〔研究所情報〕
血糖値センサとその補助機器の開発
研究所障害工学研究部 外山 滋



 糖尿病には三大合併症として糖尿病性網膜症、腎症、神経症があり、それぞれ視覚障害、人工透析、下肢切断などの原因となることから、相当数の身体障害の原因になっていると思われます。これらの障害を負った方々のQOLの向上、またさらなる症状の進行を抑えることは重要な課題と言えます。そのためには糖尿病の進行を防ぐための機器の研究が重要ですが、私たちは一つの研究の柱として、血糖値センサの研究を行っております。既に血糖計は様々な製品が開発されていますが、糖尿病患者の人口から考えた潜在的なニーズの多様さから考えると、補助機器を含めてまだまだ様々な研究開発が必要です。

 その一例として、私たちは以前に血糖値センサの音声化装置の開発を行いました。それまでの血糖値センサは液晶表示により測定結果を表示していただけなので、網膜症の患者さんが一人で血糖値センサを操作することが困難でした。そこで、測定手順を音声でガイドするとともに、センサの出力を読み上げる装置を開発しました。その後、本機は血糖値センサのオプションとして市販化されています(写真1)。

 また、穿刺具を使って指などから少量の血液を出し、そこにセンサをあてがうという測定方式であるため、痛みを伴う点が現在のセンサの本質的な問題として挙げられます。そればかりでなく、何度も同じ部位で測定を繰り返していると、皮膚が硬くなってきて測定が困難になるという問題もあります。

 一般に、生体を計測するセンサは、身体に傷を付けることになる観血的方式よりも、非観血的方式が好ましいと考えられていますが、血糖値センサの場合も非観血的な測定法がいろいろと試みられています。非観血的方法はそもそも痛くないというメリットがあるばかりでなく、一日の血糖値を連続してモニタリングできるという可能性を秘めています。その様な試みとして、近赤外領域の光の吸収を原理とする血糖計や、皮膚からの滲出液中の糖の濃度から血糖値を推定する方式のものなど様々な方法が考えられていますが、実用化には大きな技術的課題を乗り越える必要があります。

 一方、以前より小型血糖値センサとインシュリンのマイクロポンプを併せて体内に埋め込む方式の人工膵臓の研究が行われています。学会発表等では数ヶ月のコントロールが可能だったという報告がありますが、実用化には至っていません。センサを長時間体内に埋め込むと、表面へのタンパク質の吸着などが起こり感度が低下するため、長期間の使用に耐えられません。

 そこで、最近登場してきたのが、針型の血糖値センサを3日〜1週間程度腹部に挿入し、連続して血糖値をモニタリングし、場合によってはインシュリンポンプと連動して血糖値をコントロールするというものです。これも人工膵臓用センサと同じく、長時間体内に埋め込むと感度が低下しますが、センサの寿命が来る前に交換したら良いという考え方です。この方法ではセンサは従来の動作原理に近い物が使えるために比較的、技術的な困難が少ないと考えられます。

 現在、富山大学などと共同で、体内で長時間安定して動作する血糖値センサの開発を目指しています(写真2)。これまでに同大学のグループが開発したグルコース酸化酵素産生酵母を導入したセンサを作製しており、共同特許の取得などをしております。今後、体内にセンサを挿入する際の痛みを少なくするために、変形自在なセンサの開発に取り組むとともに、より生体親和性の高い表面を有するセンサにしたいと考えております。



(写真1)血糖値センサと一体化した音声化装置

(写真1)血糖値センサと一体化した音声化装置
((財)テクノエイド協会の助成のもとに、当研究所、松下電器産業梶A松下寿電子工業梶A潟Aークレイ、アートロニクス鰍フ共同プロジェクトで実用化)



(写真2)ラットに刺入した開発中のセンサ

(写真2)ラットに刺入した開発中のセンサ(写真提供:富山大学工学部山口昌樹准教授)