〔センター名称変更にあたって総長訓示〕
国立障害者リハビリテーションセンターの門出
 



 平成20年9月24日付けの「厚生労働省組織令の一部を改正する政令」により、10月1日より、「国立身体障害者リハビリテーションセンター」は「国立障害者リハビリテーションセンター」となりました。また、本省内に設置されておりました発達障害情報センターがセンター研究所に移転しました。
 障害者リハビリテーションセンターの門出にあたり、我々の責務とこれから歩む道についてお話し、職員各位の理解と協力をお願いする次第であります。
 本センターは、身体障害者リハビリテーションに関して「医学的、心理学的、社会学的及び職能的判定並びに治療、訓練及び指導」、「調査研究」、「技術者の養成と訓練」を行う施設として、昭和54年に設立されました。
 センターには
①身体障害者の医療から職業訓練までを一貫して実施するモデル施設 
②すべての障害への医学的、社会的、職業的リハビリテーションや評価の部門の整備 
③リハビリテーション技術全般にわたる研究開発とリハビリテーション事業に従事する技術者の養成・研修の積極的な推進 
④一般病院に入りにくい障害者のために特別な設備を備えた病院 
⑤内外の情報の収集と交換 
⑥身体障害者更生援護施設等に対する技術指導 
⑦国際協力の推進 
⑧精神障害、知的障害との重複障害者の受け入れ 
などが求められました。
 我々の先輩の努力により、センターは医療、福祉、就労いずれの領域においても先導的役割を果たすことができました。しかし、社会の進歩、医療制度の整備にともない、全国的に施設が整備され、技術の普及がすすみ、センターの先進性は色を失い、先導的役割を果たす場面が減少してきています。
 社会の進歩により、障害を持つ人々を取りまく環境が整備され、職能訓練、職業訓練を経ることなく社会参加を果たす障害者が増え、一定の訓練を受けなければ社会参加が困難な障害者の障害程度が重度化しているとともに、本センターの利用者数は減少傾向にあります。かつ知的障害、精神障害、認知障害などと身体障害を併せもつ重複障害者の利用が増加しています。
 近年、社会は少子高齢社会となり、さらに障害の概念、障害者福祉の理念、医療技術、リハビリテーション技法、社会福祉サービス提供体制、法制度などに大きな変化がありました。このような社会の変化を乗り越えて、センターに求められている障害者のリハビリテーションを先導する役割を果たしていくために、我々はセンターのあり方を検討し、昨年12月末に提示しました。
 その中で、センターは、これから「障害者の保健・医療・福祉に関する研究・開発、実践・検証、人材育成、関連情報発信の統合型機関」として、共生社会の構築に貢献していくこととしております。
 わが国は、高齢社会を迎え、介護を必要とする高齢者が急増しております。高齢者介護は、加齢に伴った心身機能低下による生活機能の障害に対する一つの対策手段であります。広くとらえれば、介護は障害に対する保健・医療・福祉サービスに含まれるものであります。障害に対する取り組みを深めるためには、介護から目をそらすことはできません。
 平成18年4月の障害者自立支援法により、身体障害、精神障害、知的障害の支援体制が一元化されました。従来、障害種別により異なっていた福祉サービスを一元化し、障害を持つ人々がもっと働ける社会を構築するために、規制緩和、手続きの透明化・明確化、負担の公平化、財源の明確化が図られております。この法律の精神、契約による福祉サービス利用による自立支援を実体化するためには、様々な課題があります。障害種別を越えてサービスモデルを確立するために、我々のセンターが果たすべき役割は大きいものがあると考えます。
 また、平成18年12月には国連総会で障害者権利条約が採択され、障害のとらえ方、障害を理由とする差別の禁止、障害を持つ人々に対する合理的配慮などが求められております。「永続的な心身機能障害をもつ人々が社会の障壁により社会参加が妨げられる状態」としてとらえられる「障害」は、これまでの「障害」と同じでありましょうか。障害を持つ人の健康へのアクセスを障害のない人と同じ水準で保障する体制を急ぎ整備する必要がありましょう。さらに、自立支援における合理的配慮の範囲を検討することが必要でしょう。これらの課題解決にとりくむことは、障害をもつ人々の保健・医療・福祉・就労に一貫して携わってきた当センターの責務と考えます。
 このような背景のなかで、「障害者リハビリテーションセンター」への名称変更を迎えます。
 精神障害、知的障害、発達障害などへの体制の不備は懸念されます。我々は、開設以来、精神障害、知的障害を重複した身体障害者の方々を受け入れ、身体障害単独の方々と同様の支援成果を上げてきました。また、高次脳機能障害モデル事業を通じて、高次脳機能障害へのリハビリテーション医療、自立生活訓練、就労移行支援の経験を積み重ね、わが国の高次脳機能障害者リハビリテーションを先導してきました。これらの実績をばねとして、発達障害者情報センターにも取り組むものであります。
 現在の組織、体制では、直ちに身体障害、高次脳機能障害以外の障害に十分な対応はできません。一歩一歩、知識と経験を積み上げながら、組織、体制を整備しなければなりません。
 私たちに国立障害者リハビリテーションセンターへの名称変更、発達障害情報センターの受け入れる決断を促した最大の理由は、わが国では障害者の保健・医療・福祉・就労に一元的に取り組む施設は我々のセンターをおいて他にはないということでした。
 例えば、高次脳機能障害モデル事業を思い出して下さい。身体障害者リハビリテーションセンターが、高次脳機能障害という精神障害に包含される障害に取り組みましたのは、他の機関が、社会が求めている医療と福祉の領域をつなぐという理念に対応出来なかったからです。
 発達障害情報センターも、同様の成り行きから私たちがお引き受けすることになりました。この情報センターを含め、発達障害を持つ青年期の人々の自立生活支援、就労支援にセンターを挙げて取り組みます。
 情報センターは、発達障害に関連するエビデンスに基づいた最新情報並びに発達障害情報センターの活動を支援する情報を収集し、HP、パンフレット・ポスター、シンポジウム、研究報告書などを通じて、社会に提供する業務を開始します。徐々に、家族支援、支援機器、情報アクセシビリティ、支援者研修支援などの業務を計画、実践することとしています。
 情報センターは、病院に設置されました発達障害診療室のスタッフを中心に業務を行うこととなりますが、他部門からの参画・参加なしに機能を発揮することはできません。情報センターをはじめとする発達障害に関連する業務には、必要に応じてあらゆる部門の職員の力を結集することが必要です。皆さんの日常業務に加え、センターの横断的業務にも積極的に参画・参加してくださいますようご理解とご協力をお願いします。
 私は、「国立障害者リハビリテーションセンター」の門出にあたり、以下のことをお願いしたいと思います。
 1.利用者中心の支援のため、部門間の協力関係を深める。
 2.日常業務の記録を蓄積し、成果を検証し、公開する業務体制を確立する。
 3.地域連携を深め、福祉サービス提供、研究・開発の場とする。
 4.センター横断型事業に積極的に取組む。
 時代の要請にこたえる研究開発、事業に積極的に取り組むことによってのみ、組織を守ることができると考えます。
 私たちは、障害を持つ人々のリハビリテーションという保健・医療・福祉・就労にまたがる領域で仕事をしてきました。国内に、障害を持つ人々の保健・医療と福祉、さらに就労を一貫してとらえる理念を追求する機関、仕組みは少なく、学術活動は貧弱です。医学・医療は障害との関わりが稀薄で、教育、社会福祉、雇用労働は医学・医療との連携に冷淡であります。
 障害を持つ人々のリハビリテーションは、国の社会保障制度の根幹を支える重要な役割をもっております。障害を持つ人々が、社会で自立した生活を営むための保健・医療・福祉・就労支援を実践、技術の研究開発、人材育成、情報収集・発信、啓蒙普及の面から包括的に取り扱う我々のセンターの任務は社会の安全・安心を保障する重要なものであります。
 職員各位には、名称変更と発達障害情報センター移転の背景と将来展望を理解し、現状に安住することなく、将来を見据えて、センターが一丸となって明日を切りひらいて下さいますようお願いします。

 

(写真)総長訓示