〔随想〕
各駅停車
更生訓練所 相談判定課長 高橋久雄



 先の見えない暗いトンネルを迷走しているかのように、一向に 明るい話題が少ないような気がする昨今、各地で世相を反映して か地方分権や合併の話題が新聞の紙面を賑わしていたことを目に してから数年経過している。
 ここ埼玉県においても、平成13年5月から浦和・大宮・与野の 各市が統合合併してさいたま市になった。これらはいみじくも このような時代の背景から生じた一つの現象であって、政令指定 都市に昇格すると行政としての権限や決定権の委譲が多くなり、 住民の生活に関連する諸問題や予算等に多くのメリットが出てく ると予想されることが拍車をかけ、合併を一層加速化させている。
 しかし、この現象が果たして私達をとりまいている社会や生活 によい形で跳ね返ってきているかは甚だ疑問を感じざるを得ない。
 さて、私自身長い公務員生活も残り少なくなって来た。この30 余年間はバブルの絶頂期やオイルショック等の恐慌を体験して 来たが、最近果たして自分の辿って来た歩み方はこれでよかった のかどうか考えることがしばしばある。人生80年時代に達したと 言われ、その中で考えてみればほんの短い一齣ではあるとは思う が、歩み方のタイプは、その場の歩調を臨機応変に歩む人、走る 抜けるように突っ走しる人、各駅停車の如く一歩一歩と歩む人と 三つの歩み方に分類すると、私自身決して器用な方ではないので、 どちらかと言えば各駅停車の如くゆったり歩いて来た方ではない かと思っている。いや正直言ってそれしか自分には出来なかった のだと思う。
 実は私は、かねてから是非やってみたかったことがあった。 それは全国47都道府県の県庁所在地を訪ね歩いて見ることで、 ついにそれを4年前完全制覇することことが出来たのです。
 元来私自身、各駅停車に乗って知らない土地に出かけることが 好きで、暇を見つけてはこまめに出かけた。その時必ず立ち寄る のはJR駅前周辺で、そこをゆっくり散策して商店街を見て歩き、 食堂に入って店のメニューを見てその土地の珍しいものを食べる こと等をして、それを幾度もなく各地で繰り返して来た。
 特に印象に残っているのは、30数年前に食べた函館の味噌 ラーメン、後の長崎の皿うどん、四国の讃岐うどん等はこの世に こんな美味いものが存在するんだと感激して、食べることに幸せ と楽しさみたいなものを自分なりに発見したのを今でも鮮明に 覚えている。又、その土地の文化に接し、そこに生きてる職人の 方々との会話を通じ、職人魂のようなものに触れて感動したこと も多くあった。その外にも町並みや人の行き交い、風土を眺めて いるとその土地の経済、活気、臭い等の独特のものがあって、 それが身体に伝わって来て本当に楽しい時間を過ごしたものでした。
 最後に制覇した47番目になったのは、意外と千葉県だった。 千葉県と埼玉県は隣接していることもあって、所沢に長年住んで いて最後となったのは自分としても意外だった。これまで千葉県 は何度か行く機会はあったが、台風に遭って途中電車が不通にな ったことが二回も続きこの先の実現を諦めかけていたところ、 それがついに4年前に思いがけない機会が訪れ、それで達成する ことが出来たことは今になって私の貴重な財産となっている。
 このような財産を持っている私によく聞かれることは、何処が 一番よかったのかと言われるのですが、みんなそれぞれ人に よって受け止め方や感性が違うように、一概にこうだと言うこと は出来ない。それはそれぞれの特徴、人間味、地元の人たちの 誇れる場所等があったりして、本当に日本の至るところに素晴ら しいものが潜んでいるものだとつくづく感じさせれるものでした。 だが、自分の好みで言わせてもらえれば、大都会は生活に活気や 華やかな生活が出来、常に人が集まり、流通が盛んになって経済 効果も上昇すると言った相乗効果がある反面、隣が誰が住んで いるかも分からないと言ったデメリットも大きいところが歪め ないところである。
 人生80年時代と言われている昨今、自分自身の歩み方のタイプ とやっとの思いで全国の県庁所在地を完全制覇を出来た思いは 自分の中では似通っているように思えてならない。その意味では、 ここまでの短い人生を大変満足しながら来た感があるので、今後 も自分なりの歩き方で残りの少ない人生を謳歌し、社会の変動や 移り変わりなどをこの眼で確かめ、楽しみながらの生活を続けて 行きたいものです。