〔委員会紹介〕
倫理審査委員会について
研究所長 諏訪 基



1.はじめに
 国立身体障害者リハビリテーションセンターでは、人を対象とする実験を伴う研究を実施する全ての場合には、ヘルシンキ宣言、 日本政府及び関連機関が作成している生命科学および臨床研究の倫理関連ガイドライン等に従っているかどうかの審査を受け、倫理 的配慮が十分になされていることを保障されることを条件としている。当センターには臨床研究倫理の審査機関として「国立身体障 害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会」(以下「委員会」)が設置されている。

2.ヘルシンキ宣言と臨床研究に関する倫理指針
 第2次世界大戦中のナチスによる残虐な人体実験の反省から作成されたニュルンベルク綱領を受けて、1964年にフィンランドの首 都ヘルシンキにおいて開かれた世界医師会第18回総会で「ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則」というヘルシンキ宣言が採択さ れた。これは、人を対象とする実験の倫理基準を示すもので、研究対象者の権利と福利を守ることが謳われている。我が国では、基 本的にはこのヘルシンキ宣言に基づき、臨床研究に関する倫理指針が策定されており、各研究実施機関は倫理審査委員会を設置して 研究課題に関して自ら倫理審査を実施することが求められている。

3.国立身体障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会
 厚生労働省の「臨床研究における倫理指針」が公式に制定されたのは平成15年7月であったが、当センターは先行して委員会設置 の準備を開始し、平成14年2月に国立身体障害者リハビリテーションセンター倫理審査委員会規程を制定し、平成14年度5月には倫 理委員会運営細則を整備した上で委員会を設置しその活動を開始した。現在は平成18年4月に改定された規程に基づいて倫理審査が 実施されている。
 委員会は12名以内の委員から構成されることになっており、内訳は、更生訓練所長(委員長)、研究所長(副委員長)、病院長、 看護部長、管理部長、センターの職員で総長が指名した者、医学分野以外の学識経験者で総長が委嘱した者となっている。現在外部 からは法律の専門家(弁護士)、並びに福祉の専門家、それぞれ1名を委員に委嘱している。
 委員会は年4回開催しており、18年度の審査実績は、新規37件、変更20件、継続12件であった。

4.倫理審査について
 提出された倫理審査申請書に基づいて、委員会では、研究計画が「臨床研究に関する倫理指針」および「疫学研究に関する倫理指 針」、すなわちヘルシンキ宣言の倫理基準を満たしているかを審査する。必要に応じて委員会に先だって申請者とコンタクトをとり 内容の確認や補足説明の要求などを行なう場合もある。
 委員会における審査では、被験者の人権・尊厳と安全性の確保、並びに個人情報の保護に関して十分に配慮されているかを判断す る。具体的には、1被験者の自由意思による同意に基づく研究への参加になっていること、2インフォームド・コンセントに基づく研 究の参加が確実に実施されること、3プライバシーおよび秘密が保護されていること、4研究のリスクが個人または社会に対する潜在 的な便益によって正当化できていること、5リスクを最小化するように研究計画が作成されていること、6利益相反が適切に扱われて いること、7弱者を便宜的な理由で研究対象として設定していないこと、8研究参加により便益をえるかの雨声のある者を系統的に排 除していないこと、を中心に審査する。
 申請書の書き方に関しては、研究のリスクを判断するために実験のプロトコール(手順)を詳しく記述すること、また、インフォ ームド・コンセントを取得するための被験者に対する説明を分かり易く行うことが強く要求され、審査の重要なチェックポイントで ある。
 当センターで審査の対象としている臨床研究として、医学研究の他に、福祉機器開発における臨床評価研究や、社会科学や心理学 の研究におけるアンケート調査も含めている。
 委員会での審査結果は、「承認」、「条件付きで承認」、「不承認」のいずれかに決し、総長に報告され承認を得た上で確定され る。

5.おわりに
 「臨床研究に関する倫理指針」が制定されて以来、我が国でも多くの大学や研究機関が“IRB”(Institutional Review Board) 、すなわち倫理審査委員会を設けるようになってきている。世界的には、臨床研究の成果を学会誌に発表する場合に、その研究が 適正に組織されたIRBでの承認を得ていることが常識になりつつある。当センターの倫理審査委員会も臨床研究の倫理性確保と被 験者保護に向けての取り組みに関して、弛まぬ努力によって世界的水準を達成し維持することが求められている。