〔病院情報〕
第1回発達障害に係わる合同勉強会についての報告
病院 医療相談開発部長 深津 玲子



はじめに

 今年度より国立身体障害者リハビリテーションセンターは発達障害者の就労支援に関する事業を開始いたしました。ここでいう発達障害とは発達障害者支援法に定義されたものを指し、したがって自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などを対象とします。

 表題の勉強会に関するご報告の前に少しこの事業についてご紹介いたします。平成17年度より発達障害者支援法、障害者自立支援法の制定、介護保険法、教育基本法の改正など障害者の社会的自立に関連する重要な法律の改正、制定が相次ぎ行われ、当センターが係る諸制度は急速に拡大しました。なかでも発達障害者の各ライフステージに対応する一貫した支援体制の構築は急務であります。そこで当センターは高齢・障害者雇用支援機構、国立秩父学園と協力して青年期の発達障害者が、居住地で支援を受け職業生活を含めた自立生活を営めるようにする体制の確立を目指して、平成19年度から事業を開始しました。

 本事業は当センターと国立秩父学園との共同プロジェクトとして、国立秩父学園発達診療所外来通院中の方を対象に支援実態の調査・研究並びに高齢・障害者雇用支援機構との連携により、自立生活並びに就労支援の試行的実践を行うことにより、所沢における発達障害者就労支援体制の構築をはかることを目的にしています。これによりサービス提供の門戸を開く対象者の障害認定から就労までの一貫した支援体制の整備をはかり、これを所沢モデルとして全国に発信することができればこの事業は成功といえます。

 今年度は秩父学園発達診療所での対象者登録、更生訓練所での訓練プログラム作成、研究所での福祉機器開発を含む調査研究が始まったところです。20年度初めより実際に登録者が更生訓練所を利用し就労支援を開始する予定です。


発達障害に係わる合同勉強会について

 前述の事業を進めるにあたり、今年度は秩父学園の協力を得て発達障害に関する勉強会を定期的に開催することになりました。予定は表1のとおりです。秩父学園は知的障害者の入所施設のほかに、発達診療所(外来)および発達障害に関する研修事業を行っております。今回の勉強会講師陣は同学園の全面的な協力でお願いをいたしました。

 当センターで発達障害に関して学ぶ大変良い機会ですので、ぜひ多部門の方の出席をお願いいたします。日程は決定次第お知らせしておりますが、ご不明の点は事務局の医事管理課へお問い合わせください。


第1回発達障害に係わる合同勉強会について

 第1回発達障害に係わる合同勉強会は、秩父学園医務課所属で心理士の藤井知亨先生を講師にお招きして、7月24日(金)に開催されました。ご講演のタイトルは応用行動分析です。応用行動分析学;Applied Behavior Analysis; ABAとは我々がいつも何気なくとっている、当たり前の行動から法則を見いだした学問で、人の行動を理解するとき、あるいは計画的に人の行動をコントロールするときに役立ちます。

 研究の対象は障害者をはじめとして様々なヒューマンサービスの領域にわたり、たとえば商品購入を促進するためのポイント制度なども応用行動分析に基づいた手法です。応用行動分析を実際の作業指導に応用する上で必要となるものに課題分析が挙げられます。

 課題分析とは一連の行動を、細かく分析・分解することを言います。たとえば「靴下をはく」を課題分析すると@靴下のかかとを下に向けるA両手で靴下のゴムをとるB靴下につま先を入れるC靴下にかかとを入れるD靴下のゴムを上に上げる、となります。対象者に作業を教えるためには、その作業を課題分析し、系統的な指導;システマティックインストラクションを行う必要があります。

 作業の各工程、たとえば「靴下をはく」であれば前述の@からDの各工程について、指導者が意識的にプロンプト;弁別刺激、ヒントのようなものを出し、徐々にプロンプトの介入度合いを減らしていくことが重要です。作業指導のやり方として、連鎖化;チェイニングにいくつかの種類があります。フォワードチェイニング;はじめから順に少しずつ教える方法、バックワードチェイニング;終わりから順に少しずつ教える方法、トータルタスク;すべてを通して教える方法です。

 各チェイニングにはそれぞれ利点があり、慣れない行動を確実に教える場合にはフォワードチェイニング、とにかく達成感を経験させたい場合にはバックワードチェイニング、行動の一部分ができない場合はトータルタスクを選びます。また望ましくない行動を減少させる方法として、消去;ある行動の生起に伴って、正の強化、負の強化いずれも随伴しない場合に観察される行動の減少、罰;望ましくない行動を減らすために悪い結果を与えること、についての解説もありました。

 今回藤井先生はたくさんの具体例をまじえて、大変わかりやすく応用行動分析についてご説明下さいました。これは発達障害者への支援のみならず、すべての障害者の方への援助プログラム作成に役立つ内容で、今後我々も積極的に応用していくべき学問であると感じました。

 今回の講演スライドは下記で見ることが可能です。http://com-t.rehab.go.jp/report/08-00発達障害/100-070726第1回勉強会(行動分析).ppt



講義名 内容 講師
7/24 応用行動分析 個体の行動を環境との相互作用の中で捉え、不適切行動をどのように修正するか、また新たな行動をどのように獲得していくか基礎的な理論について 国立秩父学園心理士 藤井知亨氏
9/25 自閉症スペクトラムにおける行動障害とその対応 行動障害の意味、行動障害の生起要因とその対応法について 医師 西脇俊二氏
10/17 関係機関とのネットワーク 発達障害者支援センターでの実際の他機関との連携と実情・課題について(所沢モデルの連携に向けて) 埼玉県発達障害者支援センターまほろば 藤井俊幸氏
10/31 発達障害児者の家族支援 国立秩父学園外来療育における家族支援について(外来療育相談及びアウトリーチでの在宅支援) 国立秩父学園心理士 桑野恵介氏
11月 発達障害支援をめぐる行政課題 発達障害の理解、障害者自立支援法との関係、雇用分野の発達障害への支援施策、発達障害者が利用できる就労支援施策、相談支援体制、地域自立支援協議会、新たな施策等の行政からの視点について 厚生労働省障害福祉専門官 大塚晃氏
未定 就労支援@ 就労までの経路、就労までの課題、就労からの課題、ハローワーク・地域障害者職業センターとの連携、就労成功への条件等について 藤巻鉄志氏(世田谷区立奥沢福祉園)
未定 就労支援A 就労支援の実際についての事例紹介について 藤巻鉄志氏(世田谷区立奥沢福祉園)
未定 就労支援の取り組みについて 障害者自立支援法の施行にともなう就労支援の取り組みついて 厚生労働省就労支援専門官箕輪優子氏