〔国際協力情報〕
WHO指定研究協力センターセミナーの開催報告
−高度情報社会環境下の共生社会の構築−
管理部 企画課



 去る、11月5日(水)に当センター学院講堂において 「高度情報社会環境下の共生社会の構築」をテーマとした セミナーを開催いたしました。
 当センターはWHOの“障害の予防とリハビリテーション に関する指定研究協力センター”であり、その協力事項 の一つである、“障害をもつ人々のリハビリテーション についての会議とセミナーを企画する”という活動の 一環として今回のセミナーを行いました。
 本セミナーの主旨は、障害の有無にかかわらず、相互 が人格と個性を尊重される共生社会を構築するために、 現代の情報社会においてどのような取り組みがされて いるのか、また計画されているのかについて、海外2 ヶ国の講師と日本の行政と専門家講師による講演と ディスカッションを行なうというものでありました。
キャサリン・シールマン博士の講演  海外からは、アメリカ ピッツバーグ大学保健 リハビリテーション学部のキャサリン・シールマン 博士とタイ国視覚障害者協会のモンティアン・ブン タン副会長による特別講演を行いました。シールマン 博士は、国立障害リハビリテーション研究所長として アメリカの障害をもつ人々のための政策の策定や、 様々な国際委員会への参加など、活動は非常に広い 領域に渡っています。博士の講演は、障害をもつ人々 が共有できる情報社会のためにアメリカが取り組んだ 国内および国際的な科学技術政策を中心に紹介され ました。一例として、ユニバーサルデザインの推進、 アメリカ障害者法の理念により聴覚障害をもつ人々に 対する電話リレーサービスの実施、通信システムに おいてのアクセシビリティの実現により障害をもつ 人々が参加する社会のシステムの構築、さらに通信 以外の分野における様々な科学技術の応用、日・欧米 の共同研究等について紹介されました。
モンティアン氏の講演  タイのモンティアン氏からは、“知識”は非常に 大きな力であり、共生社会において、全ての人々に よって共有されなくてはならないということ、どの ような個人も生活のあらゆる局面において権利、責任、 利益を有する社会でなくてはならないという基本的 な考え方が述べられました。また、講演のタイトル にもある、“従来のリハビリテーション概念の変革” について、“リハビリテーション”という言葉が意味 してきたものは、医学的モデルから語られることが 中心であり、また、知識や情報は常にサービス提供側 や専門家に所有されてきたが、情報社会においては 障害をもつ人々も知識と情報を等しく共有することに よって、全ての人々の共生が実現するものであると いう意見を述べられました。
柘植雅義特別支援教育調査官の講演  日本の現状についての講演では、教育行政担当の 立場から文部科学省の柘植雅義特別支援教育調査官 より、我が国における障害をもつ子供の教育のあり方 に関する転換についての紹介がされました。従来の “特殊教育”における予め決められた枠の中で行なう 教育から、各個人の教育ニーズにあわせた教育“特別 支援教育体制”への転換と、学習障害、注意欠陥/多 動性障害、高機能自閉症の児童について対応するモデル 事業など、今後の支援教育体制の紹介がされました。
 情報通信行政からは、総務省の武田博之デジタル・ ディバイド企画官から、政府のIT基本法と障害者基本 法の2つの流れにより、障害をもつ人々が情報通信技 術を活用するための環境整備の状況が説明されました。 高齢者や障害をもつ人々に情報を利用する機会や、 能力に格差を生じさせてしまうデジタル・ディバイド を解消するための取り組みがその内容であり、身近に 実際の放送やインターネットの現状も紹介されました。
 障害に関する研究から、障害をもつ人が使用し易い コンピュータのソフト開発まで、幅広く活動されている 石川 准静岡県立大学教授(障害学会会長)からは、 “配慮の平等”という概念を中心にした社会モデルの 説明とそれに基づいて電子情報社会におけるアクセシ ビリティの推進の現状についての講演がありました。
ディスカッションの様子  以上、5名の講演を踏まえてディスカッションを 行い、会場の聴衆からの意見や質問に沿って各講師が 説明、討議をいたしました。
 今回のセミナーは、12月にジュネーブで開催する世界 情報社会サミットで取り上げる情報化社会における デジタル・ディバイドの解消というテーマを踏まえ、 特に障害の観点からの情報社会における共生のあり方、 現状を知ることを目的として開催いたしました。当日 は、外部から、リハビリテーションに従事する方だけ でなく、情報通信関係や視覚の障害をもつ方、センター 職員など130余名の聴衆にご参加いただきました。
 本セミナーを通じて、共生社会において情報通信が 果たす役割と、全ての人が利用、活用できる環境を 作る必要性を学ぶことができました。