〔国際協力情報〕
平成21年度JICA
補装具製作技術コース研修実施報告
研究所 補装具製作部 久保 勉


 平成21年9月24日から12月3日までの約2ヵ月半、JICA補装具製作技術コースの研修が行われました。今回の研修員はコロンビア、ドミニカ、フィジー、ミャンマーから第一線で補装具の製作を行っている4名が参加しました。いずれの国も義肢装具士という資格制度がなく。また、義肢装具を体系的に学ぶための教育機関もありません。ほとんどが他国で学ぶか、あるいは徒弟制度の中で技術を身につけています。この研修コースは指導者の育成という目的もあり、帰国後、指導的立場となって技術伝達が行えるように、理論に基づいた知識と技術の習得をめざす研修プログラムになっています。
 研修内容は、大きく座学と実技に分かれます。そして製作技術だけでなく、幅広い知識を得るために、義肢装具メーカ、小児療育センター、リハビリテーション病院、義肢装具士養成校の見学、さらに国際福祉機器展や日本義肢装具学会などに参加します。座学では、人体の解剖や運動学、リハビリテーション医学、義肢装具学など義肢装具に関連する基礎について、それぞれ各分野で活躍されている先生方から講義を受けます。実技は、下腿義足のPTB、TSBという2種類のソケットについて実習を行い、大腿義足では、まだ研修員の国では普及していないIRC(坐骨収納型)ソケットの製作適合を学びます。採型、仮合わせ、仕上げまで切断者の方にモデル協力をしていただき、実践さながらの実習を行います。また、今回は2日間ではありますが、義手についても実際の義手ユーザーの方に協力していただき、採型のデモンストレーションや能動義手、筋電義手などを学ぶ機会も設けました。
 実習開始当初は、環境や材料も違い、戸惑う場面もありましたが、皆さんベテランの技術者であり、直ぐにコツをつかみスムーズに実習をこなすことができました。ある研修員は、裁断刃の代わりに使えなくなったノコギリの刃から、わずかな時間で切れ味抜群のナイフを作って見せてくれました。今や何でも手に入る日本において、私たちが忘れかけている事を思い出させてくれるような出来事でした。彼らの国では今回の実習で使用した同じ材料や道具が手に入らない事も多く、日本の環境で製作技術を学んでも活用できないのではないかという指摘もあります。しかし、研修員は常に自国での環境を想定し「他の材料でも可能か」、「他に方法はないか」など考えながら実習に臨んでいました。このような姿勢を見る限り、帰国してもこの研修を土台とし十分な成果を上げられると確信しています。研修中の講義、実習は基本的に英語で行われますが、微妙なニュアンスは英語が母国語でない国の人には、なかなか伝わらない事も多くあります。今回の研修でもスペイン語圏の研修員が英語からスペイン語への通訳を行ってくれる場面もあり、お互い助け合いながら良いチームワークで実習を進めることができました。長い研修の間には文化や習慣の違から研修員の間に軋轢が生じてしまう事もよくあります。研修員同士が協力し合う事もこの研修を成功させる大きな要因になっています。
 研修も終り頃になると製作技術の事だけでなく、各国の医療や福祉制度の問題についても活発な議論が交わされました。日本に関しては「清潔で美しい、何よりも日本の医療は充実してうらやましい」という感想が聞かれました。ほとんどの国ではまだリハビリテーション医療が確立されていません。自国に戻り補装具の事にとどまらず医療全体の問題に取り組むと意欲を燃やしていました。
 最終日評価会では、各人に修了証書が授与され、一つの仕事を終えた充実感と、これからが本当の始まりであると決意を新たにしていました。夕刻から開かれた送別のパーティーには、休日に日本文化を紹介していただいた国際交流団体「所沢インターナショナルファミリー」の皆様やJICA職員の方々、当センター職員が参加し、お別れの挨拶や色紙の交換が行われました。母国の踊りや歌も披露され笑あり、別れを惜しむ涙ありと思い出に残る会となりました。研修員のビクトルさん、イラリオさん、モセセさん、ミンタントゥンさん、この研修で学んだことを生かしパイオニアとなってご活躍されることを一同心から願っております。


(写真1)モセセさん(フィジー)
モセセさん(フィジー)
  (写真2)ビクトルさん(コロンビア)
ビクトルさん(コロンビア)
(写真3)ミンタントゥンさん(ミャンマー)
ミンタントゥンさん(ミャンマー)
  (写真4)イラリオさん(ドミニカ)
イラリオさん(ドミニカ)