〔研究所情報〕
特許技術の紹介
研究所 補装具製作部 佐々木 一彦


 このたび、平成14年に特許庁に出願した発明が、本年3月にようやく、特許として認められましたので、発明した技術に関してご報告させていただきます。
 発明の名称は「採型用陰圧粒子バッグ」といいます。ややこしい名称ですが、簡単に言いますと、物体の形状を製作できる技術を発明いたしました。物体の形状といっても、本発明が対象とするのは、手足の形状や頭の形状など、人体に関する形状を対象としております。特に補装具を製作する目的で人体の型を製作します。
 発明の中身を簡単に説明いたしますと、ビニールでもナイロンでも穴の開いていない袋に、砂を詰めて密閉します。この段階で、砂はまだ袋の中で自由に動くことができますが、袋の中の空気を(-100kPaで)ほぼ完全に吸引すると、砂の入った袋は石のように硬くなります。
 砂袋が硬くなる理由は、袋の中の空気を吸引することで、袋は収縮し、砂を圧迫します。この砂の圧迫が砂全体の摩擦力を高め、石のように硬くします(図1)。


(図1)吸引(陰圧)で硬くなる砂袋の原理

 砂の代わりに、おがくずを入れると木材に類似した硬さになり、ポリスチレン粒子を入れると発泡スチロール板に類似した硬さになるおもしろい技術です。
 さて、話を発明の話に戻しましますと、砂袋が擬似的に石のように硬くなるまではご理解いただけたと思います.しかし、これだけでは、発明といえません.砂袋は吸引する圧力を弱める(-5〜-20kPa)ことで、やわらかい粘土のように変化したり、かたい粘土のように変化したりしますが、ビニール袋のように伸縮性に乏しい素材ですと、なかなか粘土のようにうまく形状が作れません。そこで、袋の素材を伸縮性の高いゴムにすると、粘土のように自由に形を作ることが出来るようになり、滑らかな体型形状も製作できるようになります(図2)。


(図2)侵食性の高い袋素材を適用した様子




 さて、ここからが発明の核です。粘土のように自由に形状が作れたとしても、補装具の型に応用するには、袋全体がゴムのように柔らかいと、体重を負荷したときや動作が伴った際に型崩れを起こしてしまいます。そこで、人体に接する袋の部分は伸縮性のある素材を利用し、人体に接しない袋の部分は非伸縮性の素材を利用することで、補装具を模擬(シミュレーション)しながら体型形状を製作できるようになるのです。
 まとめますと、採型用陰圧粒子バッグは、製作する補装具をシミュレーションしながら体型形状を製作できる技術ということになります。
従来、義足や装具を作るとき、我々義肢装具士はギプス包帯を用いて、対象部位の型を採ります。これを採型(さいけい)と呼んでいます。ギプス包帯は水と化学反応を起こしていったん固まってしまうと、再利用はできないので1回きりの消耗品になります。今回、発明しました陰圧粒子バッグであれば、袋内部の吸引圧力を任意に変化させれば、自由に形状調整が可能で、袋が破れない限り何回でも再利用できるので、ギプスを使用するより経済的で廃棄物の削減も期待できます。
 現在はこの発明を活かして、即時に体型適合をシミュレーションできる採型システムを試作して、義足製作用の陰圧粒子バッグで試験中であります(図3)。


(図3)試験中の義足用陰圧粒子バッグ採型システム


 陰圧粒子バッグは吸引ポンプを手動のものに変更すれば、安価に提供することも可能になるので、エコを重視した現代社会には受けが良いのですが、どうやって長年ギプスに慣れ親しんできた日本の義肢装具士約3000人に、陰圧粒子バッグに慣れ親しんでいただけるかが今後の課題です。