〔研究所情報〕
私ともう一人の私/心のモデル」・「個人と社会は2にして1なるもの/心の援助モデル
研究所障害福祉研究部心理実験室長 南雲 直二



1 私ともう一人の私/心のモデル

 「私が何を考えているときでも、私はそれと同時にいつも私自身、私の人格的存在を多少とも自覚している。また同時にそれを自覚しているのも私である。したがって私は二重であって、半分は知者であり半分は被知者である」(ウイリアム・ジェームス;アメリカの心理学者)。

 私ともう一人の私、言い換えると、実行の自己(=私)とそれを監視(モニター)している自己(=もう一人の私)となるが、これは筆者が採用している心のモデルである。このモデルを用いて、障害の自覚にかかわるいくつかの謎を解き明かそうとするのが筆者の仕事の1つである。なぜ麻痺(脊髄損傷や脳卒中)の自覚にそれほどまでの時間がかかるのか? またその時間を短縮するにはどうしたらよいか、あるいは、なぜ麻痺していることがわからないのか(いわゆる病態失認)? あるいは、なぜ左半分を無視していることに気がつかないのか(いわゆる半側空間無視であるが、主に対象の左側半分が無視されるため、例えば好物のカツどんでも左半分はそっくり残ってしまう)? またそれらの自覚を促すにはどうしたらよいか、などなど。


2 個人と社会は2にして1なるもの/心の援助モデル

 生物学者・今西錦司(いまにしきんじ)の言葉である。筆者が採用している心の援助モデルである。個人は社会を離れては存在しないし、またたとえ存在したとしてもそれは病的なものである、という。したがって、このモデルに従うと、当事者(利用者というべきか)が何らかの社会に参加し、他の成員と良好な関係をもてるようになると、当事者の心はその社会において健康になるはずである。

 このモデルに基づいて、ピアサポート(自助グループで自然に行われている仲間どうしの支え合いや助け合い)が当事者の元気の回復や障害の自覚に良好な効果をもつことを検証してきている。また、実践の共同体(当センターにおける集団クリーニング訓練もその1つ)への参加が当事者の働く意思や能力に良好な効果をもつことも検証してきている。

 こうした心の援助モデルをコミュニティに基づく援助と呼び、他のグループ・サイコセラピーとのちがいを表のようにあらわしている。

 なお、こうした援助法は当センターのさまざまな部署で応用できると考えており、これをお読みになって、少しでも関心をもたれたら、是非ご一報ください。



表.心理的援助の体系
局所論的・個人的アプローチ
 特徴; 心・行動を変えようとする働きかけ
 実際例; 技法に重点を置くもの/行動療法、リラクセーション法、 etc
  人間関係に重点を置くもの/クライアント中心療法、精神分析療法、 etc
   
全体論的・集団的アプローチ
  1.グループ・サイコセラピーあるいはグループ・ワーク
 特徴; 個人のみならず集団の力も利用して、個人の心・行動を変えようとする働きかけ
 実際例; 家庭内暴力に対する集団療法
  2.コミュニティに基づく援助
  特徴; 結果として心・行動が変わる働きかけ
 実際例; ピアサポート、実践の共同体、etc