を行なうよう なロボットアームの開発を目指した研究を行なっています。 現在、髭そり動作のように皮膚の表面をなぞることのできる アルゴリズムの開発に成功しています。このような基礎技術は、 今後の介助ロボットの開発に役立つことが期待されます。
 最近バイオセンサという言葉を見聞きすることが多いと思い ますが、私達はこの分野でも新しい取り組みを行なっています。 私達の血液の成分を検査すると、健康状態に関する多くの情報 が得られます。これまでは病院にいって血液検査を行なって もらっていましたが、これを在宅で各人が簡単に行えるよう になれば、病気の予防に大きく役立ちます。特に、糖尿病や 腎臓病を有する障害者にとって、病気の悪化を未然に防止 するには、定期的なモニタリングが必要です。在宅でモニ タリングできれば検査のためにわざわざ病院に出かける必要 がなくなります。このことを可能にするために、指先等から 採取した一滴の血液で検査ができるようなバイオセンサの 開発を行なってきました。その一例が視覚障害者用の音声 化血糖値センサです。これは企業との共同研究により市販化 され、多くの方々にご利用いただいています。最近は、 最先端の「センサ工学」を導入して、血液や尿中の微量の 蛋白質成分を検出できるようなバイオセンサの開発を手が けています。

髭そり動作を行なうロボットアーム