〔お知らせ〕
総合リハビリテーション賞の受賞について
 


 このたび当センター病院看護部看護師道木恭子さんが医学書院の「総合リハビリテーション賞」を受賞されました。受賞論文は、『脊髄障害女性の妊娠・出産に関する調査研究』(総合リハ36:701-706,2008)で、脊髄損傷および二分脊椎による脊髄障害がある女性56人の妊娠・出産の現状やさまざまな問題に関する調査研究をまとめたものです。その授賞式が去る9月30日に医学書院本社にて行われました。
 受賞にあたり、道木さんよりこれまでの調査研究のあゆみなどについてご寄稿いただきましたのでここに掲載いたします。

総合リハビリテーション賞を受賞して 〜これまでの歩み〜

 
道木 恭子

 今回、医学書院から総合リハビリテーション賞をいただきました。選考委員の先生方からは、「脊髄障害女性の妊娠・出産に関する国内初めての研究であり、10年間にわたる貴重なデータの集積であること、当事者の問題が医学的な面だけではなく、日常生活、心理面まで広く捉えられていること、今後の研究に期待していること。」が選考理由であるとの励ましのことばを頂きました。
 私が、脊髄障害の女性の妊娠・出産について研究を始めて10年になります。きっかけは、泌尿器科外来にいたころ、脊髄損傷の女性から、「結婚を申し込まれているけど、私は子どもが生めるの?結婚していいの?」と相談を受けたことでした。私は、生半可な知識で答えてはいけないと思い、勉強を始めました。当時入手できた文献は、欧米の文献がわずかと、国内では症例報告の文献が7本だけでした。とりあえず、勉強したことを伝えたのですが、牛山先生に、「自分のデータを持たないと、人に指導はできない」と厳しい指導を受け、その言葉から研究者としてスタートしたように思います。先ずは、脊髄障害で出産経験のある人を見つけて会って妊娠中の様子、分娩経験などについて話を聞きました。次に、その人に出産経験者を紹介してもらって、また会いに行くという形で調査を続けました。しかし、出産経験者を見つけることは容易ではなく、パラリンピックの選手の協力で、北海道から九州まで広い地域で経験者を探すことができました。ようやく遠方に出産経験者がいることがわかったのですが、会いに行く資金がないため、電話と手紙で話を聞きました。そうこうしながら3年かけて30名の人から話を聞くことができました。次に“このデータをどうまとめて、どう伝えればいいか?”が大きな問題でした。現場の看護 師の私にとって、学会や論文は無縁でしたから、伝え方がわかりません。困っていた私を大学院に導いてくださったのが初山先生でした。しかし、大学院に入学したものの、“英語の論文は読めない、統計学はちんぷんかんぷん”の私に看護学の教授は、「何しにきたの?」と厳しく、さらに「脊髄損傷なんてわからないし、車いすの女性が子どもを産むことも想像できない」と指導が受けられない状態でした。そこを初山先生がまた救ってくれました。「ひとつの研究には10年かかるものです。10年たてば、きっとあなたの話を聞いてくれる人がでてきます。」「自分がやりたいことは頭をさげてでもおやりなさい。」先生から頂いた言葉は今でも心に残っています。博士過程の途中で、先生が亡くなられた時はショックが大きく、研究も一時放り出してしまいました。しかし、拾ってくれる神様はいるもので、岩谷先生が二分脊椎症について指導し、二分脊椎症協会とのつながりをつけてくださったおかげで、新たな研究に踏み出すことができました。そして以前、国リハにいらした木村哲彦先生、陶山先生、また、国際医療福祉大学大学院の先生方が、もう一度頑張るようにと励まし、研究指導をしてくださいました。国リハでは横田看護部長をはじめ看護師の方々、訓練部や研究所の方々が専門分野からの貴重なアドバイスをくださいました。こうした恩恵も初山先生が残してくださった財産だと深く感謝しています。
 現在は、これまで知りえたことを、当事者や医療関係者の方々に伝えられるよう「妊娠・出産マニュアル」の作成に携わり、月に1回の相談窓口を担当させていただいています。
 今後の目標は、障害のある方々のセックスカウンセラーになることです。現在、性科学学会でカウンセラーの認定資格をとる勉強を始めましたが、5年以上はかかるので、諦めずにマイペースで続けていきたいと思います。



(写真)「第17回総合リハビリテーション賞」受賞式(医学書院本社)
「第17回総合リハビリテーション賞」受賞式(医学書院本社)