〔学院情報〕
外部実習を終えて
学院言語聴覚学科 2年 矢野 聡一


実習先:埼玉県総合リハビリテーションセンター 言語聴覚科


 実習を通じて学べたことの一つは、教科書に載っているような典型的な症例は現実にはほとんどないということでした。脳血管障害の場合では、失語症だけでなく高次脳機能障害や構音障害など、他の障害を合併していることが多く、その臨床像は様々で見学していて戸惑うことが多かったように思います。失語症と聞くと、どうしても教科書と照らし合わせながら、失語症のタイプを分類することにこだわってしまい、それ故に患者様が抱えていらっしゃる本質的な問題が見えにくくなっていました。患者様の症状を教科書と照らし合わせ、実際の臨床像を理解することも大切であるが、それだけではなく患者様が現在何に困っているのか理解しようとする視点を常に欠かさないことも重要であると感じました。実習に臨む際、学院で学んだ知識と現実の違いを認識することは一つの目標であったので、今回の実習を通じてその目標を達成できたように思います。

 実習先のセンターには障害者支援施設も併設されており、その施設の患者様と交流ができたことも大きな収穫であったように思います。様々な背景の方々とお話や訓練、検査をさせていただいたことで、実際の患者様が抱えていらっしゃる障害に対する思いや、将来に対する不安・希望などを直に感じることができ、リハビリテーションの意味について改めて考えさせられました。症状も落ち着かれて、急激な機能の向上は期待できない方に対して、言語聴覚士としてどのような介入ができるのか、どのようなリハビリテーションを行うべきなのか、最初は想像もできませんでした。しかし先生方の訓練の様子を見学させていただいて、障害を抱えながら社会復帰される方に対して、言語機能の訓練だけでなく、その方の趣味と関連ある課題や、実用的なコミュニケーションの訓練などを平行して行っていることに気づきました。特に、重度の失語症の方であれば、自発的に周囲へと発信できる機会と機能が乏しくなってしまうため、趣味などを通じて周囲へと発信する機能を促進し、コミュニケーションへの意欲を高めるといった働きかけも言語聴覚士の重要な仕事であると感じました。訓練=機能訓練という認識が強かった自分にとっては、非常に重要な気づきでした。

 今回の実習では、自分の担当ケースとして施設の患者様の担当させていただきました。週に2回しかお会いできないのが残念でしたが、訓練時間の40分(2単位)を全て自分に任せていただけたことは非常に有難いことでした。最初は全てを任せられることに不安を感じましたが、時間の使い方や内容の組み立てなど、実際の臨床を一部ではありますが経験できたことで、自分の働く姿が以前よりも鮮明にイメージできるようになりました。また、検査や訓練を上手くやろうということばかりに意識が向いてしまい、患者様の車椅子のブレーキの確認、患者様が検査や訓練をうまくできなかった時のフォローなど、検査・訓練以前の基本的な部分がおろそかになってしまうことがありました。患者様を尊重するという、専門職として不可欠な姿勢が頭では理解できていても行動に移すことができていなかったように思います。自分の持っている理念や考えを、実際に行動で示すことの難しさを痛感しました。この経験を糧にして、体現できるよう精進していきたいと思います。

 実習を通して得られた多くの気づきや、先生方のご指導を大切にし、これから出会うであろう多くの方々により良いサービスを提供できるように、言語聴覚士としての自分を磨きあげていきたいと思います。





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