〔国際協力情報〕
JICAミャンマー社会福祉行政官
育成プロジェクト短期専門家派遣報告
学院 手話通訳学科教官 小薗江 聡


 2009年9月21日から10月4日の2週間、JICA主催の「ミャンマー社会福祉行政官育成(ろう者の社会参加促進)プロジェクト」の短期専門家としてミャンマーを訪問した。ヤンゴンを経由し、研修先のマンダレーに向かった。ミャンマーは昭和30年〜40年代の高度経済成長期以前の日本にどことなく似ていた。昔、日本で走っていたバスを街で見かけ、驚きとともに懐かしさを覚えた。また、昨年訪れたマレーシアとも宗教面での違いはあるものの、やはりよく似た面を持つ国であった。
 さて、このプロジェクトはろう者の専門家による手話教師の育成が主な目的である。今年の3月には、ミャンマーのろう者が来日し、当学院でも研修を受けている。出発前にJICA側の担当者である小川美都子氏(彼女は当手話通訳学科の卒業生(14期生)であり、世界的に活躍する姿を教官として喜ばしく感じた)と打合せを行い、日本での研修の成果を踏まえて、さらに専門的な知識と技能を習得させるためのカリキュラムを用意した。
 しかしながら、現地での研修が始まり、実際に手話指導の模擬授業を行ってみると、手話教師にとって不可欠なインタラクション(手話教師と学習者の自発的で自然なやりとり)の技術が十分でなく、またその重要性についても理解できていないことが明らかになった。その基盤となるスピーチの能力もきわめて不十分であり、予定したカリキュラムを一部変更せざるをえなかった。受講者に5分程度のスピーチを課し、それをティーチャートーク(学習者向けの話し方)のレベルまで高めるなど、スピーチやインタラクションの技術の向上を目的としたトレーニングを追加した。
 今回の研修では、可能な限りミャンマー手話で指導することを目指した。来日時の研修では、通訳を介して日本手話で指導したが、やはり受講者の母語によって指導するのが理想である。昨年マレーシアでも同様の研修を行い、可能な限りマレー手話で指導したが、受講者の母語による指導が効果的であることを実感した。そこで、マンダレーに到着するまでの間に、同行した小川氏や、2日間滞在したヤンゴンろう学校の児童達からミャンマー手話を必死に学んだ。もちろん十分とはいえないが、ミャンマー手話で指導をすることによって、効果的な指導ができただけでなく、現地のろう者との絆も深まったと思う。
 マンダレーでの研修を終え、ヤンゴンに戻ってJICAへの報告を行った。その際、日本大使館の鈴鹿参事官が出席され、研修について説明させていただく機会を得た。参事官は本プログラムに大いに関心を示され、手話教育のみならず、手話言語に関するさまざまな質問をいただいた。
 2週間の研修を通して、受講者は手話教育に関する専門的な知識や技能の重要性に対する理解を深め、意欲的に学習に取り組んだ。私自身もまた、指導者として自分自身を見つめなおすよい機会となった。さらに、本学科では毎年「ダスキンリーダーシップ研修」として海外のろう者を受け入れているが、当学科として、このような国際交流を今まで以上に充実させていきたいと考えている。
 また、このプロジェクトに関わり、アジア諸国では手話教育がまだまだ整備されていないことを痛感した。今後も、このようなプロジェクトに積極的に参加し、海外支援に携わっていきたいと思うと同時に、海外支援ができるような日本のろう者の育成にも携わっていきたいと思う。
 最後に、同僚をはじめ皆様からのご支援・ご協力のおかげでこうしてミャンマーでの活動を終えることができたことを心より感謝申し上げたい。

(写真1)授業の様子   (写真2)受講者との写真
授業の様子   受講者との写真