〔病院情報〕
病院紹介シリーズ⑳「作業療法部門」
 


 10月7日から9日までの3日間、「高位頸髄損傷の作業療法」をテーマに、センターが主催する作業療法士研修会が開催されました。当院の作業療法士は、日々の臨床業務に加え、この研修会の講師も務めております。研修会の受講者は全国各地から参加されます。一昔前は脊髄損傷関連の研修では、リハビリテーション専門の施設や病院からの参加者が大半でした。しかし最近は一般病院からの参加者が増加しているだけでなく、介護老人保健施設など高齢者を対象とした施設からの参加者も増えております。
 少子高齢化に加え、安全性の向上により交通事故やスポーツ外傷による若者の頸髄損傷者が減少する一方で、高齢かつ重症化した頸髄損傷者への対応が多くの施設で求められています。作業療法では、頸髄損傷の中でも高位の障害に関しては、学校の授業ではほとんど触れられることが無く、まして高齢者ともなりますと、必ずしも従来いわれてきた「残存筋の強化」がADL向上のために有効な手段にならないことも多く、臨床経験の浅い作業療法士にとってはどこからアプローチすれば良いのか判断することが困難になることもしばしばです。学校で習わなかった、教科書には載っていない対応が求められはじめたことにより、参加者の所属施設も変化してきていると考えられます。
 我々は、損傷部位が高位になればなるほど身体を周囲の環境に柔軟に再適応させていくことが重要であると考えています。たとえば、食事動作一つをとっても、残されたわずかな筋力を強化して姿勢を崩しながらガチガチに腕を挙げるのではなく、少しでも安心して腕を挙げられるように姿勢の安定性を優先することなどが、腕の円滑な運動を引き出すだけでなく他の動作の獲得にもつながると考えています。しかしこのような姿勢の見方や上肢の動かし方などは臨床での経験によって伝えられる要素の強いものです。臨床を通して培った、教科書には載っていない部分を他の作業療法士に伝えていくことも一つの使命だと感じています。
 受講者からは、頸髄損傷の他に高次脳機能障害や脳卒中の上肢機能などに関する研修会の要望も寄せられています。作業療法を取り巻く状況を考慮しながら、価値ある研修会を継続できれば幸いです。

(写真1)作業療法士研修会の様子1   (写真2)作業療法士研修会の様子2