〔国際協力情報〕
CBR活動の地域活動計画(2010-2015)に
関するWHOワークショップ
岩谷 力


 西太平洋地域におけるCBR活動の枠組みに関するワークショップが、2009.06.24から06.26の3日間、マニラのWHO西太平洋地域事務所で開催された。カンボジア、中国、クック諸島、フィジー、日本、ラオス、マレーシア、モンゴル、ニュージーランド、パラオ、パプアニューギニア、フィリピン、韓国、サモア、バヌアツ、ベトナム、ソロモン諸島の17カ国からの代表、WHO本部からの代表、ユニセフ、米国らい団体、オーストラリア国際協力機構、クリストッフェル盲人団体、香港リハビリテーション協会、JICAのほか、WHO協力機関として国立障害者リハビリテーションセンタ−、北京中山大学、香港復康會、フィリピンNegurosリハビリテーション財団からの代表者が出席して、マニラのWHO西太平洋地域事務所において開催された。WHO本部からは障害とリハビリテーションチームのチャパル・カスナビス氏が出席し、日本からは、日本障害者リハビリテーション協会国際部長の上野悦子氏、フィリピンJICA事務所から伊藤奈緒子氏と鷺谷大輔氏と私を含めて4名が出席した。
 今回のワークショップの背景は、会議報告書によると以下のものである。地球上には現在6億5千万から10億人(全人口の10-15%)の障害を持つ人が生活していると推定されている。さらに、人口増加、高齢化、慢性疾患の増加、医学・医療の進歩に伴って、その数は増加している。主たる障害の原因疾患は糖尿病、心血管病、悪性腫瘍などの慢性疾患、交通事故、暴力、転落、地雷などによる外傷、先天異常、栄養不良、感染症である。これらは、医療・リハビリテーションサービスにおいて大きな問題となっているが、その影響を最も受けやすいのは貧困層あるいは社会的弱者の人々である。また社会は障害を持つ人々のニーズに応えるための巨額な社会的・経済的負担を支払っている。
 WHOは、CBR(community based rehabilitation)を障害を持つ人々のリハビリテーション、機会均等、社会参加の戦略として発展させてきた。今日、全世界で90カ国以上の国がCBRを受け入れ、保健医療、教育、生計を立てるための機会などへのアクセスのための効果的、包括的な多角的戦略となっている。
 今日のCBRは、ILO―UNESCO―WHOの共同見解(2004)、WHOの障害予防、治療、リハビリテーションに関する決議(2005)、WHOの障害とリハビリテーション行動計画(2006-2011)、そして国連の障害者権利条約(2008)に基づいて推進されている。
 ILO 、UNESCO、 WHOが2004年にまとめた共同見解によると、CBRは、社会開発に障害を持つ人々のリハビリテーション、機会均等、社会参加を包含する戦略(インクルーシブな社会開発)であって、障害当事者、家族、当事者組織、地域社会さらに障害を持つ人々に対する保健、教育、職業、社会などさまざまなサービスに関係する政府、非政府組織の協働により実行されるものである。
 その主要な目的は、障害を持つ人々の身体的、精神的能力を最大限に開発し、社会における一般市民と同じサービスにアクセスでき、社会の積極的な貢献者となることを保証することであり、地域社会のバリアーを取り除くなどして社会を変革し、障害を持つ人々の権利を守るように活性化させることである。
 CBRを推進するためには、国家による法律、協力、資源配分の面での支援、権利モデルにもとづくCBRプログラムの必要性が認識されること、地域社会が障害を持つ人々のニーズへの対応をいとわないこと、意欲のある活動家がいることが重要である。CBRプログラムは、政府、地方行政機関、地域社会、健康、教育、雇用と労働、NGO、メディアなどの多領域からの支援、それらの領域間の協力により成し遂げられるものである。 CBRの鍵となる戦略として保健、教育、生計、社会、エンパワメントの5つ要素がCBR matrixとして示されている。それぞれの要素は5項目の下位要素から構成されている(図:1)。



図1:CBRマトリックス
図1:CBRマトリックス

 2009年2月にバンコクで第一回のアジア太平洋CBR会議が開催され、主要な関係者が参加して情報交換、事例提示、実践報告などを通じて、CBRを推進するためのネットワークが築かれた。
 今回マニラで開催されたワークショップにおいて2010年から2020年における西太平洋地域のCBR活動の枠組みが議論された。
 CBRは国家の障害による負荷を減少させ、障害を持つ人々の生活の質を高め、ミレニアウム発展目標を包括的で公平なやり方で達成するために重要である。
 その枠組みは、すべての障害を持つ人々が尊厳を持って生活し、権利と機会が保証され、権利に基づく、バリアーフリーかつインクルーシブな社会の発展に貢献し利益を享受するよう力づけられる地域となることを展望している。
 西太平洋地域での行動構想の目標は、
 1.発展政策、発展プログラムに、障害者問題、CBRを中心課題としてとりあげること。
 2.CBRプログラムをプライマリヘルスケアにつなげ、保健施策に統合すること。
 3.障害を持つ人々のすべての生活場面、すべてのCBRとインクルーシブな発展への活動参加を推進すること。
 を通じて、ヘルスサービス、リハビリテーションサービス、福祉機器ならびに質が高いバリアフリー環境へのアクセスを改善することにある。
 この枠組みは、バンコク会議であきらかにされた6つの主要な活動領域からなる。
 (1) 意識向上とアドボカシー(権利擁護)
 (2) 能力開発
 (3) 協力関係とネットワーク
 (4) 政策とプログラム開発
 (5) バリアフリーな環境整備と福祉機器の供給
 (6) 調査と情報管理
 今回のワークショップにおいて、それぞれの関係国、関係団体、WHO協力センターがこれらの主要活動領域において果たすべき役割が検討され、協力センターは、情報の整理と提供、事例提示、活動経験の報告、トレーニングや教育教材の提供などを通じて、WHOに協力してCBRを推進することが要請された。
 これからアジア太平洋地域におけるCBRへの取り組みはバンコク会議で結成されたネットワークを通じて進められる。第2回のアジア太平洋CBR会議は2011年にフィリピンで開催される。
 CBRの実施におけるWHOの役割は、定期的にアジア太平洋地域のネットワークが行う各国の活動状況と履行状況の調査・評価を側面から支援することである。それにより、関係国、関係団体、WHO協力センターが緊密にコミュニケーションとフィードバックを保ち、必要に応じて電話による話し合い、追跡、調査会議が企画されることとなろう。
 WHO協力センターとして、このような国際会議に出席したのは初めてであった。西太平洋地域の障害とリハビリテーションに関係する協力センターが会合で顔をあわせたことも初めてであった。北京、香港、フィリピンの協力センターの代表と昼食をともにしながら、今後、協力関係を深めていくことが確認された。手始めとして、我々が作成してきたリハビリテーションマニュアルを提供することとした。これまで、マニュアルはWHO事務所を通じて各国関係機関に配布されており、配布先でどのように利用されているかを確認することが困難であった。これから、協力センターに送付されることになれば、マニュアルがどのように利用されるか、どのような効用があるか、どのような要望があるかなどを直接知ることができ、国際協力の成果を上げるために役立つと期待される。

(写真)CBRワークショップ参加者
CBRワークショップ参加者