〔研究所情報〕
SMIL/DAISY合同作業部会
高齢者と障害者の防災を考える講演会に参加して
研究所 障害福祉研究部 研究補助職員 横田 恒一



 SMIL/DAISY合同作業部会が、2005年5月18日(水)か ら20日(金)に汐留のヴィラフォンテーヌにて、会場を 移して22日(日)に北海道浦河町の総合文化会館にて、 あわせて4日間行われました。更に、23日(月)に同総 合文化会館にて講演会「災害の時にあなたはどうする? −高齢者と障害者の防災を考える国際交流の夕べ−」が 開催されました。この両イベントに参加する機会を得ま したので報告します。
 両イベントは、科学技術振興調整費による「障害者の 安全で快適な生活の支援技術の開発」研究プロジェクト のサブテーマ1「障害者の自己決定を支援する情報コミ ュニケーション技術の開発」(責任者:河村宏障害福祉 研究部長)の一環として行われました。アクセシブルな マルチメディアシステムによって支援される防災避難計 画及び訓練の評価試験を実施し、認知・知的障害者の認 知特性に合わせた情報提示技術を確立し、障害者、高齢 者を含む一般住民が共に実際に地域で活用できるモデル システムを構築することを目標としています。
■SMIL、DAISYについて
 まず、SMIL、DAISYについて説明します。SMILとは、 Synchronized Multimedia Integration Language の略で あり、動画、静止画、音声、音楽、文字など様々な形式の データの再生を制御して同期させる言語です。XMLで記述 され、W3C(World Wide Web Consortium)の標準として 勧告されています。また、DAISYとは、Digital Accessible Information System の略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳さ れています。視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難 な人々のためにカセットに代わるデジタル録音図書の国際 標準規格として、12か国の正規会員団体で構成するデイジ ーコンソーシアム(本部スイス)により開発と維持が行わ れている情報システムです。DAISYには、SMILの技術が利用 されていて静止画、テキストや音声を同期させることができ ます。DAISY用オーサリングツールを使ってデジタル図書を 作ることができ、専用のプレイヤーやソフトウェアで再生を することができます。国内では、点字図書館や一部の公共図 書館、ボランティアグループなどでDAISY録音図書が製作され、 主な記録媒体であるCD-ROMによって貸し出されています。
■SMIL/DAISY合同作業部会
 SMIL/DAISY合同作業部会には、SMILまたはDAISYに関 わる約30名の国内外の研究者、当事者が参加しました。 アメリカ、フランス、オランダなど海外から12名の研究 者、アメリカ、インド、タイから3名の視覚障害者が参 加しました。国内からは、産総研、国リハ研究所の研究 員、職員が参加しました。
 会議では、障害者にとってアクセシブルなマルチメデ ィアシステムを開発するために、SMIL/DAISYを中心に活 発な意見交換が行われました。特に、次期DAISYで動画を 再生するために、SMIL/DAISYに求められる仕様について 議論されました。会議最終日には、次期DAISY開発のため のスケジュールがまとめられました。仕様の開発、オーサ リングツール、プレイヤー等のアプリケーションの開発を 1年間で行うこと、各ステップが月単位で細かく決められ ました。プログラマーである私にとって、海外の研究者た ちがソフトウェアを開発する過程を間近に目にすることが でき、大変興味深かったとともに貴重な体験となりました。

SMIL/DAISY合同作業部会の様子
SMIL/DAISY合同作業部会の様子

■講演会
 今回の研究プロジェクトで、実際に地域で活用できる 防災支援システムを開発するために試験地域として選ば れた浦河町の住民の方を対象にプロジェクトの意図・意 義を伝え、災害時に支援を要する人々に配慮した町づく りに向けて、住民、行政、研究団体等が協力して計画的 に取り組むための新しいきっかけを作ることを目的にお こなわれました。
 なぜ浦河町なのでしょうか。浦河町は、北海道の日高 地方、襟裳岬の北に位置しています。地震が多い地域で あること、社会福祉法人「浦河べてるの家」があり当事 者が積極的に参加することが可能であることが選ばれた 理由です。

〔講演会プログラム〕
開会挨拶 : 浦河町 谷川弘一郎町長
基調報告 今世界で進む防災のとりくみ
   河村宏(国リハ研究所 障害福祉研究部長)
発表1 タイにおける津波被害と今後の障害者の防災の取り組み
   モンティアン・ブンタン氏(タイ視覚障害者協会)
発表2 インドの津波被害と対策
   ディペンドラ・マノーチャ氏(インド国立盲人協会)
発表3 べてるの家の防災活動
   山根耕平氏(浦河べてるの家)
発表4 国の半分が海面下―オランダで考える防災
   ジャック・ヤンセン氏(オランダ国立情報・数学研究所)
   エドマー・シュッツ氏
   (オランダ盲人図書館連盟)
発表5 伝承に語り継がれる浦河の自然災害
   遠山サキ氏(浦河ウタリ協会)
発表6 災害に備えた高齢者のコミュニティ活動
   木下富雄氏(浦河町東町第5自治会会長)
意見交換と交流 
閉会挨拶 : 国リハ研究所長 諏訪基

 講演会は、同時通訳(日・英)、手話通訳、要約筆記 があり、完全に情報が保障されていました。会場は満員 となり住民の方達の関心の高さを感じました。ブンタン 氏の「真なる知識・情報は文化も越えます。異なった言 語をも超えます。人の能力・障害をも超えます。……」 という言葉に感銘を受けました。

 SMIL/DAISY合同作業部会は、全て英語のみで行われま した。私にとっては、とても厳しいミーティングでした。 しかし、国際ミーティングに参加できた喜びはとても大 きく、海外からの研究者、当事者との交流は私にとって 計り知れないほど価値のある経験となりました。また、 私は、頸髄損傷による四肢麻痺者です。まだ日本におい て、私のようなADLが自立できていない重度障害者が就 労する環境が整っていない状況で、北海道まで飛行機に 乗り宿泊を伴った出張に行けたことをとてもうれしく思 っています。また、大きな自信となりました。今回の出 張にご理解をいただき調整をいただいた方々に心よりお 礼申し上げます。


講演会演者の方々
講演会演者の方々

講演会に参加している筆者(左端)
講演会に参加している筆者(左端)