〔研究所情報〕
第20回バイオメカニズム・シンポジウムに参加して
研究所福祉機器開発部 石渡 利奈



 第20回バイオメカニズム・シンポジウムが、平成19年8月7日〜8月9日に茨城県潮来市にて開催されました。バイオメカニズム・シンポジウムはバイオメカニズム学会が主催する合宿形式の密度の濃い研究発表・討論会で、隔年で開催されています。参加者には国リハ流動研究員のOB・OGも多く、現福祉機器開発部からは、井上剛伸部長、廣瀬秀行室長、塚田敦史リサーチレジデント、そして今回が初回の私が参加しました。

 井上部長と私は、同セッションにて、それぞれ「聴覚刺激による事象関連電位を利用した意志伝達装置の開発に関する研究」、「目画像による臥床者の日中覚醒度計測」について、発表を行いました。前者は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を対象としたBCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)の開発に関わる研究成果の報告です。この研究では、ALS患者を対象にニーズ調査を行い、日本語音声を聴覚刺激として与えた際に誘発される脳波(P300)を検出するBCIのコンセプトを提案しています。BCIの刺激に“日本語音声”を用いるというのは、これまでになかった意欲的な取り組みで、大切な目の機能を温存したいというALS患者のニーズに基づいた重要なコンセプトといえます。現段階で、5者択一課題により3段階で50音の1文字を選択が可能で、既存品よりも速い情報伝達速度が得られており、実用化に向けて更なる研究を進めています。

 私は、高齢者や重度身体障害者など、医療的制約のためにベッド上で生活する臥床者の覚醒度モニタリング手法について発表しました。ベッド上では、覚醒度が低下しやすく、昼夜逆転などの生活リズムの障害が生じることがあります。本研究では、眠くなりやすい安静生活行為中の覚醒度を簡便かつ非干渉に把握し、覚醒度向上を促すケアを提供するための手段として、目の画像解析による開眼度の有効性を検証しました。私たちは、眠くなると“瞼が重くなる”ように感じますが、開眼度はこのような交感神経活動低下による瞼の下垂を指標としています。実験の結果、開眼度は、眠気表情の評定値と高い相関を示し、脳波とも相関することがわかりました。これにより、開眼度を用いることで、覚醒度の変化を時系列的に非接触で簡便に記録することが可能になります。

 シンポジウムでは、医学、工学、体育学、人類学など異なる分野からの40を越える発表の他、夜話「車いすから発想する次世代モビリティ」と題して、筑波大学の蓮見孝先生のご講演がありました。蓮見先生は、「革新は常識の正反対に存在する」というコントラスティブ発想から数々のユニークなのりものをデザインされています。この発想でモノ・コトを見つめ直してみると、障害の象徴のような車いすが、未来ののりもののように見えてくる、というお話に、福祉機器の一課題である「導入に対する心の葛藤」を生まない社会を目指していくためにも、まずは開発者から福祉機器に対する潜在的な思い込みを捨てていく必要があることを感じました。



(写真1)シンポジウムの様子



(写真2)シンポジウムの様子



(写真3)シンポジウムの様子