〔特別寄稿〕
創立三十周年を迎え、次なる十年への出発(スタート)
総長 岩谷 力



 このたび職員が力を合わせ、天皇皇后両陛下をお迎えし、国立障害者リハビリテーションセンターの創立三十周年記念式典をつつがなく挙行できましたことは大きな誇りであり、喜びであります。三十年間の節目にあたり、私たちは、これまでの業績を虚心に振り返り、センターがどのような社会貢献をすることができたかを検証し、未来にむかって歩みをはじめなければなりません。
 二十周年から今日までの十年間に我が国の社会は大きく変化しました。少子高齢化が進行し、経済成長率の低い状態が続き、国民の経済格差が大きくなっています。医学の領域では、基礎医学が進歩し、患者中心のエビデンスに基づく臨床医学が根付き、リスク管理システムの整備が進むなか、医療現場では様々な混乱が生じてきました。障害者を取り巻く環境も、ノーマリゼーション思想が浸透し、障害理論が発達、当事者の意識が高まりました。障害者施策も障害者基本法、発達障害者支援法や障害者自立支援法の制定などにより大きく変化しました。
 センターを取り巻く環境も変化し、数年来、センターは利用者の減少、重度・重複障害をもつ利用の増加、高次脳機能障害、発達障害など新たな障害の認識などの課題に直面しており、私達はそれらの課題を解決するための研究開発、先進知識、技術の修得、組織再編などが求められています(図1)。
 
(図1)10年間の環境変化
 
 更生訓練所の利用者数を、平成十一年と平成二十一年の八月時点で比べますと、理療教育課程では利用者が175名から81名に、一般リハ課程では146名から69名(職リハ利用者は98名から59名)に減少し、平成十一年には理療教育課程卒業者で89.8%(うち開業71.2%)であった修了者の就職率は、平成二十年には22.8%(開業0)に低下、一般リハ課程職業訓練修了者の就職率も55.1%から43.7%に低下しています。更生訓練所の利用者の原因疾患は、十年前に34.3%を占めていた脊髄損傷が21.3%に減少し、12.4%であった脳血管疾患が34.4%に増加し、その方々の47.6%は高次脳機能障害を有し、高次脳機能障害をもつ利用者は全体の32.0%を占めています。
 私達は逐次これらの変化、課題に対処してきました。措置制度から利用契約制度への移行、自立支援法による指定障害者施設への移行、組織改編、高次脳機能障害モデル事業の実施、名称変更、発達障害情報センターの設置などを行いつつ、リハビリテーション技術、福祉機器の研究開発、人材育成に着実に取り組んで参りました(図2)。しかし、三十年前に設計されたセンターの組織、機能では、時代の流れに対応しきれなくなっています。
 
(図2)国立障害者リハビリテーションセンターの対応
   
 平成十七年度から、更生訓練所を皮切りにセンターの各部門において、あり方についての議論が重ねられ、平成十九年十二月には「国立身体障害者リハビリテーションセンターの今後のあり方に関する検討会中間報告書」が、平成二十年度末には「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会報告」がまとめられました。
 その報告書の概要については、平成二十一年五月の国リハニュース第307号において、紹介しました。これから目指すべきリハビリテーションセンターの姿を端的に表現しますと、障害者の生きがいを支える保健・医療・福祉の総合的研究、人材養成機関であります。
 センターの行動方針は
 利用者主体のサービス提供
 時代の科学を動員した障害研究
 機能的制限の軽減手法の開発
 各部門の一体的・効率的運営
であり、到達目標は
 少子高齢社会における多様な障害に対応するセンター
 先進的リハビリテーション医療実践、政策福祉推進の中核的機関
 研究・開発、実践・検証、人材育成、関連情報発信の統合型機関
 社会生活を支える保健、医療、福祉、就労支援サービスモデルの確立と一体的提供
 戦略的運営体制による効率的な事業展開
であります。
 来年度には国立更生援護機関の一体化、病院の建て替えがはじまります。これらの目標を達成するために企画、情報部門の整備、病院の組織再編、健康管理、臨床研究部門の新設をはじめいくつかの課題が挙げられ、取り組みが始まっております。
 本年十一月に設置されました企画経営本部において、これらの課題を整理し、平成二十二年から二十七年にいたる五年間の事業における中期目標の策定作業が始まりました。職員各位におかれましては、各部門幹事を中心に、議論を深め、目標達成に向けてなすべき活動を具体的に示して下さいますようお願いいたします。
 今、私たちは、国民だれもが人格と個性を尊重し支え合う共生社会の実現を目指して、一体となって次代を拓く事業に取りかかっています。大きな目標にむかって、日常的に業務の改善をはかっていくようお願いいたします。