〔国際協力情報〕
WHO指定研究協力センターセミナー
「高等教育における障害学生に対する生活・学習支援」開催報告
管理部企画課



 去る2月7日(土曜日)に当センターにおいてWHO指定研究協力センターセミナーを開催いたしました。今回は、障害がある人々の社会参加の一つである、大学、短大等の高等教育において、就学、入学後の支援についての現状と課題を考えることをテーマといたしました。
 基調講演に、アメリカのモンタナ大学障害学生支援部長であり、AHEAD(高等教育と障害に関する協会)の次期会長そしてご自身も視覚障害があるジム・マークス氏をお迎えし、日本の学生支援機構、大学、障害当事者団体、発達障害のある家族の大学入学の経験をもつ専門家5名にパネリストとして参加していただき、各分野からの発表、ディスカッション、会場からの質疑応答を行いました。当日は、障害当事者、ご家族、福祉関係者、教育関係者、労働関係者、障害がある人々の団体等、約100名の方に参加していただきました。
 ジム・マークス氏の講演では、アメリカでは高等教育を受けている学生のうち11%以上が障害がある学生で、モンタナ大学では14,000人の学生のうち何らかの支援を求めた学生が1,000人で、その多くが何らかの発達障害がある人々であること(勿論、肢体不自由、聴覚障害、視覚障害、内部障害の学生もいる)。
 彼らを支援するための障害学生支援部には有償の学生ボランティアを含むスタッフがいて、コーディネーターがサポートの計画作りなどの中核的役割を果たしているそうです。アメリカで障害学生の支援の根幹となる考え方は、障害がある人々は障害がない人々と同等の社会参加の権利を有しているということであり、教育現場において障害があることによる配慮は、不合理であったり教育の本質を変えるものであってはならない(例えば障害のために試験を減らして受けないでよいようにするのではなく、試験時間を延長して実施することが教育の本質を変えない合理的配慮である)と話されました。また、最近のアメリカにおけるトピックとして、戦争との関係をあげられました。この数年、アメリカが戦争のために派遣している志願兵の多くは、大学に行くための資金を貯めるたに志願するのですが、現地で様々な障害を受けて帰国し大学に入るため、爆撃による頭部の損傷やPTSD(外傷性ストレス症候群)など、これまでになかったタイプの障害学生に対する対応やサービスが新たな課題となっているとのことでした。
 日本人パネリストからは次のような発表がありました。日本学生支援機構の谷川課長からは毎年実施している大学、短期大学、高等専門学校における障害学生の修学支援の実態調査の平成19年度の報告として、1200校への調査の結果、学生数323万人のうち、障害がある学生は0.17%の5,404名であり、そのうちの約3,000人弱から支援の申し出があり学校側が支援をしています。
 障害の割合は身体障害(肢体不自由、聴覚言語、視覚障害)のある学生が約75%で、発達障害は3.3%であること。この点は日米で違いがあります。また、入試では支援を受けても入学後は支援申請をしない人もいたり、専門の支援担当部門がなく、各部署で対応しているところが多い等の状況が述べられました。
 続いて、東京大学先端科学技術研究センターの近藤助教からDO-ITの活動の紹介がありました。この活動は元はワシントン大学の取り組みで、日本ではDO-IT Japanとして障害がある高校生のための大学体験プログラムを実施しています。全国から約10名の障害がある高校生に1週間の東京大学でのキャンプにより大学生活の体験を通して、支援の求め方、障害を相手に伝える方法、福祉機器の活用などを学ぶものです。そしてその後も継続してサポートを行うとのことです。
 また、大学で支援を行っている情報が高校には伝わっていないため、高校と大学との連携の必要性、認知面の障害がある学生への支援の充実が求められる等の指摘をされました。
 金沢大学の子どものこころの発達研究センターの高橋助教は、発達障害があるご自分の家族の大学入学時からの体験に基づいた発表をされました。
 まず、大学に進学することにより、かえって就労しにくくなる現状があること。高機能自閉症の場合、青年期や成人になって診断を受ける場合もあり、家族や本人が障害を受け入れず支援も求めないために、社会で不適合の状態になり、大学の教員もその障害の理解が難しく、将来を見据えた支援ができないなどの問題があることを述べられました。そして発達障害のあるお子さんの親としてご自身が経験した(現在も続いて)大学、大学院への働きかけの内容、経過について詳しく発表されました。
 浦和大学の寺島学部長からは、浦和大学では福祉学部や介護福祉課の学生によりトイレ介助を含む支援を実施しているため、肢体不自由の学生の入学が続いているということと障害を理由に入学を断らない方針であることが紹介されました。
 また、障害がない学生が資料提出をする際に、障害のある学生のことを考えた作成方法を指示したり、授業の準備の際も障害がある学生にもわかる工夫をしているとのことでした。しかし、全ての教職員がこのような対応をしているわけではなく教職員自身が人権哲学を持ち、実践することが必要であると述べられました。
 最後に、日本せきずい基金の大濱理事長が重度の脊髄損傷(頸髄損傷)の方々の事例を発表された中で、高等教育において重度障害がある人々の就学支援が制度化されていないこと、ヘルパーの派遣時間も制限があるなど、制度の問題を指摘されました。障害がある学生自身の自己管理能力の必要性と、設備、支援機器、サポートなどの制度化を求められました。
 その後のパネリストによるディスカッションでは、支援についての教職員の理解と実行が必要であり、教育と福祉の制度間の連携が求められることが話し合われました。セミナー参加者との質疑応答では、高等教育後の進路・就労や、支援コーディネーターの養成、障害のある学生さんのご家族からの進路についての質問など、活発な意見交換が行われました。
 今回、高等教育に焦点を当てたセミナーを初めて開催し、当センターがこれまであまり関わっていなかった分野での状況や取り組みを学ぶことができました。障害がある学生が、進路の選択を広げることができるように、また入学した学生が支援を求めることができる仕組みと、学生の学びを保障するために教職員が障害を理解し、適切な支援を提供するために、制度や障害に関する情報の普及など、多くの課題があることがわかりました。
 最後にパネリストの皆様、セミナーに参加して下さった皆様にお礼を申し上げます。

 

〔プログラム〕
13時〜13時10分 開会挨拶 岩谷 力
(国立障害者リハビリテーションセンター総長)

 

13時15分〜14時 基調講演「アメリカの高等教育における障害学生
−平等なアクセス、職業リハビリテーション、自立生活の融合−」
 Jim Marks  モンタナ大学障害学生支援部長
 AHEAD (Association of Higher Education and Disability)次期会長

 

14時10分〜16時45分 パネルディスカッション
① 「大学、短期大学及び高等専門学校における障害学生の修学支援に関する平成19年度実態調査報告」
 谷川 敦(独立行政法人 日本学生支援機構学生生活部特別支援課長)

 

②「DO-IT Japanの活動と発達障害・高次脳機能障害のある学生に対する高等教育支援」
 近藤武夫 (東京大学先端科学技術研究センター特任助教)

 

③「高機能自閉症者Kの大学・大学院進学と就学の支援について」
 高橋和子 (金沢大学子どものこころの発達研究センター特任助教)

 

④「重度障害者の学習支援に不可欠な生活支援」
 寺島 彰 (浦和大学総合福祉学部 学部長、教授)

 

⑤「脊髄損傷学生の就学復学から就労への道」
 大濱 眞 (NPO法人 日本せきずい基金理事長)

 

 ディスカッション Jim Marks氏が参加して

質疑応答

 

16時45分〜16時50分 閉会挨拶 江藤文夫 
(国立障害者リハビリテーションセンター更生訓練所長)



(写真)WHO指定研究協力センターセミナー