〔学院情報〕
義肢装具学科紹介
学院



義肢装具教育の開始と国家資格制度の確立
 我が国で初めて義足を使用した記録が残っているのは歌舞伎 役者の立女形である三世沢村田之助(1845〜1878)であると いわれています。田之助は幕末から明治初期にかけて活躍しま したが、若くして脱疽にかかりヘボン式ローマ字を作った横浜 在住のアメリカ人医師ヘップバーンに左足の下腿切断術を受け ました。この頃はまだ日本には義足を作る専門の職人など存在 せず、江戸の活人形師が義足を製作しましたが実際には履けずに、 アメリカに注文して作った義足で再び舞台に上がったという 記録があるそうです。その後、本格的に義肢装具を専門に製作 する会社ができたのは明治初期となります。このように職種 としての義肢装具製作者は古くから存在しており、これらの 人々で構成される業界も形成されました。そのような歴史の 中で、我が国の義肢装具に携わる技術者の育成は徒弟制度の 下で行われてきました。旧国立身体障害センターにも附属 補装具技術研修所があり、長期研修生を受け入れ、初代研究 所長である故飯田卯之吉先生の下で主に義肢装具製作会社の 後継者が勉学に励んでいましたが、これも徒弟制度の延長線 上にあるものでした。
 しかし、義肢装具の高度化やリハビリテーション医療の発達 により、チーム医療の中で確かな知識と技術をもった義肢装具 専門職が求められるようになり、日本リハビリテーション医学会 や日本整形外科学会等の関連医学界や業界の働きかけが行われ、 1982年に本センター学院に3年制の義肢装具専門職員養成課程 が開設され、我が国で初めて体系的な義肢装具の教育が開始 されました。
 その後、国家資格制度確立に向け、関連医学界始め業界や本 学科学生会等が一丸となって実現のための運動を展開し、ついに 永年の悲願であった義肢装具士法が1987年に成立しました。

義肢装具士の業務
 義肢とは、「切断により四肢の一部を欠損した場合に、元の 手足の形態または機能を復元するために装着、使用する人工の 手足」(JIS用語)のことをいい、上肢切断には義手、下肢切断 には義足が用いられます。
 装具とは、「四肢・体幹の機能障害の軽減を目的として使用 する補助器具」(JIS用語)のことをいい、上肢、下肢、体幹 装具などがあります。
 そして、義肢装具士法により『「義肢装具士」とは、厚生労働 大臣の免許を受けて、義肢装具士の名称を用いて、医師の指示の 下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の 製作及び身体への適合を行うことを業とするものをいう。』と 規定されています。この義肢装具の業務の内、採型や適合等は 診療の補助行為を含むことから、この診療の補助行為については 保健師助産師看護師法(保助看法)により医師、看護師及び准看 護師以外の者が業とすることを禁止されているので、このままで は義肢装具士の業務は禁止規定に抵触してしまうことになります。 そこで義肢装具士法では、義肢装具士は保助看法の規定にかかわ らず、診療の補助として義肢及び装具の装着部位の採型並びに 身体への適合を行うことを業とすることができるという規定を 設けています。
 つまり義肢装具士の業務の中で最も重要なのは適合ということ であり、如何に個々の患者さんや障害をもつ人々に義肢や装具を 製作し合わせるかということになります。言い換えれば器具器械 と生体とのインターフェィスの部分を受け持つことが業務の中心 であり、義肢装具士の仕事の難しさはここにあります。一瞬ごと に形が変化する生体に、器具器械を合わせるわけですからその 難しさは理解して頂けると思います。このことは同時に教育の 難しさでもあります。義肢装具を製作する上では、まだまだ経験 や勘やセンスといったことが介在し、教育の上でどうやっても 伝えにくいものが残ってしまうのです。
 また、採寸や採型、製作から適合まで、業務の中にモノ作りと いう要素が含まれるのも医療職の中では特殊といえるでしょう。

義肢装具学科の教育
 カリキュラムは工学と医学を主体として、専門科目の実習授業 が学年によって週1日〜3日間組まれています。義肢装具士の 資質はたとえ知識が豊富であっても、それだけでは十分とは いえません。目的に合った適合の良い義肢や装具を製作し、それ を必要としている人が装着して歩けたり、手の役割をしたり、 治療の目的が達成されて始めて義肢装具の役割を果たしたことに なります。このようなモノ作りの能力を習得するために、採寸・ 採型から製作、適合まで学生が課題を完成させるまで徹底した 実習授業が行われています。この他に2、3学年時には夏期臨床 実習で各6週間程度、全国各地の製作施設において実践的教育を 受けます。また3学年時には、年間を通して卒業研究の単位修得 が課され、研究の進め方や論文の書き方、発表等についての指導 を受けながら論文を完成させます。
 勉学だけでなく楽しい行事もたくさんあります。学院全体での 球技大会や学生交流会の他に、PO学生会主催で臨床実習壮行バー ベキュー大会、臨床実習報告会、餅つき大会、卒業謝恩パーティ ー等を行っています。

卒業生の進路
 現在までの卒業生は193名で、本学院を卒業すると国家試験受験 資格が与えられますが、全員が国家資格を取得し全国各地で活躍 しています。ほとんどが民間の義肢装具製作施設に就職しますが、 本学院を含め全国に5校ある義肢装具士養成校で専任教員または 非常勤の講師になる者も多く、それぞれ後進の指導に当たって います。現在まで何らかの形で教育に携わった者は50名を超えて います。その他ではカンボジア地雷被災者のために現地で義肢を 作る国際援助活動に携わったり、アメリカで義肢装具の資格や ドイツでマイスターの資格を取得した者もいます。
 全国の養成校を合わせた1学年定員は120名ですが、現在の求人 状況は毎年それをやや上回る程度で推移しています。ほとんど全員 が就職できる状況ですが、今後は靴型装具や座位保持装置、 さらには福祉用具の分野もカリキュラムに積極的に取り入れ、 領域を拡大することによりさまざまな方面に卒業生を送り出せる よう努力が必要と考えています。


大腿義足の実習授業で採型練習 餅つき大会