〔研究所情報〕
高次脳機能障害者による情報通信技術利用の実態調査
研究所 障害工学研究部 研究員 中山 剛

1.はじめに
 研究所障害工学研究部では平成14年度から高次脳機能障害など認知障害者のための支援機器の研究を行っており、その成果の一部はPDA(Personal Digital Assistant、携帯情報端末)用ソフトウェアとして共同研究の企業から市販化されています1-3)。上述のPDAはもとより、昨今の情報通信技術(ICT,Information and Communication Technology)の技術は日進月歩であり、生活圏内にも情報機器が数多く入ってくるようになりました。例えば、近年、携帯電話の普及率は飛躍的に伸びています。また、リハビリテーション分野でも情報通信技術を障害者の訓練や支援に活かそうという試みもなされています4-5)。
 「情報通信技術と障害者の移動や外出の支援」をテーマにした調査を実施しました。その際、学院視覚障害学科の小林主任教官をはじめとする先生方、学院の学生や卒業生にもご協力を頂きました。本調査は幾つかの小テーマに分けて実施致しましたが、本報では高次脳機能障害者による情報通信技術利用の実態に関しまして簡単に報告します。
   
2.実態調査結果の概要
 高次脳機能障害のある当事者ならびにご家族の会等にご協力を頂いて「携帯電話の利用状況と外出の状況」に関するアンケート調査を実施しました。調査票の配布方法として主に郵便送付で実施しました。2009年3月7日時点での回収数は293通でしたが、その集計結果の概要を以下に説明します。
男性が77%、女性が23%
現在の年齢は40歳未満の方が約55%と過半数
頭部外傷の方が6割強、脳血管障害の方が16%程度、低酸素脳症の方が10%弱
約7割の方が携帯電話を利用(PHSを含む)
利用機能としては通話が94%、メールが75%、カメラが50%、インターネットが24%、ゲームが18%、地図アプリが5%、GPSナビが5%(それぞれ本件回答者に対する割合)
外出の頻度に関しては、ほとんど毎日が65%、週2〜3回が20%、週1回が6%、ほとんど外出しないが5%(それぞれ本件回答者に対する割合)
障害受傷(発症)以前と比べて、外出の頻度が増加したのが10%、減少したのが65%、変わらない(減少していない)が25%
道に良く迷う方が23%、たまに迷う方が33%、あまり迷わない方が26%、まったく迷わない方が18%(それぞれ本件回答者に対する割合)
   
3.おわりに
 高次脳機能障害者の中には外出に困難を抱えている方が大勢いらっしゃることが明らかとなりました。また、近年に販売されているほとんどの携帯電話にはGPS機能が付いていますが、その利用率はまだ低いようです。一方、移動を支援するサービスに関する研究が全国各地で行われており、一部は実施もされています6-8)。自由記載で携帯電話に関するご要望などもご回答頂きましたので、今後、この調査結果を携帯電話会社等へ情報提供していきます。
 なお、本調査研究は厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)「障害者の自律移動支援における情報技術利用方法に関する調査研究」(H18-障害-一般-007)の一部として行われました。
   
【参考・引用文献】
(1) 明電ソフトウエア株式会社,高次脳機能障害者のリハビリ・生活・就労支援ソフト「メモリアシスト」,available from <http://talkassist.meidensoftware.co.jp/ma/index.html>(accessed 2009-06-05)
(2) 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構,メモリアシスト:就労支援機器のページ, available from <http://www.kiki.jeed.or.jp/pro/k412701.html>(accessed 2009-06-05)
(3) 工藤則之,メモリアシストの活用−福祉機器・福祉用具の最新事情−,ノーマライゼーション,障害者の福祉,28(8),p. 33,2008.
(4) 安田清,携帯電話を使った記憶補助,訪問看護と介護,12(11),pp. 944-949,2007.
(5) 加藤貴志,他,記憶代償手段としてのオンラインスケジューラーサービスの紹介,総合リハビリテーション,37(3),pp. 261-264,2009.
(6) 自律移動支援プロジェクト,available from <http://www.jiritsu-project.jp/>(accessed 2008-06-05)
(7) 障害者等ITバリアフリープロジェクト,available from <http://www.itbarrierfree.net/>(accessed 2009-06-05)
(8) 小田急電鉄株式会社,小田急あんしんグーパスIC,available from <http://goopas.jp/ag/ic/>(accessed 2009-06-05)