〔研究所情報〕

ITU世界通信情報社会賞(2008年)について

研究所特別研究員 河村宏(DAISYコンソーシアム会長)

 

「世界通信情報社会賞」

 デジタル・ディバイト解決を目指して2003年(ジュネーブ)と2005年(チュニス)に開催された国連世界情報社会サミット(World Summit on the Information Society: 略称WSIS)を記念して、国連と国際電気通信連合(ITU)がデジタル・ディバイド解消に功績のあった1団体と2個人に毎年授与する世界通信情報社会賞の2008年の団体受賞者にDAISYコンソーシアムが選ばれた。DAISYコンソーシアムは、視覚障害やディスレクシア等の印刷物を読むことができない障害を有する人々の出版物へのアクセスを確保するためにDigital Accessible Information Systemを開発・普及しているスイスに法人格を持つ国際非営利団体である。国リハセンターは、財団法人日本障害者リハビリテーション協会、社会福祉法人日本ライトハウス、社会福祉法人浦河べてるの家、特定非営利活動法人支援技術開発機構と共に、DAISYコンソーシアムの日本会員を構成している。

 

「障害がある人々を結ぶ」

 国際電気通信連合は、通信と放送に関する国連の専門機関としてWSISを主催し、その成果である2015年までの行動計画の実施によって、デジタル・ディバイドを解消し、デジタル・オポチュニティーを実現するという目標を持つ。そのために、毎年行動計画にちなむテーマを設定し、世界通信情報社会賞の選考にもこれを反映させている。2008年のテーマは「障害がある人々を結ぶ」であり、その年にベスト・プラクティスとしてDAISYコンソーシアムが選ばれた理由は、下記の4点である。

  1. 視覚障害や認知の障害等で出版物を読むことができない読みの障害(Print Disabilities)がある人々に対する貢献
  2. 社会の少数言語派に属する人々への貢献
  3. 先住民族等の書記文字を持たない言語を使う人々への貢献
  4. 非識字者への貢献

 日本では景気浮揚の補正予算を活用した厚生労働省の施策により世界で最も早く視覚障害者用録音図書がDAISY化されたが、著作権法の制約と福祉サービスの既存の枠組みのために、テキストを含むDAISY図書を弱視者や視覚障害者以外にも広く活用することが困難だった。それに対して、スウェーデン、タイ、バングラデシュ、インド、オーストラリア、アメリカ、南アフリカ等では、DAISYのより広い活用の試みが行われており、上記のような国際的な評価が得られたのである。

 

「日本の貢献」

 DAISY図書が高機能な録音図書から発展してマルチメディア図書発展するにつれて、実は普通の墨字の図書や拡大図書あるいは点字図書のソースファイルとしても活用できることが改めて注目されている。DAISYコンソーシアムが「最良の読書の方法であり、出版の方法である」と主張する自信の背景には、ワンソース・ソリューションと呼ばれるこのような技術の発展がある。
DAISYがこのようにめざましく国際展開を遂げた背景には、1990年代末のテクノエイド協会によるDAISYの国際標準化の支援をはじめとする日本の公的資金によるDAISYの開発と普及への一貫した支援が有効に働いたことが大きく貢献している。また、故初山先生が国リハセンター総長をお勤めの時に、当時国立大学の図書館に国家公務員として勤めながらDAISYの立ち上げに奔走していた筆者に、国リハセンター研究所研究員を二重に発令して外国で仕事をしやすい環境を与えてくださったご英断は、今振り返ると、DAISYが今日存在するのはひとえにそのおかげといういくつかの決定的な節目の一つである。
また、日本財団による開発途上国へのDAISYの普及の支援と、国リハセンター研究所が科学技術振興調整費を得て行った浦河べてるの家等の障害者団体の皆さんとの国際共同研究によるDAISYの防災への応用は、今回の受賞に直接関わる日本の顕著な貢献として評価すべきことである。
DAISYコンソーシアム会長として本年5月にエジプトのカイロで行われた晴れがましい授賞式に出席した後、ゆるやかに船が行き来する夜のナイル川の水面をホテルのバルコニーから眺めながら、DAISYの国際標準化を呼びかけて以後ひたすらに走った十年余を振り返り、その間にお世話になった多くの日本の人々の御恩を改めて思った。

 

参考:DAISYコンソーシアムの録画ムービー(YouTube)

 

(写真1)エジプトカイロでの授賞式
(写真2)世界通信情報社会賞受賞報告にて岩谷総長と
(写真:エジプトカイロでの授賞式) (世界通信情報社会賞受賞報告にて岩谷総長と)



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