〔研究所情報〕 |
第33回国際福祉機器展 H.C.R.2006を終えて |
研究所福祉機器開発部 中井 一馬 |
「ビリビリ、ドンドン、ガシャガシャ…」激しい音が飛び交う中、数人の男達が自らの腕力を試すように、壁や机を次々と解
体していく様を見ていると、自分の大切なものが雑に扱われたようで、切ない気分になってくる。その破壊行動は、平成18年9
月29日(金)の17:00を過ぎた頃、私のブースに向けられていた。
私は、平成18年4月から流動研究員として研究所の福祉機器開発部に配属された。以前は福祉機器とは異なる分野にいたため
か、恥ずかしながら国際福祉機器展の存在を知らなかった。この展示会は、田中角栄内閣の総辞職、石油ショック、長嶋茂雄引
退等の出来事が起こった年である昭和49年に産声を上げ、3日間で約1万人が来場した。それ以降毎年行われ、第22回(平成7
年)において来場者数が初めて10万人を超え、その後順調に来場者数を伸ばして現在に至っており、国リハセンターも毎年出展
していた。野にも山にも若葉が茂る頃、この展示会の準備が始まり、手伝いを引き受けた。私は展示場内のブース設計・デザイ
ンを主に担当した。もちろん詳細は業者に依頼したのだが、ベースは私がデザインしたといっても誰も文句を言わないだろう。
予定していた展示内容は、国立身体障害者リハビリテーションセンターで行っている研究とその位置づけであり、もう一つが、
科学技術振興調整費による「障害者の安全で快適な生活を支える技術開発」という独立行政法人産業技術総合研究所と共同で行
っているプロジェクトだった。このプロジェクトのテーマは「障害者の自己決定を支援する情報コミュニケーション技術の開発」
(サブ1)と「重度障害者の自立移動を支援する技術の開発」(サブ2)に分けられる。サブ1、サブ2とも当事者の研究開発
への参画を基本方針として進めており、サブ1は、障害者・高齢者の防災力をのばすことを目的とし、情報技術(GIS、PDA)を
活用した津波対策を北海道の浦河町に住む人々の協力を得ながら開発し、サブ2は、自ら移動し、社会に出て行く力を支援する
ことを目的とし、重度障害者のできる力を最大限に活かす技術と、安心と安全を支える技術を開発している。これらの研究を効
果的に展示するためにブース内は、サブ1展示エリア、サブ2展示エリア、国リハセンター展示エリアと、サブ2で開発した技
術を組み込んだ電動車いすを実際に走らすためのデモエリアの4つに区切ることが決められたが、それぞれのエリアを満足させ
る割り振りは非常に困難であり、多くの苦労が伴った。本番が近づき、詳細を決定していくにつれて、この仕事の大きさに実感
が湧き出し、自分にとってこの仕事は重荷になっていった。本番直前にも色々と不具合が出てその修正で時間だけが過ぎていき、
焦りが募っていった。
平成18年9月27日(水)、28日(木)、29日(金)の3日間、東京ビックサイトにおいて、今年で33歳を向かえる国際福祉機
器展は催された。初日の午前中は足元が悪いにも関わらず約4万2千人が来場し、2日目、3日目共に約4万4千人が会場に足
を運び、3日間で約13万人が来場した。国内において最も有名な展示会の一つである東京モーターショーの総来場者数が17日で
約150万人(平成17年)とのことであるから、3日間で約26万人の来場者という計算になる。これと比較しても平日3日間にも関
わらず大盛況だったといえる。我々のブースもこの恩恵を被り多くの来場者が足を止め、踏み入れてくれた(写真1〜3参照)。
いざ始まってしまうと焦りはなくなり吹っ切れていた。現場で車いすデモの見せ方を各担当者と意見交換し、本番中も音声、映
像の調整を行った。必死だった。しかし、その時にはこの仕事は「重荷」から「やりがい」に変わっていた。
デモエリアで発表した中で特に印象に残ったのは、車いすシミュレータのデモであった。このデモは他のデモと異なり、実際
の電動車いすがなく、1日目、2日目共に映像と口頭による説明だけだった。その為か正直言うと伝わってくるものが少なかっ
た。しかし、最終日にこの担当者は一つの仕掛けをしていた。それは、ナレーターとの漫才のような軽妙で洒脱な掛け合いで始
まり、福祉機器の必要性を述べる際にどうしようもなく出てくる悲愴感というものがなく、且つ真摯であった。その時間デモは
エンターテインメントに昇華していた。この担当者は、最終日の前日にデモの流れを作り直して臨んでいた。当たり前の事で誰
でも出来ることだが、状況によっては非常に困難になる「本気で取り組む」ということを実践していた。デモエリアに響く計算
のない真摯な声が、自らの力量を楽しんでいるようにも見えるプレゼンが、私の心を突きつけた。その破壊行動は、落葉が道を
隠し始めた今も私の心に向けられている。
あとがき
今回国際福祉機器展の開催にご尽力いただきました皆さま、ご多忙の中、ご参加頂きました皆さまに、この場を借りて御礼申
し上げたいと思います。