〔研究所情報〕
リハビリテーション・ロボットに関する
国際会議(ICORR2009)参加報告
感覚機能系障害研究部感覚認知障害研究室 神作憲司


 2009年6月23〜26日に国立京都国際会館にて行われた、「リハビリテーション・ロボットに関する国際会議(ICORR: International Conference on Rehabilitation Robotics)」に参加しました。感覚機能系障害研究部の感覚認知障害研究室では、6月23日に、「Brain-Computer Interfaces for communication and control」をテーマとするプレカンファレンス・ラボセッションを企画する機会がありましたので、ご報告させていただきます。
 ブレイン-コンピュータ・インターフェイス(Brain-Computer Interface: BCI)、もしくはブレイン-マシン・インターフェイス(Brain-Machine Interface: BMI)とよばれる技術は、脳からの信号を計測し、それを利用して生活環境操作、コミュニケーション、運動の補助などを行おうとする試みで、近年、障害のある方のための最新技術として注目されてきています。今回は特に、こうした研究の中でも実用により近いと考えられている、手術を必要としない脳波を用いた実験を行っている研究者に、国内外からお集まりいただきました。セッションは2部構成にて行い、午前の部では、それぞれの研究者に最先端の研究を講演いただき、午後の部では、実際の実験装置を持ち込んでのデモンストレーションを行っていただきました。
 多少専門的になりますが、このセッションでのそれぞれの講演テーマをご紹介いたします。熊本大学大学院自然科学研究科(村山伸樹研究室)の伊賀崎伴彦氏は、視覚刺激にて誘発される認知機能を反映する脳波(P300様脳波)を利用したデータを発表され、また、自作の脳波アンプを含めたシステムを、午後にデモンストレーションされました。東北大学大学院工学研究科の加納慎一郎氏は、視覚刺激ではなく、聴覚刺激にて誘発されるP300様脳波を利用したデータを発表され、注目されました。
 私たち国立障害者リハビリテーションセンター研究所・感覚機能系障害研究部・感覚認知障害研究室では、視覚刺激にて誘発されるP300様脳波を生活環境制御やワープロ操作に適用する研究を行ってきています(厚生労働科学研究)。今回はそれらの中から、障害者対象研究の成果、その精度を上げるための視覚刺激の工夫や、背景にある脳内情報処理の基礎的知見について紹介しました。また、上肢運動のイメージをすることで誘発される脳波の利用に関するデータも紹介しました。午後には、脳波による生活環境制御を、実空間とバーチャルリアリティー空間(トレーニング用)にて実現するシステムをデモンストレーションしました。オーストリアGuger TechnologiesのGuenter Edlinger氏は、視覚刺激にて誘発されるP300様脳波を利用したデータを発表しました。こうした脳波で小さなロボットを操作し、住宅を模した地図の上を指定した行き先まで動かすシステムは、午後のデモンストレーションでも好評でした。また、富山県立大学/東京大学の唐山英明氏より託されたスライドも披露し、定常状態視覚誘発電位(SSVEP)と呼ばれる脳波を用いた実験についても紹介されました。また会場のドイツBremen大学の研究者からも、SSVEP実験の体験談を披露いただきました。
 東京工業大学精密工学研究所(小池康晴研究室)のSercan Taha Ahi氏は、視覚刺激にて誘発されるP300様脳波のデータに対し、各種解析によりデータの次元を落とす手法を紹介いただきました。さらに、ドイツFraunhofer研究機構FIRST・IDA(Guido Nolte研究室)のArne Eward氏からは、上肢運動のイメージをすることで誘発される脳波の解析において、運動野周辺から信号が出ているはずという神経生理学的仮定を置くことで、データの次元を落とす手法の発表がありました。この手法で、およそ2/3の被験者データでより正確な判別に成功したとのことで、注目されました。
 「リハビリテーション・ロボットに関する国際会議」ということで、会場には工学や医学など学際的な分野の方がお集まりでした。今回の会議のテーマが、「Reaching Users & the Community」であったということもあり、これら研究者間で、特にこうした研究の中から得られてきた研究成果を、どのように社会に還元していくのかという点について、活発な議論が交わされました。今後とも、国内外を問わず研究者間の情報交換を行う機会を設けつつ、実りある研究を行っていければと考えています。

(写真)会場(国立京都国際会館)入り口付近
写真 会場(国立京都国際会館)入り口付近