〔研究所情報〕
特殊なニーズのある子どものきょうだいを対象としたワークショップの進展
研究所障害福祉研究部 北村 弥生


 特殊なニーズのある子どものきょうだい(8〜13才)を対象としたワークショップ(シブショップ)を1997年に視察し(国リハニュース 第187号(平成11年1月))、2002年から日本での試行を実施してきた。これまでの研究の進展を紹介する。


討論のないシブショップ

 シブショップの主な目的は、きょうだいに特殊な経験や感情、その対処方法についての討論をすることである。しかし、日本人は「討論」になじみが薄いため、2002年から2005年までは討論を行わずにレクリエーションだけを提供した。それでも、きょうだいの満足度は高く、家庭で障害について親と話をしたり、ストレス発散の場となることがわかった。自分のための活動に保護者の送迎を得て、同じ状況の子どもと参加することは、きょうだいの孤独感を軽減した。


討論のあるシブショップ

 2006年には、技術と経験のある進行役により、レクリエーションの要素を加えて実施すれば、円滑に討論が進行し、参加者の満足も高いことを実証した。討論の時間はアメリカでは25分程度と設定されているが、日本では小グループでの話し合いや個別に書くことからはじめて40分以上を要した。また、他の参加者の発言に触発された想起は,全員の前で話されるばかりでなく、隣に座るスタッフや参加者にささやかれることも多かった。「問題が解決した」は5割、「自分の考えが発言できた」は6割であったが、全員が「人の話を聞けてよかった」「自分の経験と似た話を聞いた」と答えた。

 小学校低学年の子どもは、自分の感情や経験を言語で表現することが難しいため、きょうだいがよく出会う課題6つを人形劇にして討論の導入に用いたところ、参加者は共感する課題を選んで意見や質問をすることができた。また、参加者の共感を引き出す役割を、きょうだい役の人形が果たした。


需要

 所沢、狭山、川越を中心とした知的障害の養護学校(小学部から高等部)と就学前通所施設に在籍する子どもの保護者約700人にシブショップの案内を送ったところ、30人程度の参加希望があり、毎回10人程度の参加者を得た。繰り返し参加する子どももいるため3年続けると1回あたりの参加者は25人程度になった。知的障害児だけでなく身体障害児や慢性疾患患児のきょうだいにも同様の課題があるため、ひとつの市にひとつ程度のきょうだいを対象としたワークショップの需要があると見込まれる。

 広報チラシの配付許可は、依頼した養護学校からはほぼすべて得られたのに反し、特殊学級では約36.8%であった。障害の受容が十分でない保護者への広報は難しく、障害児あるいはきょうだいへの告知が行われていない場合には参加を勧めることができないことは課題である。

 「思春期になって問題が起こったら行かせたい」という返信も複数あり、きょうだいの問題が顕在化しないと保護者の関心は引き難い。問題が起こる前に意識と生活を修正することが重要であり、シブショップは健康なきょうだいを対象とする。楽しく遊ぶだけのシブショップでも意義はあるのだが、それでは保護者の参加意識は高まらないため、どんな危険があるのか、どういう効果があるのか、を広報に記載することも有効である。軽度の発達障害や心身症のきょうだいでも、きょうだいとしての側面の支援にはシブショップは有効で、家庭での行動や感情に改善が見られることも示された。


普及

 討論の有無にかかわらず日本に適したシブショップの実施モデルを開発し、マニュアルも作成中であるため、どのように普及するかが次の課題である。所沢近隣の公的機関、親の会、大学サークルに、きょうだい支援の必要性の認識、取り組みの意識、実施を阻む要因について調査した結果、公的機関の現場では,需要は認識されているものの、資金と人的資源の制限があり、対策枠組みの構築を検討しなければならない。

 親の会は、きょうだい支援の必要性を最も強く認識し、資源は整わないため運営上の課題は多いが、最も迅速な対応を示した。会員数が少なく該当年齢のきょうだいを5人までしか集めることができない場合には、ミニショップとして週末に数人のきょうだいとボランティア学生で外出する企画を隔月で開始した。大きな会では、夏季キャンプに同行するきょうだいにレクリエーションを提供する試みを開始した。親の会の中にはきょうだいだけ別のプログラムを実施することへの抵抗がある場合が多い。最終的には家族あるいは地域での課題解決を必要とする点では、家族や障害児と一緒の活動で、きょうだいに適切な配慮がなされることが望まれるが、障害児への対応が優先されるという当初の問題を解消するのは大きな挑戦である。

 大学で障害児と遊ぶサークルは、きょうだい支援の必要性を意識化していなかったが、新しい視点には強い関心を示した。障害児への介助とは異なり、きょうだい同士の交流を促す支援方法と目的について研修を提供し、学生で企画・運営する組織づくりを試行中である。


 平成19年度は、未就学きょうだいと母親を対象としたワークショップ、中高校生きょうだいを対象としたワークショップを試行予定である。きょうだいという視点から障害への関わりを探る試みは、まだ続きそうである。



(写真1)ワークショップでのはじめての討論
ワークショップでのはじめての討論

(写真2)障害のある男児(小3)の姉(小6)と弟(小1)が出会う6つの課題と対処方法を示した人形劇「私の家族」の登場人物6人
障害のある男児(小3)の姉(小6)と弟(小1)が出会う6つの課題と対処方法を示した人形劇「私の家族」の登場人物6人