〔センター行事〕
職員研修会 中島隆信 慶應義塾大学客員教授講演会
更生訓練所 理療教育・就労支援部長 鈴木 茂



 本年度第2回目となる職員研修会が、去る9月25日(木)午後、慶應義塾大学客員教授、内閣府大臣官房統計委員会担当室長として多方面に活躍されている中島隆信先生をお迎えし、「経済学の視点からみた障害者の自立支援」との演題で開催されました。
 始めに岩谷総長より中島先生のご紹介と、ご著作「障害者の経済学」に触れての先生のご活躍が紹介され、引き続き先生のご講演となりました。
 先生は、障害がおありのお子様との関わり等を通し、福祉制度が整っても国民の意識が追いつかなければうまく機能しないこと、障害者の支援には経済学の視点が重要であることを、様々な角度からお話になりました。
 最初に経済学の立場について、強制された行動は評価せず、一人ひとりの要求や欲望を生かすことで世の中が良くなるという見方であることを、リハビリの効果や重力の作用などの自然科学との共通点を通してお示しになり、欲望を否定するのではなく、それを利用し役立てる仕組みを考えることが経済学であることを紹介されました。
 福祉の世界も同様で、やりたいことができているか、望んだサービスが受けられているか、役に立っているかなど欲求を満たすことで福祉業界全部が良くなる筈だが、福祉も教育も医療も特別な世界として欲求を持ち込むことを否定してきており、それで本当に本人のためになってきたのかについて、半分は親として、半分は経済学者としてお話したいと前置きされて本題に入りました。
 まず日本における自由とは何か、それは国民の選択の自由であるとされ、特に消費の自由が保障されていることが国の自由度のバロメーターであること、これまでの福祉は社会が責任を持ち社会がお世話をしましょうという措置の仕組みだったが、「好きなことを」「好きなときに」「好きな人と」という3原則に180度変えるために支援費制度や障害者自立支援法が誕生したと解説されました。
 次に、経済学とは自由意志という社会における動機付けの力を大切にする学問であるとされ、自由を追求すると社会が悪くなると考える人が多いが、事故米や産地偽装などの悪い行いがあっても悪い人だからとか悪い企業だからと切り捨ててしまえば失敗を恐れて行動を起こさなくなり、結局選択の幅が狭まって選択の自由が少なくなってしまうので、消費者がしっかり選ぶ力をつけるなど、緊張感を与えることが規律となって市場を育てると力説されました。
 それでは、当センターのように営利を目的としない場所で働く人のインセンティブはどうなっているのか、金銭的なインセンティブがないのになぜ心を込めてサービスする人が存在するのかと問いかけられ、それは利己主義(将来必ず自分のためになる筈だとの思い込みや信念)と利他主義(いいサービスをすると相手が喜んでくれる)のいずれかであり、利己主義の介護が閉鎖空間で行われる場合には虐待や職員のための介護になるリスクが高いので、自立や育ちにどういう効果が表れたかを検証し、いかにしてミッションを与えるかが何より重要であるとの、当センターにとっても大切な示唆をいただきました。
 このほか、障害がある人が働く場面で生産性をあげるためには、民間の企業が従業員に対して行っているのと全く同様に、ご本人の障害特性を踏まえた工夫をどれだけ盛り込めるかにかかっていることに言及され、最後に、「子供の自立支援のためには親の自立支援が必要」と声を大にして申し上げたいと強調され、親の子供への精神的依存、子供が自立し年金が入らなくなると親の生活ができなくなってしまう現実の問題を指摘され、貧しくなった人達への支援よりも貧しくなる原因の根を早期に摘み取る対策の必要を訴えられ終了となりました。
 当センターでは、障害者自立支援法の仕組みに沿って組織改正を行い、青年期にある方の発達障害についても取組みを開始する直前の研修会でありましたので、先生がお考えの障害者支援のあり方と、特に母親支援に対するご期待を強く感じ、決意を新たにする研修会となりました。
 中島先生に心より感謝を申し上げ、ますますのご活躍をお願いして職員研修会のご報告といたします。

 

(写真)中島隆信先生による職員研修会