〔病院情報〕
第1回日米友好交流国際シンポジウム(Meeting of the Minds)に参加して
米国出張報告
医療相談開発部長 深津玲子



 今年7月14日に米国ワシントンDCにおいて「外傷性脳損傷を持つ退役軍人、高次脳機能障害者、自閉症者および特別な支援を必要とする方々の医療、家庭および職場への復帰の為の第1回日米友好交流国際年次シンポジウム(First Annual US Japan Goodwill Exchange and International Symposium for the Return of Veterans, Individuals with Higher Order Brain Dysfunction, Individuals with Autism and Special Needs into: Healthcare, the Home and the Workplace)」が開催されました。この会議は別に「Meeting of the Minds」と呼ばれます。はじめにまずこの国際シンポジウムが開催されるに至った経緯について述べます。
 発端は米国のMindKnit Research Center のセンター長であるDr. Mayer Maxからの要請でした。同氏は米国内の退役軍人病院がネットワークを作り、頭部外傷をもつ退役軍人の社会復帰について前向き検討を大規模に始めることから、日本において高次脳機能障害支援の中心機関として位置づけられる当センターとの将来的共同研究に向けて、意見交換を兼ねた交流シンポジウムを企画されました。その後現在我々が発達障害者への支援についても研究を始めたことに大変興味を持たれ、その結果今回の日米交流シンポジウムが外傷性脳損傷のみならず発達障害も含めた「特別な支援が必要な方々」に関する日米会議として発足しました。
 今回の会議には、医学(脳神経外科学、小児神経学、神経内科学、リハビリテーション医学)、ニューロサイエンス、福祉、労働の各分野およびその他の関連分野から40名近い米国の主要な医師、神経学者、研究指導者および州政府担当官がパネリストとして集まりました。主な発表者は、Dr. Mayer Max:マインドニット研究センター所長、Dr. Stephen Mott:(米)ジョージタウン大学 小児神経学部教授、Dr. Joel Scholten:タンパ退役軍人病院、ポリトラウマ・ネットワーク・サイト部長、Dr. Michael S. Jaffee:(米)国防・退役軍人脳損傷センター所長、Dr. Robert Mays, Jr.:(米)国立衛生研究所、精神衛生研究所事務局長、Dr. Steven Grant:(米)国立衛生研究所、臨床神経科学部主任、Dr. Anthony Campinell:(米)退役軍人省、退役軍人保健管理局、精神保健部、治療的雇用プログラム担当部長、Dr. Noelle Berger:ニューヨーク州・支援付き雇用担当者、などの諸氏とその他現場で外傷性脳損傷者の在宅生活及び支援付き雇用を担当している看護士、心理士も参加して活発な討論が行われました。
 日本側からは篠田研次特命全権公使(在米日本大使館)が開会の挨拶、私が日本における高次脳機能障害者支援について、そして現在すすめている青年期の発達障害者への支援の研究について約30分間講演を致しました。日米の行政には大きな違いがあり、とくに社会保障制度はまったく異なりますが、発達障害者への支援を高次脳機能障害者への支援を行っている同じ施設で施行する試みには大きな関心が寄せられました。「すばらしいintegration」である、との意見もいただきました。高次脳機能障害については、支援の現場にいる人たちから心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対して医師がもっと注意を払い、診断をし、支援つき雇用の対象に加えてほしいとの意見が相次いで出されました。今回パネリストから提示された頭部外傷後PTSD研究は戦争によるトラウマでしたので、日本とやや事情は異なりますが、今後わが国の高次脳機能障害診断基準を考えていく上で必要となる可能性があります。
 今回の日米友好交流シンポジウムでの意見交換は次のようにまとめられ発信されました。私たちは、新たな脳の研究および機能回復に、どのように優先順位をつけて、焦点をあわせることができるかについての議論を開始しました。これには、米国の国立衛生研究所(National Institutes of Health)、軍・退役軍人の保健医療制度(military and veterans health systems)、そしておそらく日本の国立身体障害者リハビリテーションセンターやその他の機関における共同努力や臨床神経科学研究を含めることが可能です。このことにより、私たちは、特別な支援を必要とする人々が、コミュニケーションに必要な感情を適切に処理できるように手助けして、彼らの尊厳と彼らへの尊敬を損なうことなく、社会に参加する手段を提供する、新たな技術、ツール、および訓練や医療の方法を開発して、日米で分かち合うように発展することでしょう。

 今回のシンポジウムの模様は、現在MindKit Research CenterにおいてDVDに編集中です。また同研究イト所のウェブサhttp://mindknit.org/ において同シンポジウムの概要、プログラム等が公開されています。次回は日本で開催されることが強く望まれており、その開催と日米でのあらたな共同研究に向けて、当センターの皆様のご協力をお願いいたします。

 

(写真)シンポジウムにて医療相談開発部長 深津玲子の演説

 


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