〔センター行事〕
平成19年度第2回職員研修会開催報告
更生訓練所理療教育部長 田村 一


 平成19年度の第2回職員研修会は、去る9月21日(金)に、兵庫県立総合リハビリテーションセンター顧問、同中央病院名誉院長、医学博士でいらっしゃる澤村誠志先生をお招きして開催されました。

 先生は、1955年に神戸医科大学をご卒業後、60年米国カルフォルニア大学にて義肢装具士として義肢研修を受けられ、61年より兵庫県下の身体障害者巡回移動相談に従事されました。このときのご経験から兵庫県立総合リハビリテーションセンターの設立にご尽力され69年に開設の運びとなりました。以来センター活動の中心的役割を担われ、また74年以降国際義肢装具協会のメンバーとしてもご活躍されて、95年からは会長も歴任されました。先生は常にグローバルな立場から日本のリハビリテーションの現状をご覧になり、わが国の障害者施策を始め、さまざまな政策提言を数多くされております。


 研修会では「誰もが、安心して、心豊かに、地域に住み続けるために」との演題をいただき、「地域リハビリテーションの理念と実践」という観点から、整形外科医を志された動機、兵庫県における総合リハビリテーションセンター設立までのお取り組み、義肢装具領域における国際協力など、先生ならではの幅広いご活動内容から今後の地域リハビリテーションの将来プランにいたるまで、精力的にお話をされました。大変エネルギッシュなお話し振りで、先生のお考えが熱く直に伝わってくる思いでした。

 その一つ一つについて詳しくご紹介できればいいのですが、字数の関係もありますので、特に私が思いを強くしたいくつかの点につきまして、ご紹介させていただきます。


 第1点目は、「チームアプローチの必要性」に関してです。先生は「リハビリテーション専門職に求めたいもの」として、重度化、重複化した障害のある人々のリハニーズに応えるためには、一般的なリハ知識だけでは不十分で、全人的な立場に立って、急性期から回復期、維持期にわたって個々の障害別に、より深い技術と経験を持つリハ各専門職種の協働によるチームアプローチが必要である、ということを強調されておられました。

 現代社会が複雑多様化の様相を呈するにつれ、広く人々の社会生活に関する医療、福祉ニーズ自体の複雑多様化をもたらしましたが、各専門職種のありようはそうしたさまざまなニーズの、一つ一つへの確実な対応を迫られることを背景に、「高度に専門分化」してきたと思います。今、障害のある方々の地域における自立した社会生活を可能にするためには、住まい、移動、情報の収集・発信、雇用などの多様な場面での支援が、きめ細かくかつ総合的に行われることが重要となってきており、それゆえにこそいわゆる関係機関の「ネットワーク化」が各方面で叫ばれているのだと思います。先生のおっしゃる「全人的な立場に立って」ということを、「高度に専門分化」した一つ一つの医療、福祉サービスを生活全般を効率よく支えるためにあらためて「総合化」することの重要性をこれからの私たちの業務の視点として明確にすべきであることを感じました。


 第2点目は、「社会生活力プログラム」についてです。先生は、障害のある方々の社会参加へのアプローチとしては、総合的なかつ地域生活を基本としたリハビリテーション活動も重要であるが、障害のある方本人の「主体性」とか「自己決定」を基本とした「社会生活力」を身につけてもらうこと、すなわち「エンパワーメント」の視点からのアプローチが大切となってきている。しかしこれが現在においては不足しているとお話されました。不足しているという認識に立って、自立生活訓練センターにおけるプログラムとして「生活の基盤を作る」「自分の生活を作る」「自分らしく生きる」「社会参加する」「自分の権利を生かす」といった観点での「教育リハビリテーション」を導入されておられるとのことでした。

 最近の更生訓練所利用者の方々のニーズも変化してきており、職業訓練の場面においても技術修得の面だけにとどまらず、まさに上記の視点に立った支援が必要な方々が多くいらっしゃいます。仕事を通じて「生活の基盤を作り」、「自分らしく生きる」「自分の権利を生かす」ことの大切さを理解していただき、ご自分の社会生活を「自己決定」をしていくという力を身に着けていただく、そのために具体的にどういうプログラムを用意するか、という視点で取り組んでいるところではありますが、改めてこうした視点の重要性を再認識いたしました。


 第3点目は、「ユニバーサルな社会づくり」についてです。先生は「ひょうごが進めるユニバーサル社会づくり」の中で、「誰もがたがいの人格と個性を尊重し支えあう=ひと」「誰もが容易に利用し質の高いサービスを共有する=もの」「誰もが、多様な方法で、理解しやすく手に入れ、交換できる=情報」「誰もが持てる力を発揮して働く=主体的な参加」の視点を掲げられ、更に「誰もが安心して住まい、自宅から街中まで安全、快適に移動し、活動できる社会=まち」の重要性も強調されておられました。

 そして「ユニバーサルデザインまでの道のり」の中で、従来の「バリアフリー」ではなく「アクセシブル・アンド・ユーザブル」ということを紹介されています。「アクセシブルとは、人々が環境の中の資源の中から自分たちの使いたいものを得る」、「ユーザブルとは、環境が人により効果的に使われる」ことを意味し、これからのまちづくりを考える上でのすべての分野の基本的視点とする必要があるというものです。

 また、地域リハの達成のためには「365日」「24時間」安心が確保されることが最も重要で、そのためのハード面、ソフト面の整備が必要であり、地域社会全体の意識を変えていかなければならないともおっしゃっておられました。

 当センターにおいても、これからは身体障害のある方々のみならず、すべての障害者の方を対象として、お一人お一人のニーズを踏まえた就労支援を中心とした訓練支援サービスの提供、及びそのための医療、福祉の専門的支援技術開発、代償手段としての利便性の高い各種支援機器の開発、普及、という相当の広がりを持った役割、機能が求められてくるものと思われます。

 一方、国の機関であり、「地域生活支援」を目指す障害者自立支援法に規定する指定事業所ということであれば、先生が強調されておられた地域リハビリテーションの視点からの「チームアプローチ」「社会生活力プログラム」そして「まちづくり」への参画も含めた、いわゆる「所沢モデル」作成の中心的機関として「総合化」された地域リハビリテーションのノウハウを日本全国に、あるいは世界に発信していくための実践を積み重ねていかなければならないという思いを強くいたしました。


 先生のお話をすべてお聞きしたあとに、先生が冒頭お話が始まる前に「地域リハは、理念で無く、「やってなんぼの世界」であると思う」と強調されていたことを改めて深く噛み締めて、今後も先生のご活躍をお祈りしたいと思います。


講演される澤村誠志先生

講演される澤村 誠志先生