〔研究所情報〕
臨床における義肢装具士の工夫と研究
補装具製作部 義肢装具士 中村 隆



 補装具製作部では、開設以来1000名以上の方に義肢装具を供給してき ました。義肢装具は、それを身につける方のニーズに応じて製作する必 要があります。身体障害の状況はそれぞれの方で異なりますし、社会復 帰のために必要な機能も異なります。それ故、その製作過程では新たな 工夫を必要とする場面が少なくありません。今回、そのような工夫を必 要とした最近の症例を通じて、義肢装具士の仕事を紹介したいと思いま す。

1 能動義手のハーネスの工夫
 能動義手は、体の他の部分の動きを利用して物をつかんだりできるも ので、広く普及している義手の一つです。一般に、能動義手は、切断部 位を挿入する「ソケット」、関節に相当する「継手」、「手先具(フッ クやハンド)」、背にタスキがけの「ハーネス」、「コントロールケー ブルシステム」から構成されます。肩甲帯や肩関節の動きが、ハーネス とこれにつながったケーブルにより伝達され手先具の開閉といった動作 に変換されます(図1)。

能動義手(上腕)の構造と肩関節を利用した手先具開閉の動作
図1 能動義手(上腕)の構造と肩関節を利用した手先具開閉の動作
   (澤村誠志著「切断と義肢」より引用)


症例1  腕神経叢麻痺を伴う上腕切断者の義手
 右上肢が上腕切断、左上肢が腕神経叢麻痺の方です。この方には義手 の製作上大きな制約がありました。それは左上肢が麻痺肢であることに 加え、肋間神経の移行術後、間もないため、左腋窩への圧迫が禁忌であ るということです。すなわち通常の義手で用いられているハーネスのシ ステムを利用して手先具を動かすことができないことになります。こう した状況で、なんとか義手訓練をしたいという要求の中、義肢装具士は 考えました。その答えの一つが次のようなショルダーカップの適用です (図2)。


能動義手のショルダーカップとハーネス
図2 訓練用に製作した能動義手のショルダーカップとハーネス


 通常のハーネスが腋窩を通すのに対し、このカップは肩関節を覆い、 中央に開けた穴に上腕骨骨頭が引っかかることにより固定されます。こ れにハーネスとケーブルを取り付け、腋窩にハーネスを通さずとも、肩 甲帯の動きをケーブルに伝えることが可能となりました。
 このような工夫により、神経移行術後の回復を待たずに、早期に義手 の操作と義手を使用した日常生活の訓練を開始することが可能となりま した。

2 股義足ソケットの工夫
 股義足は、主に股関節離断の切断者に適用される義足です。股義足の ソケットとしてはカナダ式ソケットが広く普及しています。カナダ式ソ ケットは骨盤全体をソケットで覆うもので(図3)、義足の懸垂を腸骨 稜で行い、体重支持を断端下部と前後の支持面で行います(図4)。

カナダ式ソケット
腸骨稜による懸垂(左)と体重支持の原理(右)
図3 カナダ式ソケット
 
図4 腸骨稜による懸垂(左)と体重支持の原理(右)
   (澤村誠志著「切断と義肢」より引用)


 ソケットの材質は、体重支持に必要な患側は硬性樹脂で、反対の健側 は装着のため前開きになるように軟性樹脂でできています(図5)。


ソケットの材質、軟性のため前方が開いてソケットの装着ができる
図5 ソケットの材質


症例2 ストマ(人工肛門)を有する股関節離断者のための股義足ソケ ット
 この場合、通常のカナダ式ソケットの内部にストマがあるため、カナ ダ式ソケットを改良する必要がありました。まず、ストマに相当する部 分のソケット上縁を切り取り、前壁を下げることとしました。固定用の ベルトも一本にしました(図6)。


カナダ式ソケットの試み
図6 カナダ式ソケットの試み(前壁を下げ、ベルトは1本のみ。)


 ところが体重支持は問題ないものの、義足の懸垂に不具合が生じまし た。義足をあげようとするとソケットが腸骨稜からはずれてしまうので す。義肢装具士は、その原因をソケットのたわみのためではないかと推 測しました。たわみは装着のためにソケットの健側が軟性であることに 加え、この場合、前壁を下げ、ベルトを一本にしたことに起因すると考 えられます。
 この問題を解決するには、ソケット全体を硬性の樹脂で製作すればよ いと考えました。しかし全体を硬くしてしまうと装着が難しくなります 。そこで、ソケットを後方で切り、蝶番でつなげて前開きになるように しました(図7)。この結果、ソケットの剛性と装着性の双方が確保さ れ、義足の懸垂も良好となりました。その後、義足の調整を繰り返し、 この方は切断から3年を経て義足歩行を獲得するに至りました。


改良したソケット、ソケット開閉のための蝶番
図7 改良したソケット


 個々の障害に応じた義肢装具を製作することは試行錯誤の連続であり、 その中には、作業仮説とその検証といった研究的要素が多分に含まれて います。ここで紹介したような臨床現場での工夫から課題の種を見つ け出し、研究というステージで育て、再び臨床現場でその成果を確認す ることによって、今後よりよい義肢装具の普及に貢献できるのではない かと我々は考えています。