〔国際協力情報〕
第4回北京国際リハビリテーションフォーラム
研究所 運動機能系障害研究部 緒方 徹


 世界中の関心と熱狂を集めた北京オリンピックから1年、大きなイベントを終えた北京の街はどのような雰囲気なのか、という関心と共に今回は第4回を迎える北京国際リハビリテーションフォーラムへの出席と、それを主催するCRRC(China Rehabilitation Research Center:中国リハビリテーション研究センター)の新病院棟の見学、JICAが協力している中国リハビリテーション人材養成プロジェクトの一環である中国国内の地方3都市を北京とネットワークで結ぶ遠隔教育システムの開設記念式典に岩谷総長に同行し参加する機会をいただきました。
 CRRCに馴染みのない方も多いかと思いますが、北京市の中心(天安門広場)から車で20分ほどに位置し、脊髄損傷を中心に(今回の新病院建設により)病床数1000床を超える中国のリハビリテーションの拠点施設で、今年で開設21周年になります。CRRCの一角にある資料展示パネルには、国リハ名誉総長の津山直一先生が工事用ヘルメットをかぶりCRRC建設予定地を視察されている当時の写真が掲示されており、CRRCと国リハの結びつきの深さを感じさせます。岩谷総長曰く「昔はあたりを犬が駆け回っていた」というCRRC周辺も北京中心部からの地下鉄が整備され、車道には多くの外国車が行きかっています。中国社会ともに発展していったCRRCですが、人材育成面など国リハをはじめ日本との結びつきが強く、病院内では国リハで研修を受けた経験を持つスタッフから何度も声をかけられました。活気に満ちたCRRCの現状は、国際人材交流に尽力された方々の20年間の成果といって過言ではないと思います。
 CRRCの病院と日本国内の病院とでハードウェアとして大きく異なる点はあまりないと感じましたが、驚かされるのは院内を行き来する人の多さでした。理学療法は一人あたり大人は一日45分と決まっているそうですが、部屋には100人を超えようかという人でにぎわっており、さらに部屋の外には次の時間帯で訓練を受ける人々が順番待ちをしていました。よくよく見てみるとスタッフでも患者でもない、患者家族が一緒に来ているケースが多く、活気の原動力になっているようでした。訓練を受けている多くは入院患者で3ヶ月程度の入院の後、自宅にもどってからも訓練ができるよう家族に参加してもらうことは必須のことのようです。理学療法の内容自体は一見したところ一般的なものとの印象を受けましたが、訓練に使うトレッドミルなどはかなり古い機器を整備しながら使っている様子がうかがえました。新たな病院棟のオープンを受けて、今後ますますCRRCが中国のリハビリテーションの中心的役割を担っていくことが期待されます。
 そのCRRCが主催する国際リハビリテーションフォーラムは今年で4回目を迎え、ヨーロッパやアメリカからの招待講演者も交えて脊髄損傷を中心に多彩なジャンルをカバーして行われ、開会式では岩谷総長も挨拶に立たれました。招待講演の中では特にCRRCが中心になって行っている慢性期脊髄損傷患者に対する臍帯血細胞移植の臨床治験報告が印象的でした。これまでも中国では北京首都医科大学での脊髄損傷への細胞移植が行われていましたが、本研究は段階的な臨床治験のプロセスを踏んでいることが特徴です。現在、有効性検討の段階が進められていますが、この治験も慢性期脊髄損傷患者の新規入院患者が年間数百例にのぼるCRRCだと単施設でしかも短期間で行えてしまうところが、日本の状況と著しく異なる点です。脊髄損傷治療に関する新たな知見がこのCRRCから世界に発信されるようになるのも遠い未来の話ではないでしょう。
 また、筆者は国際リハビリテーションフォーラムの分科会にて国リハにおいて取り組んでいる受動的歩行訓練の生理学的データの発表を行いました。そのセッションでは主として北京エリアの脊椎外科医が集まり、各病院の症例を持ち寄っての検討会も行われていました。症例を中心として、保存治療と手術療法、あるいは手術術式の選択、を議論していくスタイルや内容は日本のそれと同様のものでした。また、近年では脊椎手術領域で多くの医療訴訟が生じていることも紹介され、そうした医療事情も急速に変化しつつあることが伺えました。
 短い滞在期間の中でしたが、CRRCのスタッフのご好意で万里の長城に足を運ぶこともできました。平日にもかかわらず国内外からの観光客で賑わっており、長城に登る入り口も数が増え、周辺の衛生状況も非常に良くなっている様子でした。中国の長い歴史の中で変わらず存在し続ける長城と、急速に発展を続ける北京の対比もこの国の奥深さを教えてくれるようでした。
 最後になりますが、事前の準備から当日の説明や、学会での通訳まで手配をしていただいた李センター長を始めCRRCのスタッフの方々と、国リハのスタッフの皆様に御礼を申し上げます。

(写真1)今回披露された新病棟の外観   (写真2)大勢の患者さんとスタッフが訓練を行っている理学療法室
今回披露された新病棟の外観   大勢の患者さんとスタッフが訓練を行っている理学療法室
     
(写真3)当日展示されていた中国リハビリテーション研究センター創設時から今日までの両センターの協力を示したパネル
当日展示されていた中国リハビリテーション研究センター創設時から今日までの両センターの協力を示したパネル