〔学院情報〕
学院視覚障害学科紹介
〜視覚に障害をもつすべての人のQOL向上に貢献できる専門職を養成しています〜
学院視覚障害学科


【専門知識と訓練・指導技術を身につけた指導者の養成】

 当学科は、平成2年4月に設置された、わが国で唯一の、国立国営の視覚障害生活訓練専門職員の養成課程です。

 修業年限は2年で、入学定員は1学年20名、合計で40名となっています。

 当学科で養成する視覚障害生活訓練専門職員は、社会福祉施設や視覚障害者関係団体、眼科病院、盲学校などにおいて、視覚の単一障害のみでなく、視覚に障害をもつすべての人を対象にQOL改善のための助言、援助、教育、訓練を提供し、また、視覚障害をもつ人に関わるすべての人に助言、援助を提供できる専門家としての役割を期待されています。


【カリキュラムの特色】

 そのため、当学科では、視覚障害者の歩行技術、コミュニケーション技術、日常生活技術などの専門的技術を習得するための理論・実技・演習と、視覚、視覚障害および周辺領域の広範な専門的知識を習得するための講義の両者について多くの時間を割くとともに、実際の視覚障害者への訓練技術を研鑽するために3ヶ月間の臨床実習期間をカリキュラムに組み込んでいます。

 大きな流れを説明すると、1年次は技術指導・訓練を想定した理論・実技・演習科目が多く組まれています。実技・演習は視覚障害のシミュレーションを体験することにより、学生自身が視覚障害による様々な困難課題を体験し、それらを実際に改善する方法を学習します。2年次の5月から3ヶ月間、視覚障害者に訓練を提供している施設での臨床実習に出ます。この期間に実際の視覚障害者に訓練を提供する現場を見学し、実際に指導し、実際の視覚障害を持った人に対する方法、課題の評価、改善のための訓練プログラムの策定、訓練の提供方法を学びます。臨床実習後は実習で体験したことの裏づけとなる理論、さらには、多様な重複障害について専門知識と訓練理論を学びます。


【入学者の状況】

 入学者は社会学系、文学系、教育系、心理系と多岐に渡りますが、理科系、工学系の方の入学は多くありません。年代的には新卒者が毎年おおよそ半数を占め、社会経験のある方の入学も少なくありません。社会経験年数は幅がありますが、全体の入学時平均年齢は25歳程度です。


【学生の現状】

 現在、2年生は重複障害関係の授業を受けつつ、卒業研究を進めることに奮闘しています。1年生は様々な訓練科目に取り組んでいる真っ最中です。特に実技演習科目ではもっとも履修時間数の多い歩行訓練については、6月以来の学習効果が実を結びつつあり、白杖1本でアイマスクを装着した状態で電車やバスに乗り、指定された場所へ安全に効率的に到着できるまでの技能を獲得しつつあります。これからは指導法について磨きをかけて行くことになります。

 勉学だけでなく、並木祭(文化祭)や学院交流会を通しての他学科学生や教官との交流を持つ他、集中講義でお世話になる講師の方たちとも交流を深めています。講師の方は研究者のほか、視覚障害リハや重複障害のリハの現場で活躍されている方も多く、これからの人生の大きな財産になることでしょう。


【視覚障害学科の存在意義】

 視覚障害者の生活訓練は多くの場合、全盲の方を対象に歩行、点字、日常生活技術の訓練を提供するものという認識が作られて来たように見受けられます。少なくとも実態は、視覚に障害を持つすべての人が、身近な場所で困ったことを改善するための訓練や指導を受けられないのが現状です。全国身体障害者実態調査によれば、障害の認定を受けている視覚障害者は約30万人と推定されていますが、まったく視覚が活用できない人は、全体の20%にも満たない数であると見込まれます。さらに、日本眼科医会の推定によれば、ケアを要するロービジョン(弱視)者は100万人以上いると見込まれています。2005年に発表された失明原因調査によれば、失明原因のベスト4は緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性症、黄斑変性症で、それぞれ異なる特徴的な、しかも個人レベルで見え方が異なる障害をもたらす疾患です。障害認定を受けていない人を含め、多くの視覚障害者は多様な問題を抱えており、個々に適した、視覚を活用できる訓練、指導を提供する必要があります。伝統的な生活訓練の中ではこの様なサービスがほとんど提供されてきませんでした。その理由は、専門職養成の教育の場で教育がなされてこなかったことに大きな原因があります。当学院視覚障害学科では、視覚以外の感覚機能の活用は言うまでもなく、保有している視覚の活用法について、理論と実践技術を修得させるための教育を行っています。

 また、盲ろうをはじめとする視覚とその他の感覚機能障害、運動機能障害との重複障害者に関する特性、訓練・指導法についての教育も行っており、視覚に障害をもったすべての人へ対応ができる専門職養成を行っています。


【卒業後の進路について】

 視覚障害生活訓練専門職につきましては、残念ながら現在のところ資格がありません。したがって、視覚障害者に生活訓練(機能訓練)を提供している福祉施設でも、この養成を受けた者を採用しなければいけないという義務はありません。しかしながら、視覚障害者に的確な訓練・指導サービスを行うことは容易なことではなく、特に生命に危険が及ぶ可能性がある歩行訓練指導技能は一朝一夕で修得できるものではありません。幸い、長年生活訓練を提供している施設、関係団体はこのことについて深い理解をいただいており、当学科の卒業生の多くは社会福祉施設、関係団体等に就職をしております。ただ、資格がないために、採用を検討していただくことが難しい現状があったり、学生の専門性が十分にあるのか卒業証書以外の明確な形で保証できないおそれがあるという問題点があります。この問題点の解消のために、生活訓練専門職(当面は視覚障害歩行訓練専門職)にかかる当学科独自の認定試験を今年度より試行的に実施する予定です。


【おわりに】

 来春、13名の学生が卒業する予定です。社会福祉施設、関係団体および病院などの関係者におかれましては、当学科において、かかる知識や経験を十分に取得した当学科の学生の採用を、是非、ご検討いただけたらと存じます。

 また、入学試験は、来年の1〜2月に行われます。視覚に障害をもった方々のリハビリテーション、QOL向上のための訓練・指導に関心のある方、訓練士としてそれらの仕事に携わりたい方々、これらに熱意のある方々の受験をお待ちしております。また、身近にこれらの方々がいらっしゃいましたら、当学科の紹介をお願いいたします。詳細につきましては、当センターのホームページ(http://www.rehab.go.jp/College/index.htm)等をご参照願います。



(写真1)歩行01 白杖基礎訓練の様子歩行
歩行01 白杖基礎訓練の様子歩行

(写真2)歩行02 バスを利用しての歩行訓練
歩行02 バスを利用しての歩行訓練

(写真3)日常生活訓練で軽量の方法を学習する
日常生活訓練で軽量の方法を学習する

(写真4)パソコンの指導実技風景
パソコンの指導実技風景

(写真5)点字教授法実技で点字版による筆記を学習する
点字教授法実技で点字版による筆記を学習する

(写真6)ロービジョン理論の時間にシミュレーションを着用し読書速度を評価する
ロービジョン理論の時間にシミュレーションを着用し読書速度を評価する