〔病院情報〕
病院紹介シリーズ⑥「医療相談開発部(心理部門)」
病院医療相談開発部 心理


 心理部門は、季節ごとに様々な装いをみせてくれる野外訓練場を見渡すことのできる場所に位置しています。患者さまと、静かな室内でしばし窓外の景色を眺めてから面接に入ることもしばしばで、自然のもつ癒し効果には、計り知れないものがあります。心理部門は、医療相談部門とともに医療相談開発部に属し、現在は常勤職員3名と非常勤職員とで日々の臨床業務に取り組んでいます。今でこそ、事務室もにぎやかになりましたが、平成12年までは、常勤職員1名と非常勤職員1名の小さな部門でした。それが現在の陣容までになったきっかけが、平成13年度から開始された高次脳機能障害支援モデル事業でした。
 高次脳機能障害支援モデル事業が開始されるまでの心理部門は、知能検査を主とした心理検査の実施や、発症後に生じた不安や心理的葛藤などの主訴に対する心理面接が臨床業務の中心でした。ところが、高次脳機能障害支援モデル事業が開始されるに伴って、高次脳機能障害の評価法の一つとして、神経心理学的検査が位置づけられ、心理検査の有用性が再認識されたことにより検査の依頼件数が急増したことに加え、検査結果から目に見えない症状を説明し有効な対処方法につなげていくための患者さまへの働きかけを行う訓練や、退院後の在宅生活に向けた生活の枠組み作りのため支援、様々な失敗体験が積み上げられることによる二次的障害としての心理的不安・葛藤などに対する心理的支援なども心理療法士の役割として認知されるようになりました。したがって、心理に来室される高次脳機能障害のある患者さまは、入院直後の方から退院後復学や復職をされた方に至るまで、実に様々です。環境が変化すると、それまでに学習されたことが活かされにくいため、心理的な混乱に陥りやすいことから、心理的支援は長期にわたる場合も少なくありません。さらに、日々患者さまを最も身近なところで支援されているご家族に対する、症状の理解や対応方法に関する教育的支援と、心理的葛藤などを抱えておられるご家族に対する心理的支援も心理療法士の重要な臨床業務として捉え、実践してきました。また、他のリハビリテーションスタッフと協働して家族学習会を企画し、その運営においても中心的な役割を果たしています。
 もちろん、心理に来室される患者さまは、高次脳機能障害のある方のみではありません。頚髄損傷、切断、聴覚障害、視覚障害など、様々な障害のある方が来室されます。心理面接などを通して、リハビリテーションが円滑に進むように側面的な支援をさせていただいています。
 その他、臨床心理士を目指す実習生の受け入れ、研修会等での講演、各種学会での発表などを通して、蓄積された知見を可能な限り還元することに努めるとともに、他のリハビリテーション病院の心理職と情報交換の場や研修会をもちながら、自己研鑽にも努めています。しかし、文部科学省を監督官庁とする財団が認定する形で臨床心理士という資格がつくられたものの、いまだ国家資格化には至っていません。そのため、心理検査以外の臨床業務は収益につながらず、病院に勤務する臨床心理士の裾野がなかなか拡がらないという大きな課題を抱えています。一方で、発達障害への取り組みも期待されるなど、臨床心理士に対する社会的なニーズも徐々に高まっています。常に社会的な動向を見据えながら、少しでも質の高い臨床活動が行えるようスタッフ一同努めていきたいと考えています。