〔卒業生訪問シリーズ〕
就労移行支援(養成施設)卒業生の就職先を訪問して
管理部企画課


 今回は平成19年2月に当センター「就労移行支援(養成施設)」を卒業された熊谷淳(くまがい あつし)さんを取材しました。熊谷さんは、当センターに在籍中、平成17年2月に按摩・マッサージ・指圧師の、また平成19年3月にはり師、きゅう師の国家資格をそれぞれ取得されました。そして、同年10月に「こげら治療院」を開業されています。
 「こげら治療院」は、西武新宿線「小平駅」から徒歩5分、閑静な住宅街の中にあり、視覚にハンディキャップを持ちながらも社会参加を目指し、国家試験に合格した有資格者をスタッフに迎え、地域に根ざした治療院を目指して日々技術の向上に努められています。
 「こげら治療院」の詳細はホームページhttp://cogera.net/pc/top.htmlをご覧下さい。

1. 熊谷さんが開業された「こげら治療院」のことについて、まずお話をお聞かせ下さい。
「こげら治療院」の名称は、熊谷さん自身が考えられたのですか?どんな意味が込められているのですか?
   
   治療院の名称についてはとても悩み、いろいろな方々に相談しましたが、どれもしっくりいかず、最終的には私自身が決めました。故郷の北海道から東京に出てきて初めて暮らしたのが小平市であったこと、その後転居してからも何かと小平という地に縁があり、奇しくも小平駅最寄りで治療院を開業することになったため、親しみ易く、なおかつ小平に因んだ名称にしたいと考え、小平市の市鳥である「こげら」の名を入れて「こげら治療院」としました。

スタッフは何名いらっしゃいますか?スタッフはどんな人たちですか?
   
   スタッフは男性4名、女性4名の8名の方にお願いしています。国リハセンターとヘレンケラー学院を卒業された方々です。皆、この仕事が好きで明るく気さくな人たちです。シフトを組んで常時2〜3名で治療に当たっています。

「こげら治療院」を開業されていろいろと苦労された点もあったかと思いますが、いかがですか?
   
   そうですね、施術を行う上で、患者さんの表情や動作が目で確認できないので、それが一番苦労します。あと、予定していたスタッフの方が急に入れなくなった時、補充をどうするか、苦労します。

開業して良かったなと思うのはどんな時でしょうか?
   
   良いスタッフと良い患者さんに恵まれ、こげら治療院が地域に根ざした運営が出来、皆様に認められていると実感できるときです。また、私個人としてこの仕事を通して社会参加できていると実感できるときは、開業して良かったと思いますね。

「こげら治療院」を今後どうしていきたいと考えていますか?
   
   スタッフ全員がやりがいを持って生き生きと働ける場。安心、安全に配慮し、地域に密着して誰からも愛される治療院づくりを目指していきたいと考えています。

2. 国リハセンター在籍中のお話をお聞かせ下さい。
国リハセンターに入所されようと考えたきっかけは何ですか?
   
   視力を失い、それまでの生活や仕事が続けられなくなって、今後の人生で何が出来るか、それまでの生計を維持していく方法はあるのか、あらゆる可能性を模索している時に、主治医から国リハセンターのロービジョンクリニックを紹介され、そこで生活訓練課程と理療教育課程があることを知り、入所しました。

熊谷さんにとって、国リハセンターで過ごされた5年間はどのようなものでしたか?
   
   全てが初めてのことばかりで最初は不安でしたが、30年振りに学生に戻り、勉強やセンター内での様々な活動を通して知り合った先生方、先輩方、仲間たちと過ごした5年間は楽しくとても充実した中身の濃いものでした。ここでの経験は今後の人生においてとても大切なものであると思っています。

苦手な科目、逆に得意な科目は何でしたか?
   
   生理学・臨床各論は、見えないので図や表が理解できず、苦手な科目でした。得意科目は自然科学でした。

何かクラブ活動をしていましたか?
   
   按摩研究会・ブラインドテニスに所属していました。

楽しかった思い出や、特に印象に残っていることなどありましたら、エピソードを交えてお聞かせ下さい。
   
   スポーツ交流会で塩原まで行き、露天風呂に入ったことが楽しかったですね。並木祭で按摩サロンとやきそばの模擬店を5年間出店したことも忘れられない思い出です。

3. 熊谷さんの今後の目標をお聞かせ下さい。
   
   子供の頃から手に技術を持つ「職人」に憧れていましたが、ずっと営業の仕事を続けてきました。やっと国家資格である技術を身につけることができました。これからはますます技術を磨き、「職人」の域に達したい。健康に気をつけて長く続けていきたいと思っています。

4. 国リハセンターに在籍している後輩の皆さんにアドバイスをお願いします。
   
   多くの仲間づくりを。チャンスがあれば、在籍中から実技の面で経験を積んでおくといいと思います。こげら治療院にも是非見学に来てください!

5 国リハセンター就労移行支援(養成施設)のPRをお願いします。
   
   経験豊富な先生方のもとで、多くの仲間と楽しく勉強できます!
   
ご協力ありがとうございました。これからも頑張って下さい!!


(写真)「就労移行支援(養成施設)」を卒業された熊谷 淳さん

〈取材後記〉
 熊谷さんは、失明する前は、住宅資材の販売会社で営業をしていたそうです。が、8年ほど前、突然失明し、主治医から国リハ病院を紹介され、生活訓練課程で歩行訓練を受け、さらに理療教育課程に進んで5年間勉学に励み、あはき師の国家試験に合格し治療院を開業されました。その過程には大変なご苦労があったことと思いますが、取材を通して感じたのはむしろ熊谷さんの常に前向きに生きようという姿勢でした。
 自ら開業した仕事に精力を注ぐことはもちろん、趣味も、テニス、スキー、読書と多彩で、国リハ在籍中に覚えたブラインドテニスは今でも続けているほか、失明する前からの趣味であったスキーにも今でも仲間たちと出かけているそうです。読書は点字図書館からデイジー図書を借りて楽しんでいるそうです。またギターなどの楽器が好きで、最近は三味線の教室に通っているんですよ、と帰り際にこっそりと教えてくれました。
 そうした熊谷さんの旺盛な好奇心や趣味などを通じた仲間作り、「失明しても人生を楽しもう」という前向きな気持ちが熊谷さんのバイタリティの源ではないかと感じました。
 熊谷さんの今後益々のご活躍を心より期待しています。(Y.I)