〔学院情報〕
平成19年度学院卒業式
学院事務室



 穏やかに晴れわたった3月4日(火)の10時から、当センター学院講堂において、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 施設管理室 小室清吾 室長補佐を始め、多数のご来賓や当センターの幹部職員のご参列をいただいて、平成19年度学院卒業式を開催しました。
 この式典では、開会の冒頭、当センターの岩谷総長より卒業生一人一人に卒業証書の授与があった後、中島学院長が式辞を述べました。(別記1)
 次に、前記小室室長補佐が厚生労働大臣の祝辞を代読されました。(別記2)
 その後、当センター岩谷総長が祝辞を述べられました。(別記3)
 引き続き、来賓紹介及び祝電披露が行われた後、視覚障害学科2年の小平純子さんが、卒業生を送る言葉を述べました。(別記4)
 これを受けて、リハビリテーション体育学科2年の福田直美さんが卒業生の別れの言葉を述べました。(別記5)
 最後に、全員で蛍の光の斉唱をした後、卒業生を盛大な拍手によりお送りし、卒業式を終了しました。

  あでやかな振袖姿の卒業生も散見されるなど、おごそかな中にも華やかさが印象に残る卒業式でした。卒業生皆様方がそれぞれの進路において、今後、益々ご活躍されますよう祈念します。
 卒業式に引き続き学院6階の大研修室で行われた謝恩会では、リハビリテーション体育学科の学生による華麗な踊りや勇壮な太鼓のアトラクションが披露されるなどして、一同、和気靄々の楽しいひとときを共有することができました。

(写真1)卒業証書授与




(別記1)

学院長式辞



 本日、この良き日に国立身体障害者リハビリテーションセンター学院卒業式を挙行できることを嬉しく思います。卒業した83名の学生諸君、並びに御家族の方々には、教官を始めとして学生の養成に携わった学院の職員すべてとともに、心から御祝いを申し上げます。
 御来賓の方々には、年度末で御多忙のところ本学院の卒業式に御臨席を賜り誠にありがとうございます。学院を代表致しまして、厚く御礼申し上げます。
 卒業生諸君は本日を限りにこの学院を出て、多くは専門職として社会にその第一歩を記すことになります。この学院を卒業することにより、専門職になるために十分な技量は身につけた訳ですが、新しく社会に出て行くことに不安がつきまとうのは人の常であり、それは本日の諸君の中にある共通した感情ではないかと慮ります。
 不安をもつ、その理由は、専門職という職業の内容ばかりにあるのではなく、勤務場所についてもあると思われます。自らが望む職場に就職したが一人きりである、あるいは望む職場ではなかったといった事情もあろうかと思われます。このような状況にあって求められる決意を、古の日本人が漢詩に託して次のように詠じています。
「將東遊題壁」 釋月性
男兒立志出郷關
學若無成不復還
埋骨何期墳墓地
人間到處有靑山
  男子が志を立てて故郷を出発する。今日的には男性、女性を問わず志をもって社会に出て行く訳ですが、諸君にとって志とは、早く専門職として一人前になり、職場で活躍することであるはずです。そのために本日学院を出立します。
 学問が身に付かず目的を達成できなければ、再び故郷に帰ってくることはないだろう。4月になれば卒業生の多くが新しく職場に身を置きます。その職場には友人も教官もいません。つい一月前まで学院で友人や教官と一緒にいたことが嘘のようであり、遠い過去のように思われることも無理からぬところです。孤独になった時に、これで一人前になれるのか、自己実現がこの職場で可能になるのか、疑心暗鬼に襲われるわけですが、この学院に戻ることはできません。
 自分の骨を埋める場所、お墓をどうして最初からここと決めておく必要があろうか。職業人生を全うする職場について、ここに骨を埋めるという表現を用います。誰しもが納得行く場所で働くことを希望し、納得する役割を果たしたいと希望します。しかし、気に入った職場で働く機会をせっかく得ても諸般の事情で転勤しなければならないこともあろうし、今の職場ではとても自己実現ができそうにないと失望することもあり得ましょう。果たして、骨を埋めるに値する職場が、最初からこのような所と決められるものであろうか、作者はこう問いかけます。人によっては、自分がもつ職業的専門性とは異なる部署で働くことを余儀なくされることもありましょうし、最初から全く異なる職種として働くこともありましょう。これが直ちに不幸ということでもなければ、それで学院で学んだことが無駄になるわけでもありません。
 世間には至るところに死に場所があるではないか。作者はこう結びます。作者はこの時27歳であり、勇ましい言葉とはうらはらに、諸君と同様に不安な思いを抱いて旅立ったことには疑いがありません。ただ、このように詠ったことで新たな境地が開けました。誰かが自分にふさわしい職場環境を与えてくれるのを待つ限り、そのような職場に出会うことはたまさかの幸運に過ぎません。自らが得たその時々の職場を大切にし、その職分を全うすることで、初めて続く人生が開けましょうし、自己実現も可能になりましょう。諸君には自己実現を果たすだけの豊かな才能と十分な知識があります。どうか自信をもって社会に踏み出していただきたい。学院は諸君の行く末を楽しみに見ています。何より諸君は、これからも学院の財産であり続けます。


平成20年3月4日
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院長 中島 八十一

 (写真2)学院長式辞


(別記2)

厚生労働大臣祝辞



 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院の卒業式に当たり、一言お祝いを申し上げます。
 本日晴れて卒業される皆様。皆様は、将来への大きな夢と希望をもって当センター学院に入学されました。それからいろいろと学び、体験し、切磋琢磨してこられたことと思います。これまでの皆様の日々の努力に対し、深く敬意を表しますとともに、本日の新たな門出を心よりお祝いいたします。
 また、今日まで皆様を温かく見守り支えてこられた御家族の方々に対しまして、心よりお祝いを申し上げます。

 これから、皆様は、障害をもつ方々のリハビリテーションを始め、保健・福祉・医療分野の専門職として、全国各地で支援を必要とする方々のために活躍されることになります。
 皆様には、常に、当センター学院の卒業生としての誇りと自信を持ち、これまで培ってこられた知識と技能を十分に発揮していただきたいと思います。また、是非当センター学院を卒業され全国各地で活躍されている多くの諸先輩に続き、地域社会で信頼される専門職として、常に支援を必要とされる方の目線に立って、一層の研鑽を重ねられ、障害保健福祉の第一人者として御活躍されることを期待しております。
 厚生労働省では、障害のある方々の自立を支援し、地域で安心して生活できる各種の施策を積極的に展開しております。
 今後とも、障害のある方々が安心して暮らすことのできる地域社会の実現を目指して、全力で取り組んでまいりますので、皆様のご理解、ご協力をお願いいたします。
 終わりに、本日御出席の御来賓の方々を始め、関係者の皆様には、日頃より、当センター学院の運営につきまして、御支援と御協力をいただいていることに対しまして、厚く御礼申し上げ、お祝いの言葉といたします。

平成20年3月4日
厚生労働大臣 舛添 要一
(代読 施設管理室長補佐)


 (写真3)厚生労働大臣祝辞「代読 施設管理室長補佐」



(別記3)

総長祝辞



 厳しかった寒さも日に日にゆるみ、梅の蕾はほころび、空に向かって伸びるケヤキの梢、桜の枝からも芽吹きの準備に忙しいことが伝わってまいります。
 本日、穏やかな天候に恵まれ、多数のご来賓のご臨席のもと、平成19年度国立身体障害者リハビリテーションセンター学院卒業式を開催し、83名の若人を社会に送り出すことができますことは大きな喜びであります。
 まずもって、卒業生諸君とご家族の皆様にお祝いを申し上げます。
 皆さんは、病気や障害を持つ方々の力になりたいと言う純粋な気持ちを持って、学院に入学され、保健、医療、福祉の専門職として社会に出て行かれます。
 私たちは、志を同じくする先輩として、皆さんの巣立ちを心から歓迎いたします。
 「善を為してその益を見ざるも、草裡の東瓜のごとく、自ら応に暗に長ずべし。悪を為してその 損を見えざるも、庭前の春雪のごとく、当に必ず潜に消ゆべし。」
 江戸時代から愛読されてきた中国古典「菜根譚」にこのような言葉があります。
 その意味は、以下のようなことです。善いことをしても、その成果が見えないことがある。たとえ、成果が見えなくても草むらに隠れて知らぬ間に実を結ぶ瓜のように、気づかないところで実を結んでいることがある。逆に悪いことをしても得をすることがあるが、悪行は春先の庭に積もった雪のようにすぐに消えてしまうものである。
 これからの皆さんは、病気や障害を持つ人々のお世話をする仕事につかれます。私たちがお付き合いする病人または障害を持つ人々は、深い森の中を、努力の成果が見えずに葛藤しながら、ひたすら歩む日々を送っている方々です。
 皆さんは、病気、障害を見つけ、治す、回復させるための知識と技能を学びました。病気や障害をとらえ、健常者との差や違いを見つけ、差や違いを縮めることを学びました。
 多くの場合、私たちは、治療の成果を健常者との差の減少により評価し、差が小さくなれば、治療者として成果があったと考えます。しかし、差や違いをゼロにすることは極めて困難であります。患者さんは、得られた成果が、差の縮小だけでは心から喜ぶことはできないでしょう。
 私たちは、病気の治療、心身機能の回復・向上をはかり、生活を支援するプロフェッショナルです。私たちは、健常者との差を最小とするために最大の努力をしなければなりません。しかし、我々の働きかけがいかにうまくいっても、それだけで、患者さんにとって、ことは解決しないことも理解しなければなりません。
 苦しみ、悩み、葛藤は必ず実を結ぶものです。患者さんや障害を持つ人々が、努力して得る「草むらの瓜」は、私たちが治療の成果として評価できるものだけとは限りません。患者さんや障害を持つ人々が、治療の中から得ていく「草むらの瓜」に気づく心を養いつつ、その実を育てるお手伝いをしていただきたいと思います。
 この言葉はこれからの皆さんにも送ります。
 努力をしても成果が見られない、一所懸命にしても効果があがらないなどのことは、これからの皆さんにはよくあることでしょう。誰もが、一生順風満帆の日々を過ごせることはありません。しかし、苦しいとき、努力しても成果が見られないときこそ、実が結ばれる時なのです。その様な時を過ごさなければ、「草むらの瓜」は実を結びません。楽をして結果がうまくいくことはあっても、残るものはほとんどありません。
 「草むらの瓜」は見つけようとしなければ、姿は見えません。柔軟な心、豊かな感性を持って、自分を見つめ、また他人の良いところを感じ取るよう、たゆまず努力していただきたいと思います。
 若さは力です。力は希望の源です。大きな希望は、身体とこころの力から生まれます。健康に留意して、社会に羽ばたいて行くことを望みます。


平成20年3月4日
国立身体障害者リハビリテーションセンター
総長 岩谷 力

 (写真4)総長祝辞


(別記4)

送る言葉


 この所沢に何度か雪の降り積もった冬もようやく終り、柔らかな春の日差しが輝いております。本日ここに各課程を修了し、晴れてご卒業の日を迎えられた皆様に、心よりお祝い申し上げます。
 志を胸に学院の門をくぐられてから、今日この日までのことが、様々に思い起こされていることでしょう。全国各地からリハビリテーションへの同じ思いを持って、集まってきた仲間との出会いは、2年あるいは3年間の学院生活の中で、かけがえのない絆となったことでしょう。そのような仲間がいたからこそ、密度の濃いカリキュラムも乗り越えられたのではないでしょうか。励ましあい、助け合い、支えあいながら、真剣に学んでいたからこそ、時には対立することもあったかもしれません。しかし言いたいことを言い、ぶつかり合える仲間がいたからこそ、授業や課題に追われた日々、実習、ボランティアなど、余裕がなくなりそうなときでも、笑うことが出来、初心を忘れず、この日に至ることが出来たのではないでしょうか。
 また各分野でご活躍されている、外部の先生方からのご指導は、貴重な財産となったことでしょう。そして何より、この学院の先生方の時に厳しく、時に優しく、それぞれの専門分野の知識、技術、心構えなどを教えてくださった、親身なご指導は、これから社会に出て行かれる皆様に、しっかりとした揺るぎない土台となっていることでしょう。
 皆様がこの学院に入学された時は、上級生が大きく見えたかもしれません。しかし私達が入学してきた時は、皆様が頼りになる、大きな存在でした。入学したての頃は、私達の緊張をほぐすように積極的に関わってくださいました。授業のこと、学院のこと、課題のこと、実習のこと、様々な私達の疑問に対して、忙しい時でも常に丁寧に、参考になるアドバイスをしてくださいました。いつも私達はその手際のよさ、面倒見のよさを頼りにし、そしてそのような皆様の姿を目標としてきました。
 また学院のイベントなどの交流を通して、他学科の方たちと触れあったり、話し合ったり、同じ目標に向かってスポーツしたりしたことは、私達にとって思い出深いものとなりました。そのような場合でもやはり先輩方は、私達をリードしてくださり、盛り上げてくださいました。
 いつも頼りにしていた皆様のご卒業は、私達にとってさみしいことではありますが、これからは私達が今まで教えていただいたことや、皆様の思いを伝えていきたいと思います。そして、近い将来、リハビリテーションという分野の中で、同じ社会の担い手となれるよう、さらに勉学に励んでいく所存です。
 先輩方はこれからも様々な人と出会い、様々なご経験をされることでしょう。厳しい試練の時があるかもしれません。しかし先輩方にはこの学院で築かれた土台があることを忘れないでください。先生方、仲間達、これまでの卒業生、後に続く私達、全て繋がっています。この学院で得られたものを、これからのご経験に生かしてください。そして一人一人異なる、様々な人々に寄り添い、支援されていかれることが出来ますように、心より願っております。
 最後に、卒業生の皆様のご健康と、ますますのご活躍を心よりお祈りして、送ることばとさせていただきます。


平成20年3月4日
 在校生代表
視覚障害学科一年 小平 純子


(写真5)送る言葉


(別記5)

別れの言葉


 冬の寒さも和らぎ始め、旅立ちの春を迎えようとしています。本日、私たち卒業生八十三名は新たなる決意を胸に卒業します。
 晴れてこの日を迎えることができましたのも、岩谷総長をはじめ、中島学院長、各学科の諸先生方、外部・内部の講師の先生方、当センター職員の方々、ならびに私たちが出会った数多くの方々の温かいご指導、ご支援のおかげです。卒業生一同、厚く御礼申し上げます。
 学院生活を振り返ってみますと、期待と希望を胸にこの学院へ入学したことが昨日のことのように思い出されます。学院の授業では、専門的な知識と技術を学び、また実技や実習では貴重な体験をたくさん経験することができました。濃密なカリキュラムの中、自分に出来ること、自分にしか出来ないことは何かということに悩むこともありました。今こうして卒業を迎えることができたのも、仲間達の支えがあったからだと思います。この仲間との出会いは、かけがえのない宝物となるに違いありません。
 私はもともと体を動かすことが大好きで、幼稚園から大学までの十六年間、体操競技を専門としていました。しかし、大学四年の時、練習中に受傷し障害を負うことになりました。受傷後は、好きだったスポーツをするどころか、日々の生活を送ることが精一杯で、何かを楽しむということを忘れていました。今まで当たり前に出来ていた事もできなくなり、多くの物を失ったと当時は思っていました。しかし、スポーツに出会ったことで、自分にも出来ることはまだまだたくさんあるという事に気づいたのです。他の人からみれば何気ない些細な事でも、障害を持っている人にとっては大きな壁となり、それを一つひとつ乗り越えていく大変さ、そして乗り越えた時の喜びというものを身をもって感じることができました。
 私が学院で学ぼうと思ったきっかけは、この自分自身の経験を他の障害を持った方々へも伝えたいという気持ちからでした。今後も多くの壁に直面する度に、自分がこの学院で学ぼうと決意した時の事を思い出し、乗り越えていくつもりです。
 明日から私たちは、それぞれが新しい第一歩を踏み出すことになります。分野は違いますが、お互いに熱い思いを持ち続けながら、学院で学んだという自信と誇りを胸に、精一杯頑張りたいと思います。
 在校生の皆さん、私たちは本日卒業をし、お別れとなりますが、同じ道を志す仲間として共に頑張っていきましょう。そしていつの日か現場でお会いできることを楽しみにしています。
 最後に、学院の益々のご発展と、本日ご臨席賜りました皆様のご健勝を心よりお祈り申し上げ、お別れの挨拶とさせていただきます。


平成20年3月4日
卒業生代表
リハビリテーション体育学科二年 福田 直美


(写真6)別れの言葉