〔センター行事〕
第23回業績発表会特別講演開催報告
(第4回職員研修会開催報告)
総長 岩谷 力


講演者:炭谷 茂先生 環境省前事務次官(現、(財)休暇村協会理事長)
演 題:「実践から考える私の障害者福祉の方向」


 国リハニュース1月号でお知らせのとおり、昨年の12月22日(金)に第23回業績発表会が開催されましたが、第4回職 員研修会も兼ねて、炭谷 茂先生をお招きして、特別講演を開催いたしましたのでご紹介します。
 炭谷 茂先生は、前環境省事務次官、元厚生省社会・援護局長で、現在は恚x暇村協会理事長のほか日本ソーシャル・ インクルージョン推進協議会代表、日本型CANまちづくり研究会代表、人権文化を育てる会世話人、環境福祉学会副会長、 福祉創造研究会代表、日英高齢者・障害者ケア開発協力機構日本委員会副委員長の要職をお務めになっておられます。現 職は休暇村協会理事長をのぞき、公的組織ではなく、炭谷先生が個人的に関係して作られた組織であります。先生は、役 所にお勤めの傍ら、法政大学、埼玉大学、上智大学、日本大学、国立看護大学校などで社会福祉論、社会保障論、医療シ ステム論を担当されて来ました。先生は、厚生労働省、環境省に在職中に、ホームレス、ニート、障害者など福祉の仕事 を精力的に進めてこられました。以下に、先生のご講演の要旨を記載します。
 従来の社会福祉は自立のための経済的、人的な支援サービスという枠で考えられてきました。今日、社会からの排除と 孤立がもたらす自殺、孤独死、児童虐待などの問題に対処しようとするときに、社会福祉を新しい視点から捉えることが 必要と考えられます。社会福祉を人間として尊厳ある人生を送るために必要となる支援サービスの総体と捉え直し、その サービスは官が税金で整備するだけではなく、住民が自らの手で整えていくべきと考えられます。社会からの排除、孤立 が際だってきたのは、競争社会となり、他人へのまなざしが欠け始めたことが一因と思われますが、ヨーロッパにおいて は、1990年後半に社会からの排除、孤立が福祉の問題の枠を越えた重要な国内政策課題となりました。フランスでは、ソ ーシャル・インクルージョンという理念のもとにホームレスや外国人の社会的排除を防止する法律が制定され、このよう な考え方はイギリス、EUにも拡がりました。ソーシャル・インクルージョンはノーマライゼーションと目指す方向は同 じですが、社会から弱者の排除をなくすには環境の整備だけでは不十分であるので、皆で排除されている人々を招き入れ る社会を作ろうという考えであります。この考えは、アメリカや日本における社会からのはみ出しを防ぐ原則は自助努力 であり、はみ出してしまった人々にはセーフティネットを用意するという考え方とは大きな違いがあります。ソーシャル ・インクルージョンは従来の福祉施策にはない仕事、教育、住まい、環境、生活の創造と言ったお金やサービスの提供の ほかに弱者にとって大切なものを提供する、住民が参加したダイナミックな町のなかの活動であります。仕事は、経済的 な自立のみならず、心身の健康、社会とのつながり、人間としての尊厳を保つために重要であり、障害を持つ人々が仕事 を得るためには、従来の行政が関与する授産、企業が用意する一般雇用の他に、第三の分野「ソーシャル・エンタープラ イズ」と呼ばれる公でもない企業でもない分野が必要です。英国ではソーシャル・エンタープライズには約40万人、ほぼ 農業人口と同じ人々が従事し、農業よりも多く生産を挙げていますが、ソーシャル・エンタープライズの一つとして、ソ ーシャル・ファームがあります。1970年代にイタリアの精神障害者が自分たちの手で、通常の企業と同じ手法で経営する 企業を立ち上げ成功したのをきっかけにドイツ、ギリシャ、オランダ、フィンランド、イギリスなどに拡がって、現在は ヨーロッパで一万社に及んでいます。ソーシャル・ファームには成功するものも、失敗するものも有り、成功するために はニーズにあう商品・サービスを開発すること、障害を持つ人々の特性を生かすことに加えて、健常者が参加した社会的 支援が必要であります。日本でもこのようなソーシャル・ファームが必要です。合併後の市町村に一カ所ずつ、全国で2, 000社の設置目標を掲げて活動しています。
 教育、住まい、環境については、またの機会にお話ししたいと思いますが、人間はただ単に生活をしているだけの存在 ではなく、人生を充実させるための活動、楽しい食事、芸術、コミュニケーション、余暇活動を充実させ、生活を創造し ていくことが必要であります。
 以上が炭谷先生のご講演の要旨であります。
 炭谷先生は障害者、被爆者、中国残留孤児、同和問題などに官の立場から関わられましたが、どの問題も大きな問題で あり、一生をかけて取り組んでいかなければならないと考えられ、環境省を退官されてからも、上に記した数多くの団体、 研究会の中心となって活動をしておられます。高い理想を掲げ、情熱をもって取り組んでこられた方のお話は示唆に富み、 福祉の現場に感銘を与え、日々の仕事への情熱を沸き立たせるものでありました。



(写真)講演される炭谷 茂先生
講演される炭谷 茂先生