〔国際協力情報〕
韓国国立リハビリテーションセンター
開設20周年記念式典
総長
岩谷 力



 10月31日から3日間、韓国国立リハビリテーションセンター(以下、韓国リハセンター)設立20周年記念式典に出席する ためにソウルを訪れた。2年前に当センターと韓国リハセンターは姉妹施設の関係を結んでおり、その際に韓国リハセンタ ーの代表の方々が当センターを訪問されていたが、こちらから先方を訪問するのは私が初めてのことである。羽田から2時 間の旅で金浦空港に到着、日本人と結婚している看護職員の出迎えをうけ、車で韓国リハセンターに向かった。金浦空港か ら約1時間で到着。韓国リハセンター玄関正面には20周年を祝う垂れ幕、ホールや廊下には花と記念写真の展示が随所にあ り、センター全体がお祝いのムードに包まれていた。また、多くのリハビリテーション訓練修了生、患者さんが訪れ、旧交 を温めあっていた。
 10月31日の夕刻5時過ぎから祝賀記念式典がセンター講堂で開催された。韓国保健福祉省の障害者政策局のNho局長(大 統領と同じ苗字)、Kim院長の挨拶のあと、職員の表彰が行われた。外国からの出席者は私の他にはただ一人、オーストラリ アから招待されたRehabilitation InternationalのMichadl Fox会長であった。壇上の高い席に座り、すべて韓国語で進めら れる式典に不安を覚えたが、周囲の状況と隣席からの簡潔な英語による説明に助けられ、恥ずかしい思いをすることなく記 念式典を終わることができた。
 韓国リハセンターはソウルの北、中心部から車で約45分の場所にある。建物は町並みが続く中にあるが、すぐ裏には山が 迫り、紅葉が始まっており自然に恵まれた環境にある。前身は知的障害者の養護施設として1949年に設立され、1960年に国 立施設に移管され、1986年に国立リハビリテーションセンターと改称され、1994年に病院を開設した。センターには訓練所、 相談所、病院があり、病院には192床のベットと脳損傷リハビリテーション部、脊髄損傷リハビリテーション部、運動器障害 リハビリテーション部、小児リハビリテーション部、家庭医学部、歯科診療部、通院リハビリテーション部、薬剤部、看護 部がある。職員数は202名、来年には30名の増員が予定されているとのことである。
 入院患者は約190名、外来患者は150名、入院患者の約60%は脳卒中でその3分の2は高齢者であった。病院には3つの病棟 があり、それぞれに理学療法、作業療法室があるほか、自主訓練のための部屋があった。病棟の自主訓練のための部屋では、 家族の見守り、援助のもとに患者が運動を行っていた。
 入院患者には家族が付き添っており、訓練の脇で様子を見ており、時に訓練の介助をしていた。一昔前の日本の病院で見ら れた光景であるが、韓国では家族は4人が標準的で、付き添いできる家族がおり、看護人を雇うと医療費よりも高額な費用が かかるので、家族が付き添いをしているとのことであった。家族が付き添っているので、退院後の介護、健康管理、生活指導 などができるという利点があるとのことであった。院内の移動には家族が介助し、患者さんのベットの横には、付き添い家族 が夜間休むための補助ベットがあり、何年か前には我が国でも普通であった光景が思いだされた。いずれ、韓国も我が国と同 じように高齢社会となり、核家族化し、医療のあり方も変わっていくのかも知れない。医療は社会の在りようとともに変わっ ていくことを強く感じた。現在、敷地内で研究所の建設工事が進められていた。完成時には地上6階、地下2階の建物で、20 08年の開所の予定である。私たちの研究所との交流を強く希望された。
 11月1日には、祝賀国際セミナーが夕方4時から朝鮮ウェスティンホテルで開催された。スピーカーは、Kim院長、Fox会長 と大統領の社会政策主席秘書官のKim氏と私であった。
 Kim院長は、韓国リハビリテーションの歴史とこれからの活動について、Fox会長は国連の障害者差別禁止条約について、Kim 主席秘書官は韓国のこれからの障害者福祉政策について、私は日本の障害者福祉政策と当センターの活動と役割について、そ れぞれ30分の講演を行った。Kim院長とKim主席秘書官の発表は韓国語で行われたために、アウトラインは英語の抄録でかろう じて理解できるにとどまった。
 私は、当センターのトピックスとして、障害者人間ドック、脊髄損傷者の歩行訓練、高次脳機能障害モデル事業について紹 介し、障害者基本計画のもとに当センターが果たすべき役割について述べた。Fox会長は、差別禁止条約原案が国連で8月25日 に決定され、各国政府に批准を働きかけていることならびに条約の重要なポイントについて説明した。
 条約は50条からなり、差別の定義、法の下での平等、アクセスの権利、生存の権利、自立生活と社会参加、表現、意見、情 報への自由、教育、健康、ハビリテーションとリハビリテーション、就労、社会、政治への参加、文化、レクレーションへの 参加、統計とデータ収集、国際協力など広い範囲にわたるものである。これからの障害者福祉に関する基本的理念に関する世 界標準となると考えられた。Fox会長はこれから各国の政府に批准を求めて世界を回る予定であると述べていた。
 Kim首席補佐官はソウル大学の医療管理学の教授から大統領補佐官を務めている方で、これからの韓国は障害者の社会保障体 制を整備する時にあると説明された。彼のまわりには数多くの車いすの人々、肢体不自由者が集まり、彼は真剣な面持ちで話を ききメモをとっていたのが印象的であった。Kim院長とも親しい関係で、2008年に予定されている病院の増床計画を応援してく れているとのことであった。首席補佐官の職務を終了したときにはソウル国立大学の教職に戻るようである。
  延べ3日の韓国リハセンター訪問であったが、羽田から金浦空港の便を利用したので、羽田から金浦には2時間10分、金浦 から羽田にはわずか1時間30分の飛行時間で大変楽な移動であった。これから交流を深め、日本、韓国、中国がアジアの障害を持つ人々の保健、医療、福祉、就労に協力していかなければならないとの思いを強くしたものであった。


(写真1)記念式典出席者と岩谷総長
記念式典出席者と岩谷総長(左から2番目)

(写真2)韓国国立リハビリテーションセンター概観
韓国国立リハビリテーションセンター