〔病院情報〕
第52回日本音声言語医学会総会・学術講演会の開催報告
病院第二機能回復訓練部 白坂 康俊


 平成19年10月26日(金)、27日(土)の二日間にわたり第52回日本音声言語医学会総会・学術講演会を、引き続いての28日(日)には、学会のポストコングレスセミナーとして、嚥下障害と吃音に関する研修会を開催いたしました。おかげをもちまして、全てのプログラムを滞りなく終了することができました。当センター学院を主会場とし、本館4階会議室、講堂をサブ会場として開催するにあたり、センター各部署ならびに関係各位のご理解と、ご協力を賜りあつく御礼申し上げます。

 本学会は、音声言語障害の治療やリハビリテーションを専門とする耳鼻科医師、言語聴覚士を主たる構成員とする会員約2000名の中規模の学会ですが、設立以来52年の歴史を持ち、日本の言語障害領域で重要な役割を果たしてきました。伝統ある本学会を田内部長を学会長として、第二機能回復訓練部(二訓)がお引き受けすることになり、大変光栄であるとともに責任の重さを感じざるを得ませんでした。2年前から準備を開始しましたが、何より心を砕いたのは、国立身体障害者リハビリテーションセンターが主催する意義をいかにお示しできるかという点でした。

 最終的には、交通の便のよい都内に会場を設定せず、大きな観光要素もなく、地方から参加の方にとっては不便ともいえる当センター施設を使用しての開催を決断しました。当センターの施設・設備を見ていただき、その中で、障害を持つ方の人生全体を捉えるリハビリテーションの視点を前面に押し出したテーマを展開することで、センター開催の意義を示したいと考えたからです。地理的な不利については、埼玉県の隠れた魅力を理解して頂き、ホスピタリティの精神を持って皆様をお迎えすることで克服しようと考えました。

 学会を通じてのテーマは、最終的に、「障害を持つ方を中心にしたケアの連続性を求めて」としました。言語障害に関わる専門家は多職種にわたり、職種や立場、現場がそれぞれ異なり、理念的、方法的、経済的、法的にさまざまな制約を受けながら活動しています。結果的に、障害を持つ方から見ると、それぞれのケアが障害を持つ方のニーズに対して、一貫性や連続性を欠く対応になっていることが少なくありません。そこで、障害を持つ方のニーズに対して、いかにして一貫性と連続性をもって答えたらよいかを探っていくことにしました。内容は、二つのシンポジウムと教育講演、特別講演で構成しました。

 シンポジウム1「障害の持つ方のニーズを知る」では、障害を持つ方あるいはご家族の3名の方に、ご自身の経験を通じて、支援する専門家や社会に対して何を求めているかをお話いただきました。その中でもっとも印象的だったのは、当事者の方に共通していたのが、障害を持った方を社会に受け入れられるように変えるという発想ではなく、今あるそのままで社会に受け入れて欲しいという訴えでした。

 シンポジウム2では、「障害を持つ方のニーズに応える試み」として、専門家による3つの事例を報告して頂きました。いずれも、障害を持つ方のニーズからスタートし、専門の枠にとらわれずに活動している点が重要であることを示していました。

 続いて、「障害を持つ方のニーズに応えるための理論的・理念的な背景」と題して、先般、国連で採択された「障害を持つ方の権利条約」についてと、障害受容を「社会受容」という概念で、社会の問題としてとらえる考え方、さらに、今年6月に「障害を持つ子どもも望むかぎり、全て普通学級に進学できる」ように制定された東松山市の条例についての話をいただきました。

 最後に、「障害を持つ方々を中心としたリハビリテーション」について、「地域を教科書に、障害を持つ方を師に」を信条に地域リハビリテーションを実践され、日本の、いや世界におけるこの領域の先駆者でおられる澤村誠志先生に特別講演を賜りました。

 そのほか、口演およびポスター演題でもテーマ関連のセッションを設定し、さらにテーマに関連する活動や実践報告のパネル展示と、障害を持つ方の社会参加の成果としての作品展示や、障害を持つ方への多方面からの支援の成果などを展示するテーマ展示を行いました。全てのプログラムの最後を、障害を持ちながらピアノパラリンピックで成果を発表するため準備している4人の方のすばらしいピアノ演奏で締めくくって頂きました。

 終了後、少なからぬ参加者の皆様からお褒めのことばを頂きました。これまでいくつかの学会やシンポジウムにかかわり、勉強になった、面白かった、分かりやすかったという言葉を頂いたことはありましたが、感動した、感激したという感想をこれほど頂いたのは今回の学会が初めてです。何かが伝えられたという自信を深めることができました。

 ひとつだけ、10月下旬の季節はずれの台風の直撃により、予想を下回る参加者であったのが残念でしたが、それでも100余の演題発表と600名の方の参加をいただきました。

 学会終了に伴い役割が完了すると思いかけていた私たち担当者の気持ちに対して、この予期せぬ台風は、「障害を持つ方々の人生は続いているのだから、気を緩めてはいけない」と諭されたような気もしております。その意味でも、この学会が、今後、音声言語障害を持つ方々への、さらに進んだサービス提供のスタートになるよう、心して今後の業務に励む所存です。今後ともご指導のほどよろしくお願い申し上げます。