〔国際協力情報〕
障害とリハビリテーションに関する世界報告書についての
アジア太平洋コンサルテーション会議 (マニラ出張報告)
更生訓練所長 江藤 文夫



 今年6月24,25日にフィリピン、マニラのWHO西太平洋地域事務局において「障害とリハビリテーションに関する世界報告書についてのアジア太平洋コンサルテーション会議」(Asia-Pacific Consultation on the World Report on Disability and Rehabilitation)が開催されました。当センターは障害の予防とリハビリテーションに関するWHOの指定研究協力センターであることから、事務局から総長あてに委員の派遣依頼があり、私に出席するよう指示されました。
世界の人口の約10%(6億5千万人)は何らかの障害があると言われ、これら障害がある人々は、地球人口の増加、高齢化、医学の進歩に伴って増加し続けていることから、保健とリハビリテーションサービスへの需要は高まっていると考えられています。そこで、2005年5月に開かれた、障害の予防、マネジメント、リハビリテーションに関する世界保健会議はWHOに対して、障害とリハビリテーションに関する世界報告書を作成するよう決議し、その報告書は世界銀行の資金協力により作成されることになりました。
 その後、国連で障害者権利条約が採択された時期に一致して、2006年12月に報告書作成のための助言と編集委員会が設置され、世界中から執筆者を選出し、作業が開始され、本年3月に草稿の第1版が完成しました。この段階で、その文書をチェックし意見出しをするため南東アジアと西太平洋地域での会議開催が企画されたわけです。こうした地域コンサルテーションは、同じ時期にWHOの6地域をカバーして4箇所で開催されるということです。
 さて、出席することを事務局に連絡すると、この世界報告書の草稿は、未だWHOと世界銀行により認証されたものではないことから、この段階での内容は非公開とすることの誓約書署名を求められ、誓約署名の確認に基づき、約300ページに及ぶ膨大な草稿のファイルがE-メールで配布されてきました。非公開の未定稿ですので内容のご紹介はできませんが、草稿は3部構成で、第1部は「障害の理解」、第2部は「参加とインクルージョンの改善」、第3部は「将来に向けて」で、全体で10章からなり、最後の章は「結語と勧告」のタイトルのみで空白です。
 WHO西太平洋地域事務局はマニラ市内の中心部の国連通りに面した国連ビルの中にあり、コンサルテーション会議はその会議室にて行われました。第1日目は朝8時前から参加者登録が行われ、8時半に今回の会議を組織し、準備した責任者の小川ひさし先生の開会挨拶に続いて、世界銀行、東アジア太平洋地域のDr. E Jimenezの挨拶がありました。次いで出席者全員の自己紹介が行われ、小川先生より会議予定と内容の確認、事務連絡の後、Ms B. Temple(WHO、DAR技術アシスタント)により今回の会議の背景、目的及び期待される成果についての説明がなされ、次いで、Dr S. Sipos(世界銀行、社会保護と労働、部門マネジャー)により、各章の概要が説明されました。ここで、一同中庭に出て集合写真の撮影が行われました(写真1、参加者集合写真)。今回の会議への参加者は、報告書草稿コンサルテーションのために臨時アドバイザーとして招かれた15名、関連機関の代表やオブザーバーとして14名(筆者やJICA職員を含む)、世界銀行から6名、事務局から4名の39名でした。写真撮影の後、休憩を挟んで10時から本格的な討議が始まりました(写真2、会議場の様子)。
 討議は全体での総合討論と、2つの作業グループに分かれて各章あるいは項について討議し、勧告の文案を検討した結果を全体会で報告し、討議する方式で進められました。最初は全体会で、Dr R. Madden(シドニー大学、ICF研究開発コーディネータ)の司会により、第1章の概要が話され、参加者全員に総論的なコメントと発言が求められ、討議も活発になされたことから、30分ほど時間が延長されるほどでした。
 その後の討論でも極めて活発な意見出しがなされ、今回の会議の目的である世界報告書草稿の改訂に向けた修正や追加意見の収集は十分に達成されたと思われます。また、報告書の趣旨は根拠に基づく(evidence-based)科学的な内容の記載であり、意見出しではしばしば根拠となる論文の有無が問われました。しかし、英文化された論文は乏しい領域もあり、また、論文化されたものでも根拠のランク付けに関する議論はありませんでした。会議終了後、エビデンスとして各種文献の提出が要請されました。草稿は既にかなりのボリュームに達していますが、草稿のコンサルテーション会議は他のWHO地域でも行われることから、内容的にはかなり修正や加筆が行われると予想されます。また会議の最後のセッションで、今後の世界報告書作成のスケジュール、発信の予定、次の段階に向けての討議が行われ、発信予定は2009年12月の「世界障害者の日」前後が想定されました。
 今回の会議では小川先生が事務局の責任者として大活躍されましたが、JICAから4名(日本から1名、マレーシア、タイ、フィリピンから各1名)の、いずれも長く障害に関わってきたスタッフが参加しており、近年JICAはCBRの取り組みを始め障害問題に力を入れ、積極的な発言を企図していることを実感し、頼もしく感じました。

 

 

(写真1:参加者全員の集合写真)
(写真1:参加者全員の集合写真)
(写真2)会議場内の様子。向かって左端から、筆者、Ms Kylie Clode(ニュージーランド保健省)、Ms Noriko Saito(JICA、フィリピン)、Mr Akiie Ninomiya(JICA、タイ)、Dr Kenji Kuno(JICA、マレーシア)
(写真2:会議場内の様子。向かって左端から、筆者、Ms Kylie Clode(ニュージーランド保健省)、Ms Noriko Saito(JICA、フィリピン)、Mr Akiie Ninomiya(JICA、タイ)、Dr Kenji Kuno(JICA、マレーシア))