〔更生訓練所情報〕
更生訓練所就労移行支援(養成施設)理療教育課程
平成19年度(第29回)卒業式
更生訓練所理療教育部 教官 島村 明盛


 2月27日、理療教育課程第29回卒業式が当センター講堂にて開催されました。
 来賓、在所生、職員の盛大な拍手に迎えられながら、卒業生27名(専門課程22名、高等課程5名)と修了生7名(専門課程4名、高等課程3名)が粛々と入場し、理療教育部長の開会の言葉で式典が始まりました。国家斉唱の後の卒業・修了証書授与では岩谷総長から一人ずつ証書を受け取りながら、3年間および5年間のセンターでの思いを巡らせていたことと思います。
 総長式辞では、21世紀にわが国が目指すべき社会は共生社会であること。ともに生きるとは、お互いに立場を認め、受け入れ、共通の目標に向かって力を合わせてゆくことであると話されました。
 そして、卒業生への餞の言葉として、中国で書かれた「菜根譚」という書物の書名の由来から、「堅い菜根を噛み締めるように、苦しい境遇に耐えることができれば、人は多くのことを成し遂げることができる。」「人としての正しい道を学びたいと思えば、粘り強く努力を続けなければならない。」と話されました。
 卒業生の別れの言葉を専門課程3年3組太田新二さんが代表して行いました。卒業生、修了生の想いが良く表現されておりますのでここに全文を掲載させていただきます。



[答辞]
 例年に比べ、雪に見舞われる日が多く、厳しかった浅き春空にも、ようやく春めく便りが感じられるようになりました。
 本日は、私達、卒業生・修了生のために、このような、心のこもった式典を挙げていただき、誠に、有難うございます。また、ご多忙の中をご出席下さいました、ご来賓の皆様、総長をはじめ、諸先生方、並びに、関係者の皆様に、卒業生一同、心からお礼申しあげます。
 思い返せば決して皆が希望に満ち、入所した訳ではありません。
 夢を置いて家族のために、ここしかなかった様々な思いを背負い、これから始まる、未知の世界に対して、期待よりも、不安が大きかったはずです。
 私自身、この施設は何だろうと思いながら、リハセンターの横を通学路として、高校3年間を通っていましたが、まさか自分が10年後、ここに入所し、その意味を知ることになるとは、夢にも思いませんでした。
 入所後も、不安な日々が、続きます。数年、数十年ぶりの勉強。まして慣れない点字での勉強。渡された、持ちきれないほどの教科書。筋肉、骨、神経の名前や、361個ある基本のツボ、人体は常に自然と一体であるという、東洋医学の考え方、分かっていたとはいえ、その勉強量に驚かされました。
 勉学に、励めば励むほど進む、視野、視力の低下。教科書の文字が読めなくなり、教官の声をテープレコーダーに録音し、目から、耳を使っての勉強に切り替わった人。手術での、入退院を繰り返し、今日見える事に、感謝しつつも、あす、見えなくなるかもしれない、恐怖と闘っていた人。20代の人達に負けまいと、朝早くから、夜遅くまで教室に残り、勉強していた、団塊世代の人。弱視が多いクラスの中、一人全盲で、孤独感を抱きつつ、進んでいく授業に、懸命についていこうとしていた人。皆、さまざまな思いを抱えていました。
 しかし、そのような中でも続けてこられたのは、多くの方々に恵まれ、支えられたからです。様々な経験から、導いてくれた先輩。困っていると、声をかけて下さる、地域の方々。多くの場面で協力してくださる、地域ボランティアの皆様。取れたボタンの縫い付け、急な雨での布団のとりこみ、まるで、母のように接して下さった寮母さん。そして、苦しかったあの時そっと救いの手を差し伸べてくれた友人達。
 自分の陰を照らす、光を知り、かかる不安を振り払い、充実した日々を送ることができました。
 後輩の皆さんが、実技室に向かう姿を見ると、初めて按摩・鍼灸に触れた頃を思い出します。揉むよりも、揉まれる方が好きで、あまりの心地よさに、寝入ってしまった、あん摩実技。点火した灸を取り損ね、見つけた頃には、白衣を焦がし、穴が空いていた灸実技。
 技術の未熟な、私達全員の鍼を受け、翌日足を引きずりながらも、出勤される教官の姿に、心を痛めた鍼実技。「膝は、肘で治す」臨床での教官の言葉に、戸惑いながらも、その効果に驚かされ、東洋医学にのめりこんでいきました。
 そうした、数々の失敗や、経験を重ね、最終学年では、それぞれが、臨床で効果を上げ、患者さんに「おかげさまで」の一言をいただけるようになりました。背中とお腹に残る、火傷の跡は、友と練習した思い出の証です。
 後輩の皆さん、今リハセンターに、いるときにしかできないことに、恐れず、チャレンジなさって下さい。努力している人には、教官が、必ずフォローしてくれますし、今は成果がでなくとも、努力しただけの結果は、必ず返ってきます。それが、私達の経験から、言えることです。
 共に喜び、共に迷い、共に学んだ日々、そんな日々をもっとも愛した仲間の一人は、今日ここに立つことができません。
 出会った頃のあなたは、小さな身体で、教壇の真ん前に座り、大きな声で誰よりも明るく、誰よりも勉学に励み、そして、誰よりも病と、闘っていました。今思えば、皆に心配掛けまいと、無理もしていたのでしょう。あなたに伝えたいことが一杯あります。
 「一緒に卒業したかった。」 
 あなたが一番がんばっていたのを誰もが知っていたから。
 私達は、本学での学業を通して得た、知識、能力、さまざまな人達の思いを手に、道は違えど、不撓不屈の精神で精進し、これから出会う人達の、支えになれればと考えております。それが、私達を支えてくださった皆様への、恩返しになれると考えております。
 最後になりましたが、卒業後の厳しい競争社会で、私達に、何が必要なのか、真剣に考え、一緒に悩み、時間外でも納得のいくまで、指導してくださった先生。一番近くで支え、待っていてくれた家族、愛すべきたくさんの人たち、皆様に改めて御礼申し上げます。
 そして、後輩の皆さんのご活躍と、国立身体障害者リハビリテーションセンターの、一層の発展を願い、お別れの言葉と致します。


 平成20年2月27日
第29回理療教育課程卒業式
卒業生、修了生代表
専門課程3年3組 太田 新二




 34名の新たなる旅立ちを温かく見守りたいと思います。


第29回理療教育課程卒業式