〔研究所情報〕
北米リハビリテーション工学カンファレンス参加報告
研究所福祉機器開発部長 井上 剛伸



 2007年6月17日から19日にかけて、アメリカアリゾナ州フェニックスにおいて開催された、北米リハビリテーション工学カンファレンスに参加しました。(写真1)フェニックスは、アリゾナ砂漠の中に位置し、とにかく暑くて乾燥しているという印象でした。最高気温は、42°Cと、今まで体験したことのない熱さです。大きなサボテンが、本当にあるんです。(写真2)

 このカンファレンスは、北米リハビリテーション工学協会(RESNA)が主催するもので、年に1回のペースで開かれています。私は、昨年、一昨年に続いての参加でした。参加者は400人程度で、職種は工学系、医療系、教育系と多岐にわたっています。私は、福祉機器の心理評価の国際協力に関するワークショップで、PIADS(福祉用具心理評価スケール)の日本語版の作成と標準化に関する発表を行いました。このワークショップは、カナダの西オンタリオ大学のJeff Jutai 教授がオーガナイズしたもので、カナダ、アメリカ、プエルトリコ、スペイン、イギリス、スェーデン、日本からの報告がありました。また、ワークショップ後のミーティングでは、福祉機器の心理評価結果を、保険請求の提出書類に含めているというアメリカの施設からの報告や、ICFと心理評価の関係に関する議論もあり、心理評価の重要性が各国で高まっていることが確認できました。

 私にとってのもう一つの大きなイベントは、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、日本の4つのリハビリテーション工学協会で構成される、徳島アグリーメント協力団体の代表者会議です。それぞれの協会の関係をさらに密にするためのホームページの充実や、各国間の人材交流の促進に関する意見交換があり、各国政府のグラントに関する情報を交換するなどの具体策を取り決めました。写真3はオーストラリアと日本のリハビリテーション工学協会の共同ブースの様子です。ポスターの展示とパンフレットの配布を行いました。このブースでは、昨年研究所で実施した科学技術振興調整費プロジェクトの主催で行った、国際オーファン・プロダクツ・シンポジウムの報告書も配布し、研究所での取り組みについて意見交換を行う良い機会ともなりました。

 昨年度と比べると、一般演題が少なくなり、ワークショップが多くなっているように思いました。聴講した演題のなかで印象に残ったものとしては、ALS協会がオーガナイズした、ALS患者を対象としたコミュニケーションエイドのワークショップを挙げたいとおもいます。この中で、日本とアメリカの人工呼吸器の使用率の違いが指摘されていました。トータル・ロック・インまで至るケースは、日本の方がはるかに多いということです。現在進めているブレイン・コンピュータ・インターフェースの研究は、日本ならではのニーズに応える研究だと思いました。講演者のALS協会の方に、ブレイン・コンピュータ・インターフェースについて質問したところ、“全く期待していない。それを必要とするところまでいく人はアメリカでは少ない。”との回答でした。

 カンファレンスに付随して、福祉機器の展示も行われていました。企業の展示は20社ほどで、車いす、コミュニケーションエイド、移乗機器など多岐にわたっていました。一つ目を惹いた展示は、6輪の電動車いすなのですが、6輪ともホイールインモータで、駆動力を発生します。その6輪は同期して方向を変え、それに伴って椅子がホイールベースに対して回転します。つまり、ホイールベースは常に平行移動をして、椅子のみが方向転換するという方式です。乗ってみましたが、あまり違和感をおぼえることなく操作できました。砂利道の走行コースが敷設されていて、その上を平気で走り抜けるのには、驚きました。まだ、商品にはなっていないということでしたが、近々発売の予定だそうです。“日本でも売るのか?”と聞いてみましたが、”Maybe”とのことでした。

 RESNAは世界に先駆けて結成されたリハビリテーション工学に関する協会です。その存在は、常に世界をリードしてきたと思います。そのRESNAで、リハビリテーション・エンジニアに関する議論が行われていました。リハビリテーション工学や福祉機器の進展にともない、エンジニアの役割も変化しつつあります。研究所には工学に関する部が2つもあります。エンジニアリングとリハビリテーションの関わりについて、もう一度、考え直す必要があるかもしれません。



(写真1)
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(写真2)
写真2

(写真3)
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