〔研究所情報〕
国際会議報告 (ISO/TC173/SC2/WG11)
(オランダ・デルフト)
研究所 福祉機器開発部 井上 剛伸


 4月15日,16日と、オランダのデルフトにあるオランダ規格協会(NEN)で開催されたISO/TC173/SC2/WG11(“福祉用具の分類と用語”国際規格改定作業グループ)の会議に出席してきました。この会議では、国際標準化機構(ISO)の規格であるISO9999(福祉用具の分類と用語)の改訂作業を行っています。1992年に初版が発行され、その後1998年、2002年、2007年に改訂版が発行され、現在の改訂作業は第5版(2011年発行予定)の作成作業を行っています。
 ISO9999は、福祉用具の分類と用語を定めている規格であり、大分類、中分類、小分類の3階層からなる分類を定めています。大分類は、04医療用具、05技能訓練用具、06義肢装具、09パーソナルケア関連用具、12移動機器、15家事用具、18家具・建具・建築設備、22コミュニケーション・情報支援用具、24操作用具、27環境改善機器・作業用具、30レクリエーション用具となっています。分類や用語の規格なので、“車いすとはなんぞや?”というような、何ともつかみ所のない議論も展開され、慣れるまでにずいぶん時間がかかりましたが、最近ではようやく議論に加わることができるようになっています。また、福祉用具の定義に関する議論も行われます。ちなみに、福祉用具を表す新しい英語”AssistiveProducts”は、平成14年10月に我が国立障害者リハビリテーションセンターで開催されたこの会議において誕生した言葉で、現在ISOにおける福祉用具を表す正式な英語として採用されています。さらに、WHOの国際生活機能分類(ICF)との関連性についての議論も展開されます。ISO9999は、WHOの国際分類ファミリー(FIC)にも位置付けられ、近年ICFとの対応付けの議論が盛んになっています。人の生活と福祉用具をつなぐ大変興味深い議論が展開されます。
 今回の会議では、国際規格作りの第2段階にあたる委員会草案(CD)の作成に関する議論を行いました。日本からは、記憶の機能を補う福祉機器と、認知療法に使用する福祉機器の2つの機器の追加を提案し、CDに反映することができました。この提案は、福祉機器開発部で進めている認知症のある方の福祉機器の研究から発展したものであり、研究所の成果が、国際規格につなげられたという良い例の一つと考えています。さらに、ロコマットを代表例とする免荷式歩行訓練機の分類に関する提案や、日本独特の歩行補助器具であるシルバーカーの分類に関する提案も行いました。いずれも継続審議となりましたが、新たな機器や地域独自の機器をどのように理解するかという点で、真剣な議論が取り交わされました。興味深い議論を一つ紹介しましょう。シルバーカーの分類に関する議論です。シルバーカーの機能は、歩行中の軽い荷重支持と、買い物などの荷物を運搬する機能、疲れたときに腰掛けて休む機能の、主に3つを複合した機能を有します。普通ならば、主たる機能は何かを議論し、その主たる機能の分類に落ち着けるというのが常套なのですが、議長から、“これは、使用者の心理的な要因に影響する点が重要な機能だね”という指摘があり、シルバーカーそのものの存在意義が認められたのです。福祉用具福祉用具した物では、使用者に心理的な抵抗が生まれます。それが原因で使われなくなってしまう福祉用具も少なくはありません。これに対して、ショッピングカートのような、抵抗感が生まれにくいデザインにすることで、利用者は福祉用具であることを意識せずに使うことができるのではないか。本質を突いた議論だと思いました。
 この会議は、福祉機器全体を見渡しつつ、ICFなど障害やリハビリテーションと福祉機器の関係を表す議論が行われるため、福祉機器の研究を行う上で重要な知見を得ることができます。広い視野から、福祉機器という狭い範囲を重点的に研究する。福祉機器開発部の研究方針に合致した、有用な議論に参加することの意義は、非常に大きいと感じています。