〔研究所情報〕
高等教育機関における障害学生支援に関する研究
研究所障害福祉研究部 北村弥生


障害学生修学支援ネットワーク事業に協力機関として国リハが参加しました
 平成20年度WHO指定研究協力センターセミナー「高等教育における障害学生に対する生活・学習支援」の開催を機に、独立行政法人日本学生支援機構の障害学生修学支援ネットワーク事業(以下、「ネットワーク事業」。)に国リハが協力機関として参加することとなり、年3回の運営委員会と運営委員会MLに参加し情報交換を始めました。
 「障害学生の支援の充実」は、平成19年12月に決定された重点施策実施5か年計画にも記載されている課題で、日本育英会から発展した日本学生支援機構が「全国の大学や関係機関がネットワークを作り、障害学生就学支援制度の整備を目指すなどの事業を推進すること」などにより、「障害のある学生が学びやすい環境を作る」ことが謳われています。
 「ネットワーク事業」には、全国の大学のうち障害学生支援に経験の豊富な9大学が拠点校として、協力機関として3機関(筑波技術大学、独立行政法人特別支援教育総合研究所と国立障害者リハビリテーションセンター)が参加しています。全国の大学の支援担当者が障害学生についての知見を拠点校に求め情報や支援を得る仕組みです。また、日本学生支援機構は、毎年、障害学生に関する統計調査を行い平成20年度調査では全国の大学・短大・高等専門学校生のうち0.2%の障害のある学生が在籍していることを示すほか、各種の障害学生に関するマニュアル作成や研究を支援しています(http://www.jasso.go.jp/tokubetu_shien/index.html)。

どんな支援が有効なのか?
 米国では、リハビリテーション法とADAで障害者が高等教育を受ける権利を明文化されてから大学に障害学生支援部門が増え、障害学生コーディネイターが学生と教員の間で合理的な配慮を調整しています。障害学生支援コーディネイターの業務は、履修手続きの支援、試験環境や学習環境の調整(物理的環境整備、手話通訳やノートテイカーの派遣など)、寮生活を含めた学生生活での困難に対する相談、州政府から得られるサービスの紹介など多岐にわたりますが、電子図書と情報技術の活用には特に熱心です。視覚障害と発達障害の場合は、学生が持参した教科書を障害学生支援部門で解体し、自動紙送り装置つきの高速スキャナと読み取りソフトで電子図書(テキストファイルやMS-Wordのファイル(に変換して学生に提供します。また、パソコンや携帯端末(iPhoneなど(で電子図書を読み上げたり、学習支援ソフトを活用するための技術講習を行います。上肢障害の学生にもページめくりをしなくてすむ電子図書は有効であるため、州政府から専用再生機の給付を受けることもできます。

研究として何を行うか
 日本でも著作権法37条の改正により、平成22年1月1日から「視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者」と「聴覚障害者とその他聴覚による表現の認識に障害のある物」は「当該視覚(聴覚)著作物について」「複製し、又は自動公衆送信を行うことができる」ことになるため、障害者を対象にした電子図書の作成が行いやすくなります。研究としては、1(どのような障害の人が著作物をどのように電子化することにより、どのような効果があるか明らかにすること、2(障害学生が「合理的配慮」を得る交渉を教員と行う知識と技術を習得する短期研修の開発、3(障害学生の就労移行支援研修の開発などを行っていく予定です。ご関心をお持ちの方は、是非、ご連絡ください。また、関連部門への研究協力のお願いをさせていただくこともあると思いますので、よろしくお願い申し上げます。

末筆ながら、障害学生修学支援ネットワーク事業参加にご尽力くださいました皆様に御礼申し上げます。

(図1)大学障害学生部門の設備。写真の中央にある白い2台の高速スキャナは電子図書の作製に活用されている。
図1:大学障害学生部門の設備。写真の中央にある白い2台の高速スキャナは電子図書の作製に活用されている。
 
(図2)モンタナ大学障害学生部門にある試験用の部屋。
図2:モンタナ大学障害学生部門にある試験用の部屋。
 
(図3)日本学生支援機構 修学支援ネットワーク ホームページ
図3:日本学生支援機構 修学支援ネットワーク ホームページ